Rachel

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「うわっ!どこ見てんだよ!テメー!」
「あぁ、わりぃ」

サンジがタイミングを合わせて表に出ると、予想通りガラの悪そうな男が睨みをきかせてきた。
そして少女が逃げていった路地を背にして、サンジは悪びれた風でもなく言った。

「もしかして、あの子探してんのか?」
「なに?知ってるのか!?」
「おう、さっきあっちに走ってったぜ?」

サンジが適当な方向を指差すと、男たちは礼も言わずに去っていった。

誰も居なくなってから振り返ってみると、すでに少女の姿は跡形もなくなっていた。
慌ててサンジも路地を進むが、その先に分かれ道があり少女の姿も見えない。

どっちへ行こうか迷ってると、突然けたたましい音がした。

――ガタッ!ガタン!

「なんだっ!?」

驚いて振り返ると、崩れた木箱とその下敷きになった少女を発見した。

「大丈夫かい?」

木箱にでも躓いたのか、少女は足を擦りながら蹲っている。
それを助け起こそうと手を掴んだら、少女は再び逃げ出そうとして、また転んだ。
どうやら足に怪我をしているようで、両足とも泥とは別の色で染まっていた。

「大丈夫だよ。オレはアイツらの仲間じゃねぇから」

涙目で“この世の絶望顔”になっている少女に、サンジはなるべく優しく微笑みかけた。

とりあえず少女を木箱に座らせ、サンジはその前に膝をついた。
応急処置くらいならできる、と思ったが、よく見てみると怪我と言うより変な模様の痣みたいなものが足全体に広がっている。
まるで病気のようだ。
足先が傷だらけなのは裸足だからだろうか。

「これは…医者に診てもらった方がいいと思うけど…」
「っ!」

痛々しいその症状に医者を勧めたが、少女は激しく首を横に振った。
足を引き寄せて、木箱の上で体育座りのようにして震えている。

何か医者に掛れない理由でもあるのだろうか。
遠くにあの男達の怒声が聞こえた。

「だったらオレたちの船に来るかい?ウチの船医はいいヤツだよ」

青い顔をして必死に首を振る姿に心を痛めたサンジは、少女を下から覗き込んで視線を合わせた。
俯いていた少女はその言葉に顔を上げ、瞳に警戒の色を浮かべながらもサンジの顔を真っ直ぐに見つめた。

「海…みてぇだな」

透き通る青い瞳に吸い込まれそうな感覚に陥ったサンジは、無意識に呟いていた。
少女は決して口を開こうとはしなかったけど、警戒が少しずつ戸惑いに変わっていくのが分かった。
親切にされ慣れていないのか、少女は困惑しているようだった。

「おいっ!いたぞ!!」

そこえへ突然、第三者の声が響いた。
驚いて振り返ると、先ほどサンジがワザとぶつかった男がこちらを指差していた。
それを合図に次々と男たちが集まってくる。

「ヤベェ…」
「っ!」

荷物を持ってから素早く小さな体を抱き上げると、少女の息を飲む声が聞こえた。
男たちに囲まれた恐怖と、突然抱き上げられた驚きで、少女はサンジのジャケットを掴んだ。
その震動を布越しに感じたサンジは、少女の肩をしっかりと抱きしめて走り出した。

途中、立ちはだかった男たちを蹴り倒したが、その度に少女が縮こまっていた。
これ以上負担をかけないように、とサンジは男たちをなんとか振り切って船へと辿り着いた。

「チョッパー!」
「早かったな、どうしたんだ?」

まだ誰も戻っていないらしく、船室からチョッパーがトコトコと甲板へやってきた。
薬でも作っていたのか、スーッと鼻を通るようなニオイがした。
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