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誕生日とかの話


「そういやお前、誕生日っていつなんだ?」
「え?」

 唐突に掛けられた質問に、一瞬考える。どうしてそんな話になったんだろう。
 すっかり寒くなって、一応の最終下校時刻の6時にはもう真っ暗だ。吐く息も白く、素手でいるとかじかんでしまう。持っていないと言ったらサスケくんがくれた、お下がりの黒い手袋が暖かい。

「えっと……4月の、……えーと、26……? 28? ぐらい」
「……間はどこ行った」
「“6”と“8”って形が似てるから……」

 そういう問題なのかよ、とサスケくんが呆れる。そう言われても、特別その日を意識することが最近なかったから。
 街灯の照らす道を二つの足音がずれながら進む。サスケくんは手が寒いのかポケットに手を突っ込んでいる。でも半ズボンで、晒し布を巻いているとは言え寒そうだ。

「うーん……あっ」
「?」
「そうだ、26日だよ」

 思い出した。確かその日に、サスケくんが声を掛けてくれたんだ。神様ありがとう悪い事ばっかりするんじゃないんだねと思った記憶がある。最高の誕生日プレゼントでした。

「4月26日だから、えっと、牡牛座だね」
「……っぽいな。のんびりしてるとこあるからなお前」
「そうかな……。サスケくんは誕生日いつだっけ」
「7月23日」
「そうなんだ……ん、23日……って、あれ……?」

 確か夏祭りに行った日ではなかったっけ。でもそれなら言ってくれただろうし、もしかすると思い違いかもしれない。……どうなんだろう。

「どうした?」
「あ、ううん、何でもない……サスケくんの誕生日、お祝いできなかったんだなぁ、って」
「お前のもな」

 私の誕生日なんて取るに足らないものをサスケくんに祝ってもらうなんて、良いよ、毎日一緒に居られるだけで充分すぎるくらい幸せだから。でも言ったらまた呆れて小突かれるだろうから言わないでおいた。

「サスケくんは獅子座なんだね。星座までカッコイイねすごいねサスケくん」
「……そうか?」
「うん。サスケくんはすごいよ」
「……(そっちなのか)」

 獅子と言えば強くてかっこいい。プライドも高くて、サスケくんにピッタリだなあ。こう、孤高の存在という感じ。ガオー!

「それに比べて牡牛って……なんか迫力ないね」
「良いんじゃねえか、別に。第一、お前に迫力があってもな……」

 確かにあっても意味ないなぁ。誰かを脅かそうなんて思わないし。
 納得して、一息吐く。もうすぐ家に着いちゃうな。また明日、って言わなきゃいけなくなる。明日に絶対に会えるか分からないのに今日はバイバイしなきゃいけない。寂しいな。

「……サスケくん」
「……ん?」
「今度、サスケくんの誕生日、お祝いしよう。遅くなっちゃったけど」
「……俺はいい。お前のほうこそ、祝わせろ」
「サスケくんのだよ」
「お前のだ」
「サスケくんだってば」
「お前だっつってんだろ」
「……」

 むう、と眉間に力が込もる。サスケくんの誕生日のほうが大事なのに。サスケくんは引く気がないみたいだし、私もない。サスケくんはサスケくんの尊さを分かっていない。

「サスケくんの誕生日のほうが重要だもん……」
「……バカかお前。言ってんだろうが、どっちが上も下もねーって」
「……むぅ」
「だから、しょーがねえから両方やれば良い」

 サスケくんの提案にはっと顔を上げる。サスケくんはまた私を平等だと言った。そんなわけはないのに、……サスケくんはやっぱり優しいなぁ。
 家が見えて来た。二階の私の部屋の窓から、点けっぱなしの明かりが漏れている。

「碧」
「、!」
「いつやるんだ。誕生日祝い」

 私の左手をサスケくんの右手が取って、まるで何でもないみたいにサスケくんは話す。びっくりして繋がった手を見下ろして、じわっと顔が熱くなるのを感じる。手袋越しなのが惜しいとかずっと繋ぎたいと思ってたのが叶って嬉しいとか思う私、とんでもなくおこがましい。

「えっと……」
「……そういやもうすぐ、アレだな」
「?」
「クリスマスだ」
「あ……」

 そういえばそうだ。気付けばもう12月で、これだけ寒いのも頷ける。素手のサスケくんと、サスケくんに貰った手袋を嵌めた私。なんだか申し訳ないけれど、嬉しいと思ってしまう。サスケくんの手袋と手に包まれた、贅沢過ぎる左手。ちょっと寂しいけど鞄を掴んで我慢の右手。
 門の前で立ち止まって、サスケくんはこちらを振り向いた。私はまだ手を見下ろしている。自分の口から出る白いもやが見える。きっとサスケくんの口からも。

「……クリスマス、……良いの?」
「……何が」
「…………あたし、で」
「……。お前以外誰が居るんだよ」

 溜息の音がして、サスケくんから白い空気がもんやりと広がるのが見えた。だ、だって……クリスマスって、恋人的に大事なイベントだから、良いのかなぁって思って……。
 良いも何も自分たちが恋人同士だと言うことは理解しているつもりだし、それでとてもとても幸せな思いをしているのも事実。だけれどやっぱりどこか遠慮してしまうし、引け目を感じて本当に良いのか確認したくなってしまう。サスケくんは、いい加減飽きたようだけど。

「そろそろやめないか、その思考」
「……無理かな」
「おい」
「だって、……染み付いちゃってるみたいだよ、もう」
「別に不遜になれって言ってるんじゃねーんだからよ」
「もう充分不遜になってるつもり、だもん……」
「……」

 どこがだ、と溜息が言う。ええぇ、頑張ってるんだけどなぁ。手を繋ぎたいなって思ったりとか、一緒に帰るのを断らなかったりとか、でっ、デ……お出かけしたりとか。充分思い上がってるし傲慢だと思う。……違うのかなぁ。

「まあ、いい」
「……ごめんなさい」
「じゃあクリスマスで良いな、お前と俺の誕生日祝い」
「……なんか、いっぺんにやっちゃってもったいない気もするけど」
「で、年越しも正月もやるからな」
「えっ! ……い、良いの? 一緒に居て」
「……阿呆」

 何度も同じ事を繰り返す気か、と軽く小突かれる。ぅっ、……結局小突かれちゃった……。
 小突かれた額を右手で撫でながら、サスケくんをちらりと窺う。するとサスケくんはほんのりと頬を染めていて、目が合うと逸らされてしまった。寒いからなのかと思ったけど、もしかして照れているのだろうか? 釣られて私も照れてしまって、また俯いて繋がった手を見下ろす。

「……年末年始ぐらい、一人で過ごしたくないと思っても良いだろ」
「……賑やかなテレビ、一人で見るのってつまんないもんね」
「カウントダウンなんかくだらないと思ってたが、……お前となら悪くない気がする」
「除夜の鐘も一緒に聞けるかな」
「初詣も行くからな」
「ホントに? ……嬉しいな」

 照れ合ってあまり会話が繋がっていないけれど、手は繋がったままでなんだか、嬉しい。

「……イベントいっぱいだね」
「……そうだな」
「なんか、今までは全然、楽しみだとか、自分に関係のあることだと思わなかったけど、この時期って、こんなに忙しいんだ」
「なんせ師走だからな」
「あは、意味分からないよ」
「……楽しみか?」
「うんっ、すっごく。うれしいなぁ、なんだか、すごく…………これが普通なのかな」
「たぶんな」
「じゃあすごく損してたんだ、今まで」
「……そうだな」

 おそらく普通の人生は辿ってなかっただろうから、私もサスケくんもきっとたくさん楽しいことを見逃して、やり逃してきてる。誕生日も、クリスマスも、年末年始も、何か特別なことをしたりはしなかったし、特別な日だと意識したことも少ない。遠い記憶に、微かに誕生日ケーキを食べたような思い出があるけれど、もう夢のようなものだと思っていた。誕生日のお祝い、されても良いんだ。

「楽しみだなぁ」
「ああ、楽しみにしてろ」
「でも誕生日とかクリスマスって、……何したら良いのかな?」
「……。楽しいことして、嬉しい気持ちになれば良いんじゃねえか。要は楽しめば良いんだろ」
「そっか」

 サスケくんをお祝いして、サスケくんにお祝いしてもらって、いっぱい楽しいことをして、幸せになれば良いんだね。何をしてあげようか、何かプレゼントをあげたいな、どこかにお出かけしても良いかもしれない。まだクリスマスまでは日があるけれど、今から毎日わくわくしてたら、わくわくし過ぎて当日に疲れ切ってしまうかもしれないから気を付けなきゃ。と思いながら、すでにかなりわくわくしてしまっている。

「えへへ、」
「……」
「クリスマス、早く来ないかな」
「……はあ」
「?」
「かわいすぎだ」
「……!」

 急にため息を吐かれたから何かと思えば、サスケくんが近くなって、手が離れて、代わりに体全体がサスケくんに密着した。簡単に言えば、たぶん、抱きしめられてる。
 驚いて、固まって、次いでぶわぁっと顔に血が昇って、熱くなって、何か変な声が出てしまって、サスケくんに小さく笑われて、でもサスケくんも耳が赤くて、さっきかわいいと言われたのを思い出して、また更に熱くなった。

「ぅぇぁあ……」
「……防寒要らずだな」
「さ、さ、さすけ、く、はわ、ちか、」
「……お前、照れる時と照れない時があるよな」
「だっ、ひと、とお、る、よっ!」
「人が居なきゃ良いのかよ」
「はえ、そーゆー、もんだいじゃ、」
「暗いし、誰も居ない」

 さらにぎゅっと抱き込まれて、身動きが取れなくなる。元々びっくりして動けていないけれど、もっと密着したので恥ずかしくて暴れそうになった。でも動けない。サスケくん、力、強いんだ。更に照れる。
 体温が上がったからか、私の口から出る息がさっきまでより白い。肩に顔があるからサスケくんの顔は見えないけど、サスケくんもちょっと暖かいので多分同じように息が白いと思う。自分の心臓がドコンドコンうるさいけれど、サスケくんの心拍も服越しに響いてきて恥ずかしい。本当に、すごく、密着してるんだ私たち。

「さ、さすけく、しんじゃう」
「……」
「ばくはつ、しそうなの、だから、」
「放さないからな」
「! な、なんで、」
「……はなしたくないからだ」

 すごく、嬉しいことを言ってくれてるんだけど、恥ずかし過ぎて照れすぎて、死んでしまいそうだ。だけどサスケくんに幸せにされすぎて腕の中で死ぬのって悪くない、な。息がうまくできない。

「あたし、今しんでもいい、かも、しれない」
「バカ言ってんな、まだクリスマスもやってねーのに」
「あ、あ、そっか、まだしねないや」
「まだ、全然、幸せにしてやれる」
「はつもうで、あ、ねんがじょう書く」
「……年越し一緒に居るんだから年賀状は要らないだろ」

 なんだか自分でも何を言っているんだか分からない。さっきとてつもなく嬉しいこと言われた気がするのによく聞けなかった。頭ぐるぐるしてる。
 サスケくんが溜息を吐いて、少し腕を緩めた。体と体の間にひゅうっと冷たい風が通って、はっと正気が戻る。熱い熱いと思っていたけど、外気はとても冷たかった。

「……混乱しすぎだ」
「っう、」

 おでこを、ピシッと指で弾かれる。さっき小突かれた場所と同じだ。手袋をした右手でそこを撫でながら、小さく深呼吸をする。落ち着かなきゃ。

「……本当はもう少し、抱きしめていたかったが」
「ご、ごめんね……」
「……これで許す」
「ぇ、」

 額を撫でていた右手首を掴んで、腰のあたりを軽く引き寄せられ、ほっぺに小さく、ちゅっと音を立てて、少しかさついた唇が触れた。

「…………さっ、……」
「……ぅん?」
「……さ、すけくん、今、ほっぺに、……ちゅう、した?」
「……ああ」

 した、と、本人がはっきりと断定した所で、火がついたようにぼっと顔が熱くなった。せ、せっかく落ち着こうとしたのに!
 両手で頬を包んで俯いて、正面に居るサスケくんの鳩尾のあたりに目をうろつかせる。すると頭に軽い衝撃があって、それから優しいような乱暴なような手つきで撫でられる。

「……とりあえず、クリスマス、楽しみにしとけ」
「……う、ん」
「あと、もう少し慣れろ」
「が、がんばる、よ」
「……ん」

 撫で終わって、サスケくんの手が離れる。少し名残惜しく思いながら髪を軽く直していると、サスケくんは一歩距離を開けた。

「……」
「……じゃあな」
「あ、……うん、また明日」
「ああ」

 最後に小さく笑って、サスケくんは踵を返す。去っていく後ろ姿に小さく手を振りながら、あっさりとした別れを寂しく感じる。いや、でも、全然あっさりじゃなかったか。抱きしめられたし、キスもされた。クリスマスや年末年始の約束まで取り交わし、随分と濃い時間を過ごした。
 サスケくんが道の角を曲がるまで見送ってから、門に手を掛ける。とりあえず、サスケくんに言われた通り、クリスマスを楽しみにわくわく過ごすだろう。サスケくんが居ない時間も、サスケくんと一緒に遊ぶ時間を思って、きっとあまり寂しくならない。
 まだ少し熱い頬を手袋の手で撫でて、なんだか幸せな気持ちで玄関を開けた。



(20091216)


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