×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
不運じゃなくて不注意


 授業中居眠りをするのが習慣化してしまっているけれど、サスケくんへのお弁当を作るためなので罪悪感も少ない。週末に昼夜逆転を直すように心掛けてはいるけど、週の半ばにはすっかり夜更かしに戻ってしまっていた。

「ふあぁ……」

 お弁当箱の包みを二つ抱えて、屋上へ行くべく教室を出る。飲み物は、隣を歩くサスケくんが二人分持ってくれている。私のはただのペットボトルだけど、サスケくんのは金属性のちゃんとしたボトル。
 寝起きで眠そうにしている私を見て、サスケくんが呆れたような顔をしているのは目に入っている。けれど、込み上げる欠伸を止めるのは難しい。

「また弁当のおかず作りで、か?」
「うん……うっかり入りきらないくらい作っちゃった……」

 お弁当箱の許容量がおかず五種くらいなのに、六つめのおかずを作り終えたところでそれに気が付いた。夢中になると周りが見えなくなってしまうところがあるなぁ、と丑三つ時を過ぎた時計を見ながら反省しました。
 胸の前で抱えていた弁当箱を左右の手にひとつずつ持ち直し、欠伸で滲んだ涙を手の甲で拭う。
「今日の最下位は、おうし座のあなた! うっかりミスに気をつけて!」
 今朝テレビで流れていた星座占いを思い出す。占いで教えてもらう前に、深夜にミスを起こしてしまったのでどうしようもない。

「ふあ……わ、」

 右目に続いて左目を擦る間に、また欠伸がもれる。その時、爪先が廊下につまずき、立て直そうとしたもう片方の足ももつれて、体が前に傾いた。
 こける ──!

 そう思ったのに、私は床にぶつからず、そのかわりに、ガンゴゴン! とけたたましい音が足元から響いた。

「っぶね……」

 サスケくんが咄嗟に支えてくれたらしく、私はサスケくんの左腕に抱き留められていた。
 ころびかけたことと突然の激しい音にびっくりしてドキドキしたままでいると、その手で軽く体を抱き起こされたから、慌ててサスケくんから離れた。

「あ、ご、ごめん、ありがと……」
「気を付けろ」
「はい……」

 左手に持っていた金属製のボトルを手放してまで助けてくれたらしくて、私がちゃんとひとりで立てていることを確認したら、さっきすごい音を立てて廊下に転がったボトルを拾いに行った。たしかにあれを持ったままだと、あのボトルが私に強打していたかもしれないので、サスケくんの瞬時の判断力に舌を巻く。

「(サスケくん、すごい……)」
「…………」
「あっ、ボトルに傷ついちゃったかな。ごめんね、本当にごめんね」
「大丈夫だ」

 あんな音を立ててしまったから、廊下や近くの教室から、何事かという視線が集まっている。サスケくんはそれを睨み回しながら、さっきまでより早足で屋上へ向かって歩き出した。
 それを追いかけて小走りしながら、まだ残る抱き留められた感触に、勝手に意識が移る。

「(……ちょうど、胸のところに手が……)」

 とはいえなにか不快感を覚えたかというとそうでもなく、ただただ「偶然そこを支えることになったんだなぁ」と思うばかりで、むしろ変なところを触らせてしまって申し訳ない気持ちだ。サスケくんは嫌ではなかったろうか? 何も言わずに歩いているけれど、内心不愉快に思っていないだろうか。
 今朝の占いのアドバイスは日付が変わるまで有効であると胸に刻んで、すっかり目が覚めた体で、しっかりと床を蹴った。




***



 ガンゴゴン!
 転倒しかけた碧を受け止めるために手放したボトルが、文句でも言うように激しく鳴り響く。とにかくびっくりした様子の碧を軽く抱き起こして、「気を付けろ」と短く注意する。
 金属のボトルを拾うために碧に背を向けながら、碧に触れた左手に否応なく意識が向く。

「(…………胸を、さわってしまったんじゃないか?)」

 手のひらに残る感触はしかし、背中にでも触れたのかと錯覚するほど薄く硬かった。事故とはいえ性的部位に触れてしまったことに罪悪感を覚えるかたわら、その痩せた身体に対する憂慮が募る。

「(俺に弁当を作ってる場合かよ)」

 二次性徴前とはいえ、あまりにも“やわさ”がなかった。骨に直接ぶつかったかと思うほどで、後ろめたさよりも心配がまさってしまう。確かに前々から細い小さいと思ってはいたが。
 ボトルを拾い上げた体勢のまま考え込んでいると、「ボトルに傷ついちゃったかな、ごめんね」とどうでもいいことを謝られた。

「大丈夫だ」

 いや大丈夫じゃない。
 罪悪感の揺り戻しが来た。悪いことをした。少しでも嫌な気持ちになっていないだろうか。嫌なことを思い出しはしていないだろうか。
 不安な気持ちを誤魔化すように、八つ当たり気味に野次馬を睨み回しながら、再び屋上へと向かう。
 後で念のため、それとなく聞いてみるか。いやそんな蒸し返すようなことはできない。
 弁当を食べる間、そっと様子を見るしかなさそうだ。


 碧の弁当箱は、俺の弁当箱の半分の大きさしかない。厳密に言えば、俺の二段弁当の一段分よりもさらにひとまわり小さいので、半分よりもう少し小さい。そんな弁当箱の中身は俺のものほど詰まっておらず、にもかかわらずそれを少し残そうとしていたので、さすがに「ちゃんと食べろ」と口出しした。



(201125)
ルナさんからのリクエスト
本編46話のあとくらい


 []      []
絵文字で感想を伝える!(匿名メッセージも可)
[感想を届ける!]