Dragon-K-Night


これは、すべての事象に『役割』が振り当てられた世界の話。

王様は生まれた時から王様だし、勇者は戦う事に是非を問わない。悪者は理由もなく悪事を為さねばならないし、太陽は空で輝き続けなければならなかった。

けれど、百万年に一度。
太陽が役目を休む日。月は空の一角から動くことをやめ、星も瞬く事を休んで、その宵だけは世界の全てが配役を忘れて、敵も味方もなくなる夜があった。



燃えるように輝く鳥が夜空を翻り、闇に溶け込んだ森に降りていった。

「うわぁ、遅刻しました?」

地に降りた鳥は一人の少女の姿をしていた。
少女の名は千織と云い、正しく求めた者にのみ死者を甦らせる神秘を与えるという、『霊峰に棲む聖鳥』だった。先程までは、その役割を果たしていた。

「いいえ。私達が早かっただけ」
「久しぶりね、みんな」

千織に声をかけられた少女たちも各々に、『星空を招く巫女』と『月の女神に仕える神官』という配役があるが、今夜限りは奏江と逸美という名のただの少女である。
彼女たちは其々が役目を与えられ、配置された場所に住まう。常時は交わる事はない存在だが、この百万年に一度の夜だけは集まって顔を合わせていた。
百万年に一度を何度繰り返しているのか当人たちにももうわからないが、元々、誰の為の世界かもわからないのだからそんな世界に疑問もなかった。

「来たわね」

この前訪ねてきた『旅人』が軟派な輩でとても迷惑だった、同じ人が来たかも知れないわ、と話に花を咲かせていた二人は、奏江の声に会話を切った。
奏江の視線の先から草を踏む音が近づき、現れた長身の男は三人を見て安堵の息を吐く。

「間に合ったか?」
「…『殺人鬼』にでもなったんですか?」

男は全身黒尽めで目の色も血走っていた。以前見た、金髪碧眼の王子然とした姿とは雲泥だ。

「いや、この前『魔王』になって」
「「「はぁ!?」」」
「魔王なら王子なんかより今のキョーコと存在が近いしね」

終わらない悪業に嫌気が差していた『魔王』だった少年は、二つ返事で『名もない町人』という役についた。そして配役を奪われ道化として生きていた男は、新しく与えられた役に相応しい姿へと変貌を遂げたらしい。

「役割を変えるなんて、彼に会わなければ考えもしなかったね」

三人の娘たちは、喉を鳴らして楽しそうに笑う男に、そこまでするのかと呆れながらも苦笑を禁じ得なかった。
世界が正しく循環していれば、この夜この場にいるのはこの男ではなく、三人の親友である一人の少女の筈だった。
それを遮ったのは一人の青年だ。
己の役割に不満を持ったその青年は『英雄』になろうとして、『幼なじみの少女』と協力して竜を倒した。
この世界のすべての事象には役割が振り当てられている。『王様』は生まれた時から『王様』で、『王様』以外の何者でもないし、何者にもなれない。
『成功を夢見る青年』は、正しくその役に殉じていたとも言える。
けれども、世界の仕組みを理解していなかった青年は、『竜』を倒した事で空席になった『竜』に替わる責任を負い、そしてその責を協力者だった少女に押し付けた。
少女は一夜にして竜へと姿を変え、青年は竜になった少女を見捨て、民衆を味方につけて竜と敵対する。
それを知った『とある国の王子』は、青年から竜を自由にする代償に青年に役割を奪われた。

「さて、君たちに頼みたい事がある」

魔王になった男は、少女たちと向かい合うように、焚き火の前に腰を落とした。

「…何ですか?」
「キョーコの居場所は教えられませんよ?」
「私達はキョーコさんの味方ですからね」

銘々に少女たちは親友の名を語る。男は、嬉しそうに頷いて懐に手を入れて取り出した物を握りしめ、言った。

「賭けは俺の勝ちだと証明して欲しいんだ」
「見つけられたんですか?」
「…見つける度に棲家を変えるのはズルいよね」

どんな姿でも構わないとかつての王子は少女だった者に愛を誓ったが、罪悪感と猜疑心に苛まれた竜は賭けを持ちかけた。
──百万年の内にわたしを捕まえられたらあなたを信じましょう。
始まりは百万年前の今夜。男は竜を追いかけ、見つけても竜は翼に任せて逃げてしまう。

「今夜、彼女は必ず此処に来る。君たちも、彼女に逢いたいだろう?」

三人は強く頷く。
信仰されるものと、悪に列なるものに振り分けられてしまったが、どんな姿に変わろうと友と思う心は消えない。しかし彼女は己の姿を恥じて、この男を通じて一方的に別れを告げて隠れてしまった。
俺は、と呟いて、男は手にした青い鉱石を月に翳すように持ち上げた。

「どんな存在でも、彼女を守る騎士でありたい」

宝玉の先、遥か上空に、風を唸らせながら怒号と共に森へ直滑降してくる竜の姿が見えた。


「とりあえずは、物凄く叱られないといけないけどね」


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今宵は百万年に一度 太陽が沈んで夜が訪れる日
終わりの来ないような戦いも
今宵は休戦して祝杯をあげる


ボクと魔王みたいな話になった…。
兄さんは泥棒をしてピンク色の竜を誘きだしました。


2014/12/26 ( 0 )





【3つの恋のお題】KAITO×リン


電車を降りると外は土砂降りの大雨だった。

濡れた足元に注意を促すアナウンスを聞きながらホームを歩いていると、携帯電話がメールの着信を知らせて振動する。
差出人は最近出来た中学生の妹だった。親の再婚相手の連れ子で、昔から弟か妹が欲しかったから、思いがけず一度に両方叶って驚きながらも喜んだのを覚えている。二人が同じ顔だった事も思いもよらなかったけれど。
メールを開くと、駅の改札口で待っていて、と用件しか書かれていない素っ気ない文章。何か怒ってるのかなとか嫌われているのかもなんて狼狽えたのは知り合った最初だけで、今ではこんな短文にすら、照れ隠しにちょっと怒ったような口調になる声が聴こえた気がした。
──濡れてないといいけど。
擦れ違う他人の髪や肩を一瞥しながら、意外に生真面目で不器用な義妹を思った。


君の声が聴こえた気がした。

見逃したかと慌てて首を巡らせると改札の向こう側で探していた人が手を振っていた。
こんな所でどうしたのと、相手が言い終わる前に持ってきた傘を差し出すと義兄はありがとうと笑って受け取った。
助かったけど、暗くなってから一人で出歩くのは危ないから駄目だよなんて説教くさいことを言い始めた元他人に、子供扱いしないでと口癖になってる文句を返そうとしたのだけれど。
女の子なんだから、なんて。そんなことをそんな顔で言うのはずるいと思う。
平気だもん。何とかそれだけ言い返して、顔を見られないように先に歩き出したのに、駅から出る頃にはあっさり追い抜かれていた身長差が憎い。
半歩前を歩く青い傘の下、ゆらゆら揺れる手は男の人らしく、見慣れた双子の弟とはちょっと違う。
ばうん、と傘を持つ腕に跳ね返るような衝撃がして、伸ばした指先は空気を掠めて。雨が降って傘を差しているのだから無遠慮に近づけばぶつかるのは当然だったのに。
びっくりした顔で振り返った彼の目は伸ばしたまま固まっていた手に注がれた。今更引っ込めても遅いけどこれ以上晒してもおけない。
真面目だからねぇ、と呟いたその人は傘を閉じて、笑って目の前に飛び込んできた。

「やっぱり、こっちの方が話しやすいね」

傘の柄を握る手の上から握られた大きな手と、耳元に近い声にくらくらしながら、さっきから何か喋っていたらしい年上の人に全然聞いていなかったことを伝えたら、酷いよとちょっと本気で嘆かれた。


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カイリンへの3つの恋のお題:

君の声が聴こえた気がした
伸ばした指先は空気を掠めて
駅の改札口で待っていて
( ⇒ http://shindanmaker.com/125562

手を繋げないような関係で駅の改札で待ち合わせる状況ってどんななのか結局相合い傘でした。という話。


2014/11/28 ( 0 )






◆ 伝えたい言葉ふたつ5題

1.ごめんね、ありがとう
2.大キライ、また明日
3.おはよう、がんばって
4.笑って、待ってて
5.バイバイ、大好き

御題配布元 >>> 確かに恋だった


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2014/11/28 ( 0 )





2. 大キライ、また明日



風呂から出たら実姉と義兄がケンカしていた。

「カイト兄のばか!大キライっ!」

訂正、リンがカイトに怒鳴ってた。
どしたの?と小声で訊くとカイトは肩を竦めて苦笑いだけ返してくる。
風呂上がりに食べるミカンの買い置きを忘れられたのか、それとも見たいドラマの録画を消されたのか、カイトの態度からして大した事じゃなさそうだ。
勿論そんな事は口に出さないし、リンの口撃に巻き込まれないように、極力存在感を消す事に徹する。
冷蔵庫の前で風呂上がりの一杯(バナナ味)を呷っていると、もうカイト兄なんて知らない!と捨て台詞を吐いて、リンがリビングを出ていこうとした。

「おやすみ。また明日」

意訳すれば『この話はおしまい、頭冷やして出直して来なさい』だ。
穏やかな声でトドメを刺されたリンは、バカイト!と叫んでドアを思い切り叩きつけて閉めた。

「レンは?」
「んー」

今部屋に戻ったらリンの愚痴に付き合わされてしまう。そうしたら試験勉強なんか出来やしないし、それならまだ返事をしなくていいテレビの方がマシな気がする。

「テレビ見ながらするわー」
「ほんとに君ら、双子だね」

ああ、そういうこと。
カイトが呆れた声で言う。リンが逆ギレしてた理由がやっと解った。


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「テレビ見ながら勉強できる訳ないでしょ!」「できるよ!うっさいなァ!」 的な。


2014/11/28 ( 0 )





3. おはよう、がんばって



「…おはよう」

ドアの隙間からリンが、あからさまに寝不足な顔を半分だけ出して言った。
何してんだと訊く前に、朝御飯あるよとカイトが返す。途端にリンは苦虫を噛み潰したような顔をした。

「何でいるの…。いつももっと遅いのに」
「一限目あるからね」

それでも二人よりは遅く出るよと、カイトはオレンジジュースを注いでテーブルに置く。リンは黙ってジュースの前に座って、カイトが朝飯を並べるといただきますと呟いてもそもそ食べ始めた。
食わないという選択肢はないらしい。オレならケンカ中の相手の悉くを無視すると思うけど。まぁオレには関係無いし。

「行ってきまーす」
「あっ、待ってあたしもっ。行ってきます!」

リンが慌てて朝食の残りを口に押し込み鞄を掴んで走ってきた。…歯ァ磨いたか?
玄関先で、靴を履くリンを待っているとカイトが見送りに出てきた。逃げるように玄関から飛び出したリンにも聞こえるように、でも顔はオレの方を見ながら、カイトが言う。

「行ってらっしゃい。テストがんばって」
「え? ………………!!!」

バタン、とリンの顔の前で玄関が閉められる。
わかってる。寝不足なのはカイトとケンカしたのを気にしてたせいってのも、今の今まで今日が試験なのを忘れてたってことも。
でも、そんな顔で俺を睨んだってどーしようもないだろ…。


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歯は?


2014/11/28 ( 0 )




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