だから早く俺のところに堕ちてきて2*


 頭ではまだ松永さんの言葉を疑ってる。でも私の身体は素直なもので、彼から与えられるキスを愛情だと錯覚して熱を帯びていた。
 乱暴的な口づけは、松永さんの余裕の無さを感じさせる。背徳感にも似たような感覚が、ゾクゾクと背筋を伝って胸を震わせた。

 心臓が早鐘のように胸を打つ。身体中が熱くて、まるで恋に焦がれている女子高生みたいにドキドキした。学生の頃だって彼氏はいたし、甘酸っぱいキスだってたくさん経験してきたけれど、子供のキスなんてテクも何もない、辿々しくて可愛らしいものばかりだ。松永さんのような年上の男性から、強引に迫られたことなんて一度もない。
 こんな風に情熱的に求められたら、さすがに私でも、勘違いしたくなるよ。

「……ん」

 ふと、キスの勢いが緩む。松永さんの唇が離れていく気配を感じ取って、少しだけ寂しい気持ちが込み上げた。
 ちゅ、と名残惜しそうに下唇を吸われて、慣れない刺激にまた心臓が飛び跳ねる。

「っは、ぁ……待っ、て」
「無理」
「んッ……!」

 離れたと思ったのに、すぐに唇を押し付けられて何も言えなかった。
 切羽詰まったような貪り方に、募る優越感と愛おしさ。いつも明るくて爽やかで、誰に対しても優しく接してくれる人なのに。柔和な笑顔が魅力的で大人の余裕も忘れない、もちろん取り乱すこともなければ感情的になることもない、まさに絵に描いたような好青年。そんな人が、私にだけは余裕の無い表情をベッドの上で晒している。社内では絶対に見せないであろう、オトコの顔で迫ってくる。私の言葉ひとつで拗ねたり、機嫌を損ねたりする松永さんを初めて可愛いと思った。思ってしまった。
 頭の中では彼の声で、「好き」の2文字がぐるぐると回っている。松永さんの告白を疑う気持ちよりも、信じたいと願う気持ちがいつの間にか逆転していた。私に向ける彼の情欲が、胸を熱く焦がす。

 性急なキスとは裏腹に、身体のラインを辿るように撫でる指先は優しい。際どい場所をねっとりとなぞられて、甘い痺れがじわりと身体を包み込む。

「んん……ッ、」

 くぐもった声が喉の奥から漏れてしまう。ずっと唇を塞がれている状態だから、思うように嬌声を出せないことがもどかしい。休む暇もなく与えられる快楽に身を委ねていた時、太股を撫で回していた手のひらが、熱く濡れた中心に触れようとした。
 その直前に腰が引けて、反射的に身を捩る。

「……なに逃げようとしてんの?」
「あっ」

 咄嗟に逃げようとしたのがマズかったのか。自身の肩に担ぎ上げた私の両脚を、松永さんの手がもう一度抱え直す。更に重みがのし掛かり、バタつかせたい手足を動かすことも叶わない。欲を孕んだ深い瞳が、静かに私を見下ろした。

「逃がすわけないでしょ」

 その一言で、松永さんは私の意思を縛り付ける。どこもかしこも密着した体勢では、どうしたって逃れられそうにない。身体も心も何もかも、彼に支配されているようでぞくぞくした。
 何度も唇を奪われて、首筋にいくつもの跡を残されて。薄桃色に染まる胸の突起を、彼の舌が舐め回す。固く膨れ上がった頂を吸われる度に、ビクビクと身体が震えて生理的な涙が滲んだ。

 もう全部が気持ちよくてたまらない。
 でも、一番触ってほしいところには触ってくれない。
 さっきは触ろうとしていたくせに、私が咄嗟に逃げようとしたから、触ってくれなくなっちゃった……。

「あっ、あ……ッ、ん…、や、ぁん……!」

 執拗に胸を弄ばれる度に、子宮の奥がきゅんきゅんと疼く。熱い中心からはとろとろと、いやらしい愛液が溢れ出していた。

「松永さ……っ、あ、やだ、もう……!」
「なに、挿れてほしいの?」
「……ち、ちがッ、」
「俺からは何もしないから安心して。挿れてほしくなったら言ってね」

 ズルい一言を言い放ち、松永さんは再び私の胸を弄ぶ。強張った指の関節が、潤んだ瞳にぼんやりと映った。
 手で、指で、唇で。25年間で培った経験やテクを、松永さんは容赦なく私の身体に刻み込む。
 成す術もなく快楽の淵に追いやられ、どうしたってこの人は、私を解放する気がないのだと教えられた。

 逃げたくても逃げられない。
 むしろもう、逃げる気もない。
 求められる快感を知ってしまったら、忘れることもできやしない。
 嫌悪感も不快感も自尊心もプライドも、私の中にはもう何一つ残っていない。あるのは抗えない快楽と、松永さんから求められる悦び、だけ。

 ───ぷつん、と。
 理性の糸が切れる音がした。

mae表紙tugi

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