「あら、楽しそうね」
「ロビンも混ざる?」
「そうね、じゃあサンジ“今夜は女子部屋に来る?”」
「喜んでー!!」
ロビンの艶かしい笑みに、サンジの鼻息が荒くなってしまうのは致し方ないことだった。
何故なら今日はエイプリルフールなのだから。
公然と嘘が許されるのだ。
そう、これは嘘なのだ。
(ん?ということは、ナミさんやロビンちゃんはおれにそんな気持ちをいだいたことは一度もないということか…?)
それはそれで複雑な気分だったが、まぁ今を楽しもう。
こんな美女に囲まれるならエイプリルフールも悪くない。
そう頬を緩ませていたら、先ほどと同じ笑みでロビンが口を開いた。
「ところで、さっきリルちゃんが泣きながら出て行ったけど、いいの?」
「えっ?」
「まさか、さっきの見てたのかしら」
「えっ!?」
「本気にしちゃったのかしら」
「えーっ!!?」
そう言えば、いつの間にか甲板の喧騒が止んでいる。
ようやく事態を飲み込んだサンジは、慌ててダイニングルームを飛び出した。
「アクアリウムに行ったみたいよ」
「あ、サンジくん!エイプリルフールは午前中までよ!」
背後からの声援に時計を仰ぎ見ると、長針と短針がもうすぐ頂点を指そうとしていた。
「ありがとう!ナミさん、ロビンちゃん!」
そのまま駆け出したサンジは、一直線にアクアリウムバーを目指した。
そこには暗い中、電気もつけず水槽の前で体育座りをしているリルがいて、ガラスの向こうには心配そうな魚たちが集まってきている。
「リルちゃん」
「っ!」
サンジがゆっくりと歩み寄ると、大げさに肩を震わせたリルは慌てたように顔を拭ってから振り返った。
擦ったせいか、少し赤くなった頬を膨らませながら、キッと睨んできた。
「サンジなんて…だいっきらいだもん!」
「そっか、おれも“大嫌い”だなぁ」
「!」
サンジの言葉に、リルはあからさまに涙を滲ませた。
自分で言い出したくせにショックを受けているようだ。
「でも知ってるかい?」
必死に涙を堪えながら、キライだもんと自分に言い聞かせているリルが可愛らしくて、そっと抱きしめた。
口では嫌いという割には、その腕を拒まなかった。
「うぅ〜っ…」
「嘘ついていいのは午前中までなんだぜ?」
「…えっ?」
俯いていたリルは慌てて辺りを見回した。
サンジが持っていた懐中時計を見せてやると、ちょうど針が重なり合ったところだった。
「だから、ここからは本当だ」
「あ…」
「好きだ」
そう言った瞬間、堪えていた涙がポロリと落ちた。
「あれは、ナミさんの悪ふざけだよ」
「うん…」
「あとさっきの“大嫌い”もだよ」
「うん…!」
グズグズと鼻を鳴らしながら、感極まったようにリルが抱き着いてきた。
ふにっと小さく押し付けられたそれは、お世辞にも豊満とは言い難いが、柔らかい感触にどこか喜びが込み上げてきた。
「それで?リルちゃんは?」
「え?」
「種明かしはしてくれねぇの?」
「あっ!」
「嫌いなんて言われて、おれは傷ついたのに…」
ワザとらしく胸を抑えると、リルは慌ててサンジの耳に唇を寄せた。
あのね、だいすき
(え?なんだって?)
(だから、す、すき…)
(ん〜?よく聞こえねぇなぁ)
(もう!だいすき!って言ったの!)
(うーん!もう一回!)
(いつまでやってんの!)
(サンジ、メシー!)
(だから、す、すき…)
(ん〜?よく聞こえねぇなぁ)
(もう!だいすき!って言ったの!)
(うーん!もう一回!)
(いつまでやってんの!)
(サンジ、メシー!)
2014/08/05
サンジくんにはナミさんの誘惑に負けないでいてほしいですが、たぶん無理だろうなぁと思って諦めました(笑)