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続・夏祭り


「わたあめ美味しいよサスケくん」
「そうか、良かったな」
「うんっ」

 私服に着替えて改めて屋台を回る。どうやら念願だったらしいわた飴も食べられて嬉しそうににこにこ笑う碧を見て、俺も嬉しくなる。折角似合っていたのに浴衣ではなくなってしまったが、それでも碧が楽しそうにしているなら良い。その笑顔が何よりも嬉しいプレゼントだ。

「サスケくんも食べる?」
「いや、俺は甘いものはダメだ」
「あ、そっか……。口の中でスーッと消えちゃって、面白いよ、わたあめ」

 邪魔になりそうな菓子詰め合わせの袋やうさぎのぬいぐるみは置いて来たようだ。うさぎを洗っていたから遅れたと言っていたから、今頃あのぬいぐるみはどこかに座って乾くのを待っているのだろう。ちなみに碧の浴衣は神社に来る途中でクリーニング屋に預けた。
 りんご飴の屋台を見付け、碧と向かう。しかしわた飴がまだ半分くらい残っているので、欲しいけどどうしよう、と迷っている。

「なら食べ終わるまで持っといてやるよ」
「ホント? じゃあ……この、1番小さいの下さい」
「はいよ、毎度ありー」

 買って受け取ったのは、姫りんごのりんご飴。確かに普通サイズのリンゴ丸々一つを碧が食べ切れるとは思えない。それにしても、かわいらしいサイズの、小さなリンゴだ。碧に似合う。棒を持ってくるくると回しながらそんなことを思う。早くりんご飴を食べてみたいのか、やや急いでわた飴を食べる碧。んなことしたら口の周りがべたべたになるぜ。

「あとは何をしてなかったか……」
「えっとね、金魚すくいと…………あれ、それだけかな」
「もうそんなに回ったのか」
「早いね」
「ああ」

 浴衣の俺と、私服の碧。なんだか俺だけが張り切っているみたいで少し恥ずかしい。(いや、実際張り切っていたのだが) 俺も着替えて来れば良かったか、と零すと碧に「え、もったいないからダメだよっ」と言われてしまった。照れる。
 片手にりんご飴、片手に碧の手。あと少しで終わりだと思うと寂しいが、その分楽しむことにする。まだ遠くで花火の音が聞こえるから、帰り道にも見られそうだ。

「あ、金魚すくい、あそこにあるよ」
「持っといてやるから、して来いよ」
「え、一緒にやろうよ……」
「んなこと言ったって、そんなもん持ったままじゃできないだろ」

 りんご飴を持った手でわた飴を指すと、少しむうっとした顔で考えて、また急いで食べ始めた。そんなに一緒にやりたいのかと、苦笑が漏れる。可愛い奴め。

「食べたっ!」
「……付いてるぜ、口の横」

 案の定わたをくっつけて、指摘してやれば慌てて口の周りを拭いた。しかし拭い切れていないから、親指で軽く擦って取ってやる。指に付いたそれを舐め取ると、碧はカアッと顔を赤らめて俯いてしまった。ベタだなこの展開。

「ご、ごめんありがと……」
「ん。やっぱアメェな」

 やはり苦手だ、甘いのは。だけど今キスしたら絶対甘いだろうなと思うと、何故だか悪い感じがしない。碧が甘いのは良いのか、俺。

 近くの屋台のごみ箱にわた飴の棒を捨て、ようやく金魚すくいの屋台へと向かう。ヨーヨー釣りの時と同じような水槽に、赤や黒の小さな金魚がひしめき合っている。金魚は影になっている場所に集まると何かで聞いたが、本当に隅の方に集まってなるべく影の下に居る。そんなにわちゃわちゃと群れてストレスが溜まらないか、と思うが、群れる魚にそんなことを言っても意味はないな。

「一回ずつ」
「あいよ」

 二人分を払って、ポイを二本貰う。払われてしまって申し訳なく思っているのか、碧の眉は下がり気味。そんな碧にポイを一本渡し、「やろうぜ」と促す。素直に喜べよ、バカだな。後でそう言ってやろうと思う。

「かわいいね」
「ちょっと気持ち悪いがな」
「あは、いっぱい居るもんね」

 銀の器に水を入れ、ポイを構える。得意ではないが、4、5匹ぐらいなら取れる。隅に集まっている辺りでスッとポイを水に入れ、流れるように金魚を乗せてそのまま器にヒョイと入れる。昔挑戦した時より楽に感じるのは、コツを知っているからか。

「あっ、穴空けられちゃった」
「そのくらいならまだ使えるな」
「……あれ、サスケくんすごいいっぱい取ってるね」
「まだ5匹だ」

 楽勝だな。小さい器に次々放り込まれる金魚。赤の中に一匹だけ黒も居る。デメキンに少し暴れられて穴が空いてしまったが、まだ半分以上残っているから使える。碧が隣で小さく歓声を上げて、ぱちぱちと手を叩く。

「すごいすごい!」
「……それほどじゃねーよ」

 10匹目を取ろうとしたら、大分ふやけていたから別の部分にも穴を空けられ、二つの穴が繋がって完全に破れてしまった。惜しかった、あと少しで二桁だったのに。それでもすごいと、碧は器の中を見てはしゃいでいる。碧の器は空で、ポイも既に屋台のおっさんに渡した後のようだ。
 ポイの殻を渡し、器をひっくり返して金魚も戻す。土産に一匹、と袋に入れた金魚を出されたが、断った。家に水槽なんか無いからな。碧も同じ理由で、残念そうに断っていた。恐らくそれ以外に、余計な物を持っていると叱られるからという理由もあるのだろう。
 タオルを借りて濡れた手を拭き、屋台を離れる。「楽しかったね」と本当ににこにこしながら言ったから、手を差し出しながら「ああ」と答える。

「全部回っちゃったね」
「そうだな」
「……ちょっと残念だなぁ」
「……。ん」

 袂に入れていたりんご飴を取り出し、碧に渡す。すると少し落ち込んでいた様子だったのが、ぱっと明るくなった。何と言うか、割と現金だな。

「ちょっと忘れてた」
「あんなに楽しみにしてたくせにか?」
「だって、サスケくんがすごいんだもん。あんなにいっぱい、金魚ヒョイヒョイって」

 少し興奮気味に言うから、あれくらいなら出来る奴はたくさん居ると宥める。そんなに誉められると照れ臭い。

 ヒトゴミをかい潜り、神社の出口へと歩く。飴が人にぶつからないように気を付けながら、甘くて美味しいと、嬉しそうに食べる。鳥居を抜け、休憩でもしているのかまばらに人の座る階段を下りて行く。俺の下駄の音と碧の靴の音。カコカコ、トットッ、と違う音が鳴るのがなんだか、寂しいというか、悲しいというか。最初はどちらも硬い音だったのに、という気持ち。憤り、だろうか。(誰に対するものかは分からない)

「花火、まだ上がってるね」
「みたいだな」

 徐々に喧騒から離れ、花火の『ドン』『パン』という音が鮮明になってくる。建物の陰になって少ししか見えないが、それでも綺麗だ。繋いでいる手を少し強く握られたのは、帰るのが惜しいと、碧も思っているからだろうか。ジャリ、とりんご飴をかじる音がした。






「今日は、ありがとう。いっぱい奢ってもらっちゃった」
「大したことねーよ」

 碧の家の前。まだ食べ切れていないりんご飴を持った碧と、門の前で会話。音のする方を見上げると、未だ続く花火が見える。所々のベランダには、それを観賞する人の姿もちらほら。

「楽しかったな」
「うん、あたしも楽しかった」
「来年も行くか」
「……! 良いの?」
「ああ、当たり前だろ」

 また浴衣姿も見たい。楽しそうに遊ぶ姿もわた飴やりんご飴にはしゃぐ姿も見たい。その時には屋台代くらい素直に奢られているようになっていれば、と思う。心から楽しんで欲しいから。

「……なあ」
「なに? サスケくん」
「一つ、……お願いが、ある」
「……“お願い”?」
「ああ……」

 今日が俺の誕生日だったことは、言わないでおこうと思う。何も用意してないとか、逆にたくさん奢られてしまったとか、気に病ませたくない。とても楽しかったし、いつもより楽しそうな碧の姿も見られた。別段物欲もない俺にとっては、これで充分だ。
 だけど一つだけ、我が儘を言ってみようと思った。さっき思い付いたばかりの、要するに気まぐれ。恥ずかしがるだろうな。恥ずかし過ぎて嫌がるかもしれない。照れながらもしてくれると嬉しい。そして俺も照れるだろう。

 そんな、とっておきのプレゼントを所望する。



「キスしてくれないか」





HAPPY BIRTHDAY!

(20090723)


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