頑張るやつ | ナノ

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 冬である。外から事務所に戻ってきた北斗はコートも脱がずにまずヒーターで暖を取る。あとの二人のために端に寄っているのになかなか来ない。何をしているのかと振り返るとお互いで暖を取っていた。要するに抱き合っていた。事務所のど真ん中で。幸いにも三人の他には誰もいなかったが、どうも二人は寒さを言い訳にすれば多少くっついているのを見られても問題なしと思っているらしかった。端から見れば全然多少の範囲には収まっていないが。
「ヒーター、空いてるよ」
 一応声を掛けるが二人は首を振る。
「いや、結構あったまった」
 言いながら全然離れようとはしない。もう暖とかよりそうしてたいだけだなと思ったので気にしないことにして遠慮なくヒーターの温風を背中で浴びる。こういう光景を見続けて長いもので、北斗の方もめったなことでは動じなくなってきている。背中が寒かったらしい翔太は体を反転させて冬馬に背中側から覆われる形に体勢を変えた。もこもこしていて見ているだけで暖かそうだと北斗は微笑む。
「あったけー……翔太はお子様体温だもんな?」
「子供だし。冬馬君こそ熱血体温じゃん?」
「なんだよ熱血体温って」
「熱血の体温だよ」
 中身のない言い争いをしてじゃれている。からかいにちょっとむっとした顔をして乗っかるのはお約束のようなものだと北斗も理解しているから仲裁には入らない。
「おまえの方が体温高えだろ、子供体温」
「冬馬君の方じゃない? 昨日も暑いってお布団蹴飛ばして落としちゃったじゃん」
「それはおまえがひっついてたからだろ」
 いやこれ聞いてていい会話か?
「じゃあちゃんと測ろ。どっちが高いか」
「いいぜ。絶対ガキのおまえだからな」
「北斗くーん! 体温計ないかな?」
 結局巻き込まれるのか、と思いながら備品の箱からデジタル体温計を取り出す。二人はコートを脱いで襟元をぱたぱた引っ張り体温を下げようとしている。小学生か。
「先測るよ」
 翔太は長袖の裾を捲って腋に挟む。ほんの数十秒で電子音が鳴った。三人揃って覗き込む。
「36.8」
 代表して本人が読み上げる。
「結構あるけど、平均の範囲かな」
「俺平熱36度5分だぜ」
 冬馬は得意気に胸を張る。翔太から体温計を受け取ってセッティングする。勝ちを確信しているらしい表情。
 油断しきっている冬馬に、不意に翔太がその肩を掴んで引っ張り背伸びをする。この後起きることを完全に理解した北斗はものすごい勢いで身を翻す。
 電子音。
「ほら! 37.2だって! 冬馬君の方がずっと高いじゃん」
「いやっ、おまえ、だってあれは……」
 声がひっくり返っている。見なくてもきっと赤い顔をしているんだろうなと分かる。北斗はその辺にあった雑誌を熱心に眺めて何も見ていなかったアピールをする。
「てめ、北斗もいんのにっ……」
「大丈夫だよ、雑誌見てるし」
「金運に恵まれる月。宝くじが当たるかも!?か……」
「……大丈夫そうだな……」
 どう見ても不自然だが二人は納得したらしい。
「ねえ北斗君見て見て。37.2」
「おや。冬馬、随分高いね」
「熱血だからね〜」
 理由になってるんだかなってないんだか微妙なことを堂々と言われると正しいような気になる。冬馬は納得いかないといった表情で体温計を突きつける。
「今のは無効だ無効! もう一回!」
「も〜負けず嫌いなんだから」
 体温計を受け取り翔太は勝ち気に笑う。冬馬も片頬笑む。なんとなく今後の展開を察して北斗はいかに誤魔化すかに頭を悩ませることになったのだった。
20181218
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