4. 笑って、待ってて「カイト兄?元気ない?大丈夫?」
「うん」
「…どっち?」
大丈夫だけど元気は出ない。お酒の呪いか気力の問題か、玄関の床に吸い込まれて剥がれられない。
酒の席で、この前手を繋いで歩いてたの誰ですかと訊かれたので、妹なんだー可愛かったでしょー、と何故かガッツポーズする後輩に自慢をしていたらメイコさんに殴られた。アンタねぇ、ってひとの頭を撲っておいて隣に座って、誤解させるだけならやめなさいよ大体アンタは誰にもいい顔をしてとか正座の説教酒で絡まれた。顔を褒められたのは珍しいけど、誤解なんてどういう意味だろう。
「カイト兄見て見てっ」
「……………」
「…………せめて笑って……」
「……ああ、ごめん……」
てっきり深夜のテンションで変顔始めたのかと思った。落ち込んでる僕を浮上させようと試みた結果、駄々滑って返って彼女を落ち込ませてしまったらしい。それでも何か次の手を考えているパジャマ姿の妹の足が裸足で寒そうだった。触ったらセクハラかな?でもこの前告白られたしアリかな。うう。いい兄貴になれなくてごめんなさい。
「あっ、そっか!カイト兄、アイス食べる?」
「……もうちょっと、待っててくれる?」
「う?うん。いいよ?」
なんだ。誤解なんてないじゃん。ああよかった。お兄ちゃんかっこいいって言われる夢は諦めるしかないけど。元々他人なんだし。これで姐さんに犯罪者扱いはされないかな。そうだ、めーちゃんと言えば。
「今日ねぇー、ロリ誘拐って言わ」
「リン中学生なのに!!」
打てば響く反応に思わず大声で笑ったらひどいとか怒られてその顔すら可愛いとか重症かも知れない。
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メイコ姐さんは同じ大学という設定です。
5. バイバイ、大好き「あのね、カイト兄」
「ふん?」
「バイバイって、言ってくれる?」
今から真剣な話をしようというのに、スプーン咬わえながら振り向かれた。妹よりアイスの方が大事なのね。
「なんで?今からどっか行くの?」
「兄離れしようと思うの」
「へぇ?」
「ふつう、お兄さんとは一緒に買い物したりしないし、手を繋いで帰ったりしないし、アイス半分こもしないんだって」
むしろ仲良くなんかできないと周りの兄持ちの友達は言う。リンちゃんは生まれた時からレン君と一緒だもんねーとミク姉は気を使ってくれたけど。
「…………今さら?」
「今こそ!だと思うの」
何よりフラレたし。ふつうのきょうだい、っていう距離感がよくわからないけど、今ふつうに慣れておかないと家族になりきれない気がするから。
「だから、バイバイって言ってくれたら、兄離れするから」
「好きなのに?」
な ん だ と ?
そりゃあ空気も読まずに告白なんかして未だに未練タラタラだけどフッた本人に言われたくないしだからこそちゃんと妹になろうって覚悟を何でそんな蒸し返すみたいな、と泣きそうになって、我慢して、カイト兄を見たら、顔が真っ赤だった。
「待って、今の無シで」
「無シなんて無いね!ヒドイよ!」
何でカイト兄が赤くなるの。ムカついたからカイト兄のバニラを奪って一気に半分以上食べてやった。
「リンちゃんのが酷いよ」
「フンッだ!」
「待っててくれるって言ったのに」
「…へ?何が?何のはなし?」
「ほら。リンちゃんがヒドイよ」
ぐったりしちゃった。あたしがヒドイの?アイスじゃなくて?
おかしいな、あたしは今日こそフラレる覚悟をして。なのに何でカイト兄の方が古い話蒸し返して空気も読まずに告白したみたい、な?ん だ と ?
「…カイト兄」
「なに?」
「言って?」
しょんぼりするカイト兄にオレンジ味のアイスを半分こしてあげた。
カイト兄の頬っぺたは赤いままで、あたしは待たなくちゃで、きっとこの答えは間違えてない。
「……、──、……、っ…………」
カイト兄は真っ赤になって、ぱくぱくと口ばかり動いて声が全然小さくて、でも唇は最初のお願いとは違う言葉を言っていた。
「リンもだよ!」
声に出せなくたって伝わる事ってあると思う。
だって、あたしにはちゃんと伝わったから。
「…ナニしてんの、おまえら」
照れるカイト兄の背中にぎゅうってして頭ぐりぐりしてたら、声に出さなくても伝わる事って確かにあると思える目でレンが見下していた。
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時間経過がよくわからない事と親が出てこない理由はちゃんと考えていないからです。