×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

[]      [
素材屋にて


 久方ぶりに人里へ来て、宿屋を探して通りを歩いていた。

「あっ……」

 碧が声をこぼして立ち止まったので同じ方向を見れば、なにやら怪しい物が並ぶ店。

「(なんだ……?)」

 無造作に籠に積まれた草、乾燥した蛙のようなもの、瓶詰めされた虫、濁った液体。それぞれにそれなりに良い値段が付いているところを見ると、希少なものではあるようだ。二人分の宿代などかわいらしく見えるものまで存在しており、それらの価値の分からない俺にとっては、とにかく胡散臭いものに見える。

「えっ! あ、すごい、こんなの置いてあるんだ……!」

 しかし碧のリアクションを見るに、おそらく適正価格。薬の調合などに使える材料なのだろう、とは薄々思っていたが、あれやそれらが入ったものを、たとえ俺以外といえど、口の中に入れるのかと思うとぞわぞわと舌や胃が震え上がった。
 あまり真面目に眺めていると気分を害しそうなので、俺は早めに立ち去りたい。後でも良いだろうと碧へ声を掛けるが、夢中で棚を見回して、どんどん中へ入っていってしまった。

「碧」
「丁寧に加工してある……ここの人、詳しいんだろうな……」
「……」
「わ、なにこれ見たことない。面白い薬が作れそう……」

 俺の声も聞こえない様子で、ぶつぶつと独り言をこぼしながら楽しそうに商品を見て回っている。彼女は、ひとつのことに気を取られると他が疎かになりがちな質だ。

「あの薬も作れるし、あれも……あれも欲しい……これなんだろう……あ、これ買わなきゃ……それにこれも……」
「……先に行ってるぞ」

 旅を始めて半年以上、一年未満。あまり一人行動をする機会がなく、薬の材料も減ってきていると言っていた。しかしこの様子では時間がかかりそうだ。
 仕方がないので、一人で先に宿へ行って部屋を取っておくことにする。しばらく沼地ばかりを移動してきたので、清流もなく清拭もできていない。早いところ風呂へ入って、このむずむずとして気持ちが悪いのをなんとかしたかった。





「これ。これ、お嬢ちゃん」

 貯金額と手持ちからしばらくの旅費を引いて、何をどれだけ買えるだろうかと必要順位と好奇心による興味順位とを考慮してああでもないこうでもないと唸っていると、トントンと肩をつつかれた。驚いて振り返れば、板間に敷いた座布団に座ったまま、こちらへ杖を伸ばすお爺さん。ここのご主人だろうか。

「はい」
「アンタ、ええんかいね」
「……何がですか?」

 質問の意図を理解できずに聞き返せば、お爺さんはやれやれとため息を吐いた。

「もう日ィも暮れてしもうたで、お連れの兄さんが待っとるんでないか」
「あああ!!」

 お爺さんが話し終わらない内に、そうだった、と声を上げてしまう。慌ててキョロキョロと見回すけれど、サスケくんは当然居らず、とっぷりと日は暮れて、代わりに月が顔を出し、街灯が道を照らしている。一体何時間こうしていたのだろうか。
 何度か声を掛けてくれたと言うお爺さんに、お礼と謝罪を兼ねて頭を下げる。長々と居座ってしまった上にお世話までかけてしまった。

「ごめんなさい、また明日来ます!」
「はぁいよぉ」

 私としたことが、サスケくんのことをすっかりほったらかして、自分の用事にばかり時間を使ってしまった。サスケくん、呆れてるだろうな。うう、なんてことだ。
 自己嫌悪と反省をしつつ、お店を出て宿屋を探し歩く。サスケくんのことだから、もうとっくに部屋を取って休んでいるだろう。もしかしたら食事を出してもらうのも私待ちかもしれない。ああ、そうだお風呂にも入らないとだし本当に急がないと。
 サスケくんの居場所を探すためにフクロウを口寄せしようかとチャクラを練っていると、次の街灯の下に人影が見えた。あの左袖がひらめくシルエットは、間違いなくサスケくんだ。いい加減遅いから、迎えに出て来てくれたのだろうか。申し訳ない。

「サ、サスケくん……」
「こっちだ」

 私がたどり着くなり、謝る暇も与えてくれずに踵を返す。ほんのり石鹸の香りがして、もう先にお風呂も済ませたことが分かる。はああ、やっぱり相当な時間お待たせしてしまっている。サスケくんの後ろを付いて歩きながら、改めて謝る。

「あの、ごめんね……」

 それを聞いて、サスケくんは不思議そうにこちらを一瞥した。思っていた反応とは違ったので、いかに自分が悪いのかを続けて説明する。

「一人で夢中になっちゃって……こんなに遅くなっちゃって……あと、サスケくんに手間もかけさせちゃった」
「……手間よりも、心配かけたほうを謝るべきだな」
「あ、そうだよね、それもごめんなさい……」
「フッ」

 私が謝ると、何故だかサスケくんは笑った。訳が分からず首を傾げ、後を追いながらサスケくんの言葉を待つ。

「嘘だ」
「えっ?」
「心配はしてない。何かあってもお前なら一人で対処できるだろ」

 ただ遅いから、何にそんなにも興味を引かれているのか気になったのと、宿の場所が分からなければ困るだろうと思ってついでに迎えに来ただけ。そう言う間に宿屋に着いて、連れが来たことをフロントに短く伝えて部屋へ向かう。

「むしろ、俺のことを気にせずに、あんな風に一人で夢中になることもあるのかと安心した」
「ええと…………それは普段が『サスケくん中心』すぎる、ということ……?」
「ああ」

 確かにその自覚はあったけれど、それがサスケくんの悩みの種になっているとは思わず。それって何か悪いことだったのだろうか。
 サスケくんはポケットから鍵を取り出し、扉を開けて中に入る。部屋毎にお風呂が備わっているタイプの宿屋らしく、入ってすぐにトイレと並んでお風呂があった。大浴場で洗い流すには汚れが溜まりすぎていたのでとても助かる。
 部屋の隅にすでに置かれているサスケくんの装備の側に、私も背負っていた荷物を置かせてもらう。サスケくんは机の前の座布団へ腰を下ろして、湯呑みに少し残っていたお茶を空にするように飲んだ。

「お前の中で、俺の優先順位が高過ぎるのが気になっていた」
「そりゃあ、だって、そうなるよ」
「だが今回、『俺』よりも『お前の興味』を優先したろう」
「優先したというか……気付いたらそうなってたというか」
「それでいいんだ。お前のは少し度が過ぎるからな」
「……」

 そうだろうか、と納得できかねる顔をしていると、サスケくんは苦笑いした。だけどとても穏やかな顔で、少しも怒っている様子はなく、本当にそう思っているらしい。ほったらかしにされて腹を立てないなんて、サスケくんは心が広いなぁ。
 ……ん、そういえば私も、サスケくんにほったらかしにされていたことになるのか。だけど別段、腹は立っていない。ふうむ、なるほどこういう感じなのか。サスケくんが自立した行動を取っていて、何を怒ることがあろうか。

「俺は俺で動く。お前はお前で動けばいい」
「んー……なんとなく常に随伴してたけど、合流手段があるなら、バラバラで動いたほうが効率が良いのかぁ……」
「そうとも言うな」

 なるほど納得、合理的。
 私もお茶が飲みたかったので、一度洗面所に手を洗いに行く。それから備え付けのポットから急須にお湯を入れ、しばらく待って、二つの湯呑みに交互にお茶を注ぐ。少しだけ吹き冷まして、ちょび、と飲む。熱くておいしい。ほっと一息。向かい側でサスケくんも同じようにして寛いでいるのを見て、ふと思う。

「でも……単純に、できるだけ一緒に居たいな」

 そう呟くと、サスケくんはまた小さく苦笑して、だけど「まあ、そうだな」と肯定してくれた。




(171109)


 []      []
絵文字で感想を伝える!(匿名メッセージも可)
[感想を届ける!]