偽りと本音2


「……七瀬の言いたいことは、大体わかった」

 ひとつひとつ、言葉を噛み締めるように本音を溢す私の言い分を、早坂は黙って聞いてくれた。その上で、一応納得はしてくれた。めちゃくちゃ顔は険しかったけれど、思いきりしかめっ面になってたけど。本当は納得してないんだろうな、その表情から読み取れる。
 それでも私に反論せず理解を示してくれたのは、これ以上揉めても私は主張を曲げないだろうと判断したからだろう。だから、自分の言い分は一旦横に置いておいて、私の言い分を優先してくれた。そんな風に、冷静に対応できる早坂はやっぱり凄い奴だと思うし、胸のつかえも取れた気がする。

 本当の思いを吐露した時、心が解放感で満たされたような感覚を覚えた。
 弱音を吐くのが嫌、なんて言っておきながら、結果的に弱い部分を見せてしまったことに複雑な気持ちも残るけど。ただ、精神的にはすごく楽になった。
 弱音を吐くというのは、こんなにも気持ちが晴れるものなのか。今更思い知ったような新鮮な気持ちを味わう。全てを吐き出したことで、胸の奥で燻っていた葛藤が嘘のように消えてしまった。私の中でようやく、青木さんと会う覚悟ができたのかもしれない。

 どんなに怖がっても、迷っても、やらなきゃいけないことは決まってる。青木さんと会って、お互いに納得した上で別れる。また同じ過ちを繰り返さないために。

「納得してくれた?」
「ああ。つまり自分の体裁を守りたいから、誰にも頼らず1人で万事解決したい、と」
「あは、言い方キッツ。最悪でしょ」
「そうだな、最悪だ。あと強情」
「幻滅した?」
「してない」
「……早坂ならそう言うと思ったよ」

 でも、誰もがみんな早坂のような人ばかりじゃない。問題を抱えた人間に関わろうなんて誰も思わないし、ましてや不倫するような奴なんて軽蔑されて当然だ。

「それで?」
「え?」

 話の続きを促されて目を丸くする。私の決意を伝えたことで話は終わったかと思いきや、どうやらまだ続いていたらしい。
 眉間に皺を寄せた早坂は、不機嫌さを隠そうともせず一気に捲し立てた。

「「え?」じゃない。青木と会った後のことはちゃんと考えてるのか? 今までの話を繰り返したところで、向こうは絶対に納得しない。平和的な解決なんて無理だって、さすがに七瀬もわかってんだろ。どう話をつけるつもりだったんだよ。1人で解決させるって言い切ったからには、青木に別れ話を納得させるだけの材料を用意してるんだろ?」
「………」

 してませんね。

「まさか丸腰で会おうとしてたのか?」
「……ハイ」
「無鉄砲すぎるだろ」
「そうデスネ」

 つい片言になってしまった。反論の余地も与えてくれない早坂クン強すぎる。
 ……いや、私が何も考えていないだけか。

「……ったく」

 がしがしと乱暴に頭を掻く早坂の、目に見えてわかる苛立ちに何も言えなくなる。穏便なやり方が通用する相手じゃないのはわかっているけれど、ちゃんと話し合えば何とかなるんじゃないかって、呑気にそう思っていたのは確かだ。そんな精神論に納得する方が無理な話で、早坂の容赦ない理論にあっけなく論破されている私がいる。

 でも。じゃあ、どうしたらいいの。
 まともな話が通じそうにない相手に、どう納得させればいいの。

「……俺なら、」

 すっかり沈みこんでしまった私の耳に届いた声。
 顔を上げれば、真摯な眼差しとぶつかった。

「俺なら、1日で全部解決できるけど」

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