快楽地獄3* こうした玩具で弄ばれたことは、実のところ初めてじゃない。クライアントが玩具を持ち出してきたことが何度かある。不快感はあっても断ることはできないし、仕事だと割り切っていたからどんな恥辱にも耐えられたんだ。なのにプライベートでも弄ばれるなんて冗談じゃない。 それ以前に、こんなに酷い扱いを受けたことは今まで一度もなかった。多少アブノーマルなプレイを要求されても、大抵の人達は私の身体を労ってくれたのに。この男にはそんな気遣いはまるで皆無だ。 「あ……ッ、」 私が何度目かの絶頂を迎えた頃を見計らって、秋山の手がゆっくりとバイブを引き抜いていく。永遠に続くかと思った波が、一時的に引いた。 「抱かれると思った?」 含みを持たせた言い方に顔を上げる。 涙の筋が光る私の頬に、秋山の手がそっと触れた。 「まさか玩具で責められるとは思わなかっただろ」 「っ、は……、」 「抱くわけねーじゃん。ここに来る前、あのオッサンに抱かれてたんだろ? 親父にベタベタ触られた女を抱く気にはなれねーよ。汚ねえ」 ……誰もお前に抱かれたいなんて思ってない。そう反論したくてもできなかったのは、喉に妙な違和感があったからだ。息をつく暇もないくらいに喘ぎ続け、声帯を酷使した私の気管支は異常な痛みを生じさせ、声を出すのも辛い状態に陥っていた。 倦怠感も酷い。意識が朦朧としてる。気を緩めたらすぐに意識を手放してしまいそうな程、全身が苦痛を訴えていた。 でも、私の異変に秋山は気づかない。 目尻から零れ落ちる滴を、人差し指で掬って私に見せつけてきた。 「なあ、これ何の涙? なんで泣いてんのお前」 「……っ、ぅ、ふ……ッ、」 「泣いて許しを請おうとか思ってんのか? ふざけんな、汚ねえやり方でポイント稼ぎやがって。真面目にやってる連中の努力を踏みにじってんだよ、お前は」 「……っ、」 「自業自得だろ。自分で責任取れや」 憎しみのこもった瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。腹立だしい程に秋山の言うことは全部正しかった。 この男はきっと、曲がったことが大嫌いな人間なんだろう。不正に手を染めることもなく、積み重ねてきた努力とセンスを磨いて結果を残してきた秋山にとって、何の営業力も持っていない私が身体を売って成績を上げている事実は納得がいかないはずだ。卑怯で、醜くて、穢らわしい行為だと罵られるのは当然のこと。 でも、じゃあ今の状況は何? 相手が悪ければ、その相手には何をしても許されるの? 相手の承諾もなく性行為を強要して、乱暴を働いている秋山の行為は、私の悪事と何が違うんだろう。 「……でも、まあこれだけ虐め抜いてよく耐えたな。褒めてやる。褒美に1回だけ挿れてやろうか」 「……っ!?」 そう告げられた瞬間に身体が強張る。それだけは嫌だと、必死に首を振って拒否を訴えた。ただでさえ、こんな痴態を晒してしまったことに打ちのめされているというのに、この男と身体を繋げるなんて絶対に無理。屈辱過ぎる。 けれど、いまだに拘束具を解かれていない私に選択肢なんてあるわけがなく。急くようにベルトを外す金属音に、一気に胸に湧く警戒心。恐怖と焦りで頭の中が真っ白になる。 「や……」 「あ? なに、聞こえない」 「や……、めて……っ」 「だから聞こえねえって」 必死に絞り出した声も秋山には届かない。 弱々しく身を捩っても、動きを封じられている状態では全く意味がなかった。そればかりか、体の不調は更に悪化して、意識を保つのも難しくなってくる。 私の反応が薄いのをいいことに、秋山の手が私の身体を横倒しにした。脚を持ち上げられ、ゆっくり腰を寄せてくる。濡れそぼった秘部に自身をあてがい、もったいぶるように上下に擦りながら膣内へと侵入を図る。 「ぁ、っ……ッ、」 「あれ、結構キツいじゃん。誰とでも寝てるなら緩いのかと思ってたけど。意外」 わざと神経を逆撫でするような口振り。 けれど、私がその言葉に歯向かうことはできなかった。 ゆっくりと上下に揺すられても、最奥を突かれても何も感じない。喉が腫れ上がったことで発熱を起こし、重度の全身倦怠感が快楽神経を鈍らせていた。呼吸の仕方もわからなくなる程に意識が混濁してる。 そこでやっと、秋山は動きを止めてくれた。 熱と激痛でうなされている私に異変を感じ取ったのだろう。眉を寄せながら私の頬をぺちぺちと叩き、すぐにその手を引っ込める。 「……お前、なんだその熱……」 「………」 「おい、何か言えって」 「………」 「……やべ、さすがにやり過ぎたか」 秋山の声が遠くに聞こえる。朦朧とする意識の中、何かの本で読んだ知識を思い出した。 急な発熱を起こした場合に救急外来へ行かなければならない条件。意識の低下、血圧の低下、呼吸困難。部位を問わず、どこかしらに激痛がある場合、だっけ。……ああ、今の私じゃないか。 これは、罰なのかな。 努力する事を放棄し、人の成功を妬んで最低な行為を続けたことに対しての。 懺悔にも似たような思いに駆られながら、私の意識は深い闇に飲み込まれていった。 トップページ |