Rachel

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セクハラって知ってます? [1/3]


長男は、忙しいのだ。

実質のナンバー2として、体調の悪い白ひげに代わってこの船を仕切っている。
大所帯だから、全てを把握するには、やれ書類だなんだ提出を義務付けているが、この船は海賊船だ。
海の荒くれ者たちばかりで、几帳面に書類を提出するのは少数だ。
だから大雑把な野郎共には借金の取立てよろしく、書類の提出を迫ることもある。
食糧や武器や、その他必要物資の管理や調達で頭を悩ませることもあるし、進路について航海士と相談することもある。
もちろん、隊長として部下と訓練に励むこともある。

そうだ、彼は忙しいのだ。

今日も今日とて、船内を駆けずり回っていたマルコ。
そこへ、厄介ごとを持ち込んだのは末っ子だった。

「ちゃんとキャッチアンドリリースするから!」
「そういう問題かいよい」

慌てふためくエースと怯えて縮こまる少女を見て、マルコは眩暈を覚えた。
マルコが思わず頭を抱えたのは、この事態への対応についてと、末っ子のバカさ加減、両方になのだが、当の本人はまったく気付いてないようだ。

「なんだって人魚がこんなところに…」
「確かに…そうだな」

マルコが呟くと、エースも初めて気付いたようだ。
ダメだ、この末っ子に任せていたら埒があかない。

とりあえず白ひげへと報告すると、その巨体は楽しそうに揺れた。

「人魚?」
「あぁ、エースのヤツが釣り上げたらしい」
「グララララ!そりゃー、おもしれぇじゃねぇか!」

退屈していたところだ、とオヤジは酒を煽った。

確かに今日は海賊や海軍にの襲撃はなく、海王類に襲われることもなく、波も穏やか。
珍しく何事もなく終わるのだと思った夕刻に事件は起こった。

正直、エースがこの船へやってきてからと言うものの、必ずと言っていいほど彼が何かを“やらかす”のだ。
いい意味でも、悪い意味でも。
何事もないに越したことはないと思っているマルコとしては、悩みのタネだ。

「ったく、話題に事欠かねぇヤツだよい」
「グラララ!いいじゃねぇか!」

しかし、どうやら白ひげは違うらしい。
まるでエースが何かしでかすのを待っているようで、説教と称して末っ子を呼びつけるのである。
でも、そんな白ひげの様子を見て嬉しく思っている自分もいるのだ。

(おれも大概、甘いよい)

マルコがため息をつくと、背後の扉がノックもせずに開いた。

「オヤジ、連れて来たぜ」

満面の笑みで部屋へ入ってきたエースは、これから叱られるという自覚はないらしい。
というよりも、白ひげの説教が最早説教ではないことを知っているからかもしれない。

「グララララ!エース、おめぇハナタレのクセに人魚引っ掛けてきたんだってなぁ」
「だから!不可抗力だって!」

エースは焦ったように肩を揺らしたが、腕の中の少女はピクリとも動かなかった。
むしろ固まっていた。

「なんだ、まだガキじゃねぇか」

白ひげがその顔を覗き込むと、少女はようやく口を開いた。
しかし、それは声にもならないような音で。

「〜〜〜〜っ!!!」
「って、え?どうした?」

次の瞬間、少女は白目を剥いて気絶していた。

それからが、大変だった。
慌てて船医を呼びつけたら少女の体に異常はなく、本当に気を失っているだけとのこと。
何かショックなことでもあったのだろうか、という船医の推察に白ひげが肩を落としたのは言うまでもない。

一般人で、まだ少女で、しかも人魚で。
そんな小さな存在に、まさか覇気も使ってないのに気絶されるとは思ってなかったようだ。
そんな白ひげを慰めるのにも一苦労した。
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