Rachel

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そのサンジと入れ違いにチョッパーはルフィたちに呼ばれて船首楼へと駆けて行った。
名残惜しそうなサンジは釣り道具をそそくさと片付けると、早速夕飯作りに取り掛かったようだ。
先ほどから姿が見えなかったナミはどうやらキッチンで航海計画を練っているらしく、サンジの甲高い声が聞こえた。

「それで、その岩を退かしたら階段があってよ!」
「階段!?」
「あれは絶対、財宝のある地下室への通路だと思ったんだがな〜」
「違かったのか?」
「進んでったら、そのまま地上に出ちまったんだよ」

船首楼ではルフィとウソップとチョッパーが冒険話で盛り上がっており、ゾロは定位置に腰を下ろしてあくびをした。
リルはキッチンの前まで行くと、手摺にカップを置いてから船首楼を眺めていた。
そんなリルの隣へロビンはそっと近付いた。

「聞きたいなら、話に入れてもらったら?」
「?」

突然話しかけたことで驚いたのか、リルは不思議そうな顔をしたが、ロビンが船首楼を指差すと小さく首を振った。

「それとも、コックさんの側の方がいいかしら?」
「っ!?」

ロビンがにっこりと微笑むと、リルは少ししてから意味を理解したらしく、ほんのりと頬を染めた。

「あぁ、でも今キッチンは入れないものね」

そう言うと、リルはキョトンとした顔で目を瞬かせた。
キッチンからは生臭い魚のニオイがした。

「あなたのお友達も、“アレ”も、同じように生きていたのよ?」

ゾロたちが仕留めた猪は、今日の夕飯には使わないのか未だ甲板に横たえられたままで、ロビンはその内の一体を指差した。

いくつかある内のほとんどは刀傷がついており、ゾロが仕留めたものだと推察できる。
残りの内一体は腹の辺りに窪んだ様な打撲の痕があり、チョッパーによるものだろう。
しかし、最後の一体だけは様子が違った。

切り刻んだ傷でも、殴打した傷でもない。
まるで金物で肉を削ぎ落としたような傷で、とてもあの二人が仕留めたとは考えにくい。

ロビンの意図を察したようで、顔色の変わったリルは特に何を言うでもなく俯いてしまった。
何かアクションがあるかと期待してしばらく待ったが、結局リルはそのまま逃げるように部屋へと向かっていった。
手摺の上には湯気の消えたカップだけが残っていた。

「聞こえてるわよ」
「あら、そう?」

背後から聞こえた声に、ロビンは振り返りもせずに残りのお茶を飲み干した。
その反応にナミも解っていたのか、咎めるでもなくロビンの横へ立った。

「まったく…サンジ君にまで聞こえてたら、いくらなんでも怒ると思うわよ?」
「それは怖いわね」

どんどんと過保護になっていくサンジを思い浮かべて、ロビンは手摺に置き去りにされたカップを手に取った。

「ロビンちゅわん!夕飯が出来たよ〜!!」

そのままキッチンへ入ると、サンジがフライになった魚を皿に盛り付けていた。
シンクへカップを届けると、その数と、ほとんど口をつけられていない片方を見てサンジは首を傾げた。

「あれ?リルちゃんは?」
「ほ〜ら、みんなー!夕飯よー!」

サンジの声が聞こえていたらしいナミが甲板へ呼びかけると、ドタドタと大きな音が近付いてきた。

「歌姫さんは疲れたから先に休むそうよ」
「うおー!メシー!!」
「おれ、お腹ぺこぺこだぞー!」

その喧騒に掻き消されて聞こえなかったのだろうか。
サンジは不思議そうな顔をしたが、すぐに神妙な面持ちへと変わった。

(ただ心配しているだけ?それとも、気付いたの?)

不敵な笑みを浮かべながら、呆けているサンジを残してロビンも席へとついた。


中心から外れた者は、もう円の中には戻れないのかしら、ね…

2013/05/03
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