Rachel

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「ちょっとこの子診てくれるか?」
「うわっ!なんだコレ!?」

甲板にあった木箱に少女を座らせると、ちょうどチョッパーの目線の高さに、あの模様のような痣がやってきた。

「なんだろう、バイキンが入ったのか?ちょっと触るぞ?」
「っ!」

チョッパーが痣を少し押してみると、少女はビクリと震えて下唇を噛んだ。

「大丈夫かい?」

木箱の端を強く掴みながら、少女は痛みを紛らわせるみたいに何度も首を縦に振った。

「これ、どうしたんだ?いつからこうなったんだ?」
「……」

チョッパーの問いに少女はしばらく黙ったままだったが、少ししてからやっと口を開いた。

「……っ」
「え?」

しかしその声はあまりにも小さすぎて…というよりも、ほとんど息の音しか聞こえなかった。

「なんだい?」

緊張しているのかと思い、サンジは少女の口元まで耳を寄せたが、やはり息の音ばかり。
少女も困ったように口をパクパクさせた。

もしかして…

「おまえ喋れないのか?」

チョッパーが首をかしげると、少女は小さく頷いた。
見知らぬ人物に警戒しているだけかと思っていたサンジは、少女の声を一度も聞いていないことに今更気付いた。

「困ったな…」

喋れないのでは家も名前も分からない。
まだあの変な男たちも街にうろついてるだろうし、送り先が分からなければヘタに動けない。

サンジがウーンと唸っていると、チョッパーも少女の足を見ながら同じように唸っていた。
どうやらチョッパーでも見たことのない症状のようだ。

とりあえずチョッパーは少女の足に薬を塗って包帯を巻いた。

「そうだ、サンジ。薬は?」
「あー、それなら…」

お使いを頼まれていたことを思い出して、サンジは持って帰ってきた荷物を漁った。
しかし何故か食材が入った袋しか見当たらない。
確かに自分は薬を購入したはずなのだが…?

薬屋を出た後のことを順に思い出しながら、サンジは一つの結論に辿り着いた。

「わりぃ、忘れてきた…」
「はぁ!?」
「いや、ちゃんと買ったんだけどよ」
「買ってなんで忘れるんだよ!」

確かにその通りだが、急いでいたので致し方ない。
おそらく少女を見つけた路地に薬屋の袋があるだろうが、今取りに戻るのは危なそうだ。

「もうこれ最後なんだぞ!」
「悪かったって、あっ!ナ〜ミすぅわ〜ん!!」

小さい体で一生懸命サンジを見上げるチョッパーから、逃げるように港に向かって手を振った。
そこには荷物を抱えて走ってくるナミがいた。

しかし、いつもだったら“はいはい”と軽くあしらわれるのに、何故かナミはサンジに手を振り返してきた。
というより、何かを指差しているようだった。

「どうしたんだ?」

ナミの尋常ならぬ慌てっぷりにサンジが首をかしげていると、チョッパーも甲板から顔を覗かせた。
すると、ナミ以外のクルーたちも続々と走って戻ってきた。
その更に後ろには、白いシャツに帽子を目深にかぶった男たちが、ナミたちを追ってきている。

「まさか…」

その見覚えのある服装は嫌な予感しかしない。

「船だすわよ!」
「ど、どうしたんだっ!?」
「いいから帆を張って!」

一番に船に辿り着いたナミは、脇目も振らずに指示を出した。
続いて他のクルーたちも船へ乗り込んで、いまだにイビキをかいているゾロをナミが蹴り飛ばしてから出航した。
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