いつも通りに過ごしていたら開けられる襖。 今は夕飯時である。よって衛宮家の人間は全て居間に居るということである。つまり、
「王の訪問に出迎えも無しとは何事だ……!」
とまあ、こんな人で。今にも口煩く何かを言い出しそうだ。セイバーはキリッと構えている。まあ飯を守っているともいうが。
「おーそれは申し訳なかったです王様あ。しかし今飯食ってんだから察しろよ」
悪態をつきつつ言葉を発する。 遮られ一瞬眉を顰めたがまあ良い、と。寛大なお心ですこと。
「今宵はセイバーを…と言いたいところだが」
ほう。 珍しくセイバーお目当てではないようだ。どことなく安堵の息を零す士郎。
「―――海南」 「ん」
名を呼ばれ振り向く。どうやらあたしをご指名のようだ。それを良しとしないのがあたしの隣で飯がっついてる青髪。顔がね、めっちゃ酷い。
「なに王様?用件によっては呑むよ」 「喜ぶが良い、王直々の指名であるぞ」 「だから用件」 「うむ。直ぐに支度をするが良い」 「どこ行くの?」
噛み合わない。なんとも噛み合わない会話である。しかしめげないのがいい子あたし。
「我の娯楽に付き合えと申してるのだ」 「どこに行くの?」 「わくわくざぶーん」
ほう。プールですか。 王様の口からそのような言葉を聞けるとは…腹筋崩壊ものです本当にありがとうございました。
「…時間的に終わってない?」 「問題無い。今宵は貸切だ」
劣等な雑種共の浸かっている水などにこの我が浸かれるか、と。つまりそういう事ですか。てか結構広くなかったか?貸切、貸切…ねえ。
「たまには悪くない、かね」
滅多にない機会だし。パチンッと箸を置く。 何を思ったか、どうせ何も思ってないんだろうけど。思い立ったから行動したんだろうし、そこら辺追及しても無駄だということは分かりきっている。 どっこいせとその場を立ち上がる。我様は満足気にうむと頷いた。
「では参るぞ!」 「身支度をさせてください」 「三秒でな。それと我の隣を歩くのだ、そのような貧相な格好では赦さぬぞ」 「三秒で?ばかじゃねえの」
言ったモン勝ちである。どうせあの王様は居間にでも入ってなんやかんや始めだすのだから多少待たせても問題ないだろう。
先程より数倍騒がしくなった居間に苦笑いを零しながら仕切りを跨いだ。
「ごめん皆、今煩いの連れてくから」
何が起きたかは知らんが酷く盛り上がっている。金ぴかも中々ご機嫌だ。
「早く行きますよ」
呆れながらそう告げると視界の端っこに青が映った。
「帰りは11時くらいだと思う、王様の気分次第だけどどうにかそれまでには帰ってこれるように頑張る。鍵は閉めなくて良いよ、ランサーはあたしが帰ってくるまで寝ちゃだめね」
分かった?と座ってるランサーと視線を合わせる。ランサーはというとあたしとは視線を合わせずに少しだけ下の方―――、
「あ?お前何勝負下着穿いてんだよ」
少しだけ苛立ちの含んだ声。見てんじゃねえよ。
「ほう?我に勝負を仕掛けるとな?」 「つうかアレ相手に何て格好してんだよ。前屈みになれば中見えんしみじかすぎんだろ。食われるぞ」 「プール行くのに?関係なくね?」 「行くなよ、ぜってぇ良いことなんてねーから」 「へえ、嫉妬?」
ニヤリと笑ってみせる。ランサーはムッとした顔。
「じゃあお留守番頼むね、わんちゃん」
頭をくしゃくしゃにして高い鼻先に触れるだけの唇を落とした。立ち上がって玄関に向かう。
「王様早くー」
(ランサーが嫉妬)
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