君が落ちるまで、あと少し [1/4]
ああ、美味いな。
その声に振り向いた時には、すでに彼は居なくなっていた。
一緒に食材を探していた筈なのに忽然と姿を消してしまい、慌てて辺りを見回すと大きな瞳がリルを見つめていた。
「え…?」
「えっ?」
後ろにいたチョッパーが声を上げると、小さな口も声を上げた。
突然の第三者にリルは手の中の赤い実をポロリと落としてしまったが、実はデコボコな地面を転がり小さな手にぶつかって止まった。
(こども…?)
それから三人、互いを見合っていると不思議なことに気が付いた。
先ほどまで居たサンジは白いYシャツにネクタイ、黒いズボンといつものスタイルだった。
どこかで見た覚えがあると思えば、全く同じものを目の前の小さな体が着ているのだ。
(ネクタイピンまで一緒…)
端に文字が彫ってあったりと凝ったデザインで、印象に残っていたのをボンヤリと思い出しながら繁々と眺めた。
見れば見るほどそっくりなのは服装だけではなくて、髪型や眉の形まで同じだった。
そんな不可解な状況に静寂だけが流れたが、事態を一変させたのはチョッパーの一言だった。
「ま、まさか…サンジ?」
「!?」
思いもよらぬ言葉に、最初は意味を理解できなかったが、混乱すればするほどに血の気が引いてきた。
そうして、リルはようやく状況を把握したが、把握したところで慌てふためくしかなかったのである。
(なんで?ど、どうして…え?)
「どどどどどうしよう!!?」
それはチョッパーも同じようで、二人して取り乱していたが、当の本人は目を瞬かせて地べたに座ったまま動かない。
「とりあえず、船に戻ろう!」
チョッパーの提案に激しく首を振ってから、リルはその細い体を抱き上げた。
小さいとはいえリルには重たくて、少し足を引きずってしまったが、なんとかチョッパーの背中に二人で乗り上げた。
でも無理やり乗せたことで不自然な体勢になり、ずり落ちそうになったところで漸く彼が言葉を発した。
「え?な、なに…」
「しっかり掴まれよ!」
「ちょっ、まさか…」
「急げー!!」
「ゆうかっ…おい!」
彼が何か言っていたようだが、慌てた二人の耳にはまるで届いていなかった。
リルは非力な腕で彼を支えるのに精一杯で、チョッパーもそのまま駆け出してしまった。
「みんなー!大変だー!!」
「はなせぇー!この人攫いがああぁぁ!!」
サンジの声は誰に届くわけでもなく、森の中に吸い込まれていった。
「それで?」
「美味そうだなって味見してみたら、サンジの体が縮んじまったんだ!」
チョッパーが必死に説明をすると、般若のようだったナミの顔がどんどん困惑の色に染まっていった。
聡明なナミですら混乱する状況をリルが理解できるはずもなく、不安と恐怖で涙が滲んできた。
一体どうしてこうなってしまったのか。
どうしたら元に戻れるのか。
訳も分からず、ただオロオロとすることしか出来なかったリルだが、腕の中の小さな肢体が強張っていることに気付いた。
頭はキョロキョロと忙しなく動き、リルの腕を握りしめる手は微かに震えているようだった。
(しっかりしなきゃ…サンジのがもっと不安な筈なんだから…!)
リルが涙を拭うと、目の前にしゃがんだルフィが楽しそうにサンジの頬を突いた。
「ちっせー、どうなってんだ?」
「触るな!」
子供扱いされて怒ったのだろうか、突然どなり付けたサンジを見ても、ルフィはケラケラと笑っていた。