頑張れ北斗くん | ナノ

頑張れ北斗くん

一応[これ]の続き

 北斗はJupiterのことが好きなので、仮に翔太と冬馬が事務所のソファの上で上下に重なった状態で出迎えたとしても笑顔で朝の挨拶が出来る。仮にというか今まさにそういう状態だったけど北斗は気にしないでいることが出来た。冬馬の胸の上に置いたスマホをいじる翔太と、その頭越しに雑誌を捲る冬馬は、正直その体勢でいる必要性が全く分からなかったが二人がいいならそれでいいかと北斗は思った。割と諦めに似ていた。
 座り直した二人と打ち合わせに移行する。途中でプロデューサーが冬馬を呼びにきた。返事をして立ち上がった冬馬は、いってらっしゃいと手を振る翔太に自然な仕草で顔を近づけ、寸前で気付いて慌てて身体を離した。焦ったように周りを見るが、北斗は突然自分の生命線の長さをプロデューサーに確認してもらいたくなっていたので誰も二人を見ていなかった。
「もう、冬馬君ったらうっかりなんだから」
「わ、悪ィ……つい……」
「俺の手相、そんなに悪くないんですね」
「ついって何」
「いや癖で」
「結婚線も見てみますか? ふふっ」
 北斗は一生懸命プロデューサーの注意を逸らした。いくら二人が分かりやすいとはいえ隠したがっているなら協力してあげたい。
 冬馬とプロデューサーは連れ立って倉庫へ向かった。打ち合わせは中断となる。
「冬馬君って結構抜けてるよね」
「そうかもね」
「冬馬君、昨日もさあ……」
 翔太から冬馬の話を聞くのもその反対も、普段は割と楽しんでいたが今さっき頑張ったばかりで北斗はちょっと疲れていた。
「一回冬馬の話禁止ね」
 試しに言ってみた。「なんで? いいけど」と言ったと思ったら翔太は口を開けたままフリーズする。え? マジで話題ないの? 北斗がうろたえ始めた辺りで翔太はようやく硬直から脱した。
「あ、僕の家ねえ、今夜唐揚げなんだよ」
 無理やり感のある話題だが北斗は一安心する。沈黙が続いたらどうしようと思ったので。
「それは良かったね。好きなの?」
「冬馬君が?」
「唐揚げがね」
「うん、どっちも好き」
 それは訊いてないし知ってるんだけどな、と北斗は思った。俺以外にそんな喋っちゃダメだよ、とも思った。隠す気があるなら。さりげなく言うべきかとも思ったが、さりげなく言っても伝わるかちょっと不安だった。変に誤解されても困るし。
 冬馬が戻ってきた。次北斗の番だとよ、と奥を指す。向かった倉庫では古い衣装の確認と整理を行っていた。北斗は体型も完璧に保つタイプなのであっさり終わった。
 事務所に戻る。念のため自分のソロ曲を大きめにハミングしながら帰った。変な場面に遭遇したくないので。サビと共にドアを開くが、二人は普通に手を繋いで座っているだけだったので安心した。ちょっと二人に悪かったかな、とも思った。いくら最近の様子がおかしいと言ってもそこまで迂闊な二人ではない。最近の様子はおかしいけど。
 翔太は入れ替わりに倉庫に向かい、北斗は冬馬に「翔太の話禁止ね」と言ってみる。「なんで?」と冬馬は首を傾げたが承諾して、話題を探して口をぱくぱくさせる。
「あの……俺は……サッカーをよく見ます」
「そ、そう……。好きなの?」
「翔太がか?」
「サッカーがね」
「まあ、どっちも普通に」
 正直な話、北斗はこの流れを期待していたところがあったので冬馬の反応が予想通りでちょっと嬉しくなった。
「禁止って言われると何話してたか分かんなくなるな……」
「まあそれはあるね」
 しりとりをして時間を潰していたら翔太が戻ってきた。打ち合わせを再開する。
「このロケ、なんか食べ物もらえたりするかな?」
「あんま無理言うなよな」
「無理には頼んでないよ。くれるんだよ」
「翔太はすごいね」
「安売りまでちょっとあるから野菜もらったらこっち回せよ」
「冬馬君も欲しいんじゃん」
「どうせおまえらも食うし……今日泊まるんだろ?」
「え? 今日の夕飯唐揚げだから家帰るよ」
 それを聞いた瞬間の冬馬はものすごく驚いて、顎が外れたかと思うくらいぱかっと口を開けて、それから少し俯いた。
「まあ唐揚げなら仕方ねえよな……」
 そう言った冬馬が酷くしょんぼりして見えたものだから北斗は思わず翔太を見た。どうにかしてやってくれと頼る気持ちだった。翔太もつらそうな顔をしていた。唐揚げと冬馬の二択は少年にはあまりに難しい問題だった。
「……分かった、僕、冬馬君ちに泊まる」
「無理するなよ……唐揚げだぞ」
「一回家帰って、唐揚げ食べてから行く」
「遅くなるし……」
「大丈夫、唐揚げ食べるし」
 この唐揚げに対する信頼は何?
「唐揚げも食べれるし冬馬君にも会えるし、僕は嬉しいけど」
「その、俺……昨日カレー作ってて……」
「唐揚げもカレーも食べるよ!」
「翔太……!」
「冬馬君……!」
 なんやねん、と北斗は思った。
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