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雨が降る屋上で


 最近サスケくんが構ってくれないなぁ。

 塾や家のことで忙しいのは知っている。お兄さんが身体を患ったとかで、お父さんは出張だしお母さんは仕事だしで看病できるのがサスケくんしか居ない。その上お兄さんはちょっと目を離すとすぐに自分でどうにかしようとするらしいから、毎日心配そうにしている。授業や塾の課題もあるから、私なんかに構っている余裕など無いのだ。お昼休みも、お弁当を片付けるとすぐに伏せて寝てしまう。看病で削れた時間を、睡眠時間を削ることで補っているのは、聞かなくても分かった。

「……」

 サァサァと降る雨を目の前に座り込む。屋上の出口の、小さな屋根の下。サスケくんは既に帰ってしまったけど、私は家に帰っても誰も居ないし、やることと言えば宿題くらいなので、こうして暇を持て余していた。もう数ヶ月で受験の時期なのだけど、狙っている公立高校の偏差値には十分に足りているし、別段理解できない教科も無い。サスケくんも本当は私立に行きたかったようだけど、お兄さんの治療費もあるので、より学費の安い公立で妥協するということだった。

「……」

 そうして同じ高校へ行けることになったのだけど、サスケくんのお兄さんが病気になったおかげで、と少しだけ、少しだけだけど、嬉しく思ってしまったのは否定できない。私という人間は、本当に醜く、汚い根性をしているなぁ。一緒に心配する素振りを見せたり、お見舞いに行ったりしておいて、腹の中はこんなにも黒く濁っている。いやないきもの。


 抱えた膝に顔を埋め、風に運ばれた柔らかい雨を被りながら、深く溜息を吐いた。肌寒くなり始めたこんな季節・時間帯に、雨に打たれ続けるなんて。おかげで体はひどく冷えている。これで私まで体調を崩してしまったならば、サスケくんの心労は余計に増すだろうと分かっていて。それでも自分を戒めずには居られなかった。ああでももしかすると、ただ心配されたいだけなのかもしれないなぁ。最低だ。

「…………サスケくんは、……きっとこんな女の子は嫌いだね」

 苦笑いを、できていたかは分からない。口から空気だけを零して、唇を噛んだ。じわりと目の奥が熱くなる。

 その時急に、屋上の扉がギギィと開いた。驚いてそちらを振り返れば、そこにはサスケくんの姿。だけど、あれ? サスケくんは家に帰ったはずなのに。ごしごしと目を擦って僅かに浮かんでいた涙を拭うけれど、見間違いではなかった。

「……」
「こんなとこに居たのか……つかびしょ濡れじゃねーか、こっち来い」
「あ、え、……うん」

 サスケくんに手を引かれて屋内に入る。サスケくんは荷物こそ持っていないものの、格好は制服のままで、一度家に帰ってまたすぐに戻って来たのだろう事を窺えた。疑問に満ちた顔をしていたからか、サスケくんは私が聞かなくても話しだした。

「……兄貴がな、……ちゃんとお前にも構ってやれって」

『サスケ、最近あの子とはどうしてるんだ』
『……別にいつも通りだ』
『オレがこうなってから、付きっきりだろう。陰で寂しがってるんじゃないか?』
『……』
『オレのことは大丈夫だ。今日は具合も良い』
『……んなこと言って、無理して悪化させんなよ』
『ああ。行ってこい』

「……」

 瞬きを数回。そして自分は本当に本当に、嫌な人間だなあと思い知る。

 私はお兄さんが病気になったおかげでサスケくんと同じ高校に通えると喜んだり、お兄さんが病気になった所為でサスケくんとの時間が減ったと妬んだりしていたと言うのに、お兄さんは私のことまで考えて、サスケくんに助言してくれた。天と地ほども差がある。
 そしてサスケくんは、家に行ったり学校中を回ったり、私を捜して歩き回ったのだと言う。(屋上の階段まで来て居ないと思って引き返し、他の場所にも居ないから再び来てドアを開けたらしい)それもまた申し訳なくて、どこまでも煩わしい人間だと自己嫌悪する。

「風邪引くぞ、早く帰って風呂入れ」
「……」
「……碧?」
「……うん、……」
「……」

 サスケくんの優しさが痛いよ。



(20101030)


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