北斗くん頑張る | ナノ

北斗くん頑張る

 まず前提として、北斗はJupiterが好きだ。もちろんあの空に浮かんでるあれではなくて、いやあの星のことも普通に好きだけど、そうじゃなくて自分の所属するユニットのことが。当然そのメンバーの二人も。冬馬と翔太。二人のことは家族のように、弟のように、あと友達とかライバルとかそういういろいろ混ざった気持ちで大切に思っている。目に入れても痛くないしそれどころか目の中で暴れまわられても、いやさすがにそれは痛いかもしれないけど、でもそれをやられても笑顔で許せるくらいには好きだ。
 初対面の時からどうも翔太は冬馬のことが恋愛的な意味で好きらしいなとは気付いていた。ていうか気付かない方が難しいくらい露骨だった。体感三秒おきくらいに冬馬君って言ってた。気付いてないの冬馬本人くらいだったんじゃないか。それを生暖かく見守っているうちにどうやら冬馬も翔太のことが好きになったらしいなと分かった。こっちも露骨だった。そんなに眩しそうに翔太を見るんじゃない。ちょっと近くに寄ったくらいですぐ赤くなって逃げるのに翔太はなんでだかその理由になかなか気付かなかった。いや本当になんでだ?
 ともかくもお互い片思いだと思い込んでいる二人のために北斗はらしくもなく頑張った。妹が風邪とか母が風邪とか近所の野良猫が風邪とか何かと理由を付けて二人きりで過ごせるようにしてやった。いいかげん理由を考えるのも限界になってきて、妹の担任の友達の近所のおばさんの親戚の人が風邪になった辺りでようやくくっついたらしい。らしいと言うのは直接聞いたわけではないからだ。どうやら二人は周りには黙っていることにしたらしい。寂しいとは思うが仕方のない決断であるとも思う。同性だしアイドルだし。
 ではどうしてくっついたと思うのかと言えば、もう見れば分かるとしか言いようがない。北斗は資料から顔を上げて、向かいに並んで腰掛ける二人を眺める。仲良く一つの資料を覗き込む二人はなんでだか手を繋いでいる。それも指を絡め合う俗に言う恋人繋ぎで。どっちだ? 隠したいの? オープンなの?
「どうした? 北斗」
 見ていたら冬馬が顔を上げて不思議そうな顔をする。翔太も隣で同じ表情で小首を傾げる。恋人繋ぎで。なんなんだ?
「いや……今日もいい天気だなあと思って」
「そうだな。じゃ打ち合わせちゃんとしようぜ」
 うん、と北斗は頷く。ちゃんととか言った割に手繋いだままだし片手でやりにくそうにメモ取ってるけどいいのかな。もういいか。なんか疲れた。何が悲しくて家族みたいに思ってる男同士がいちゃついてるところを見なけりゃならないのか。
 でもやっぱり北斗はJupiterと二人が好きなので全然許せた。

「でねえ僕昨日冬馬君ちに行ったんだけど」
「うんうん」
「冬馬君、僕が人参いらないって言ったの覚えててね、すりおろして混ぜたんだよ。酷いよねえ」
 酷いとか言うくせになんか妙に嬉しそうにしている。人参を食べさせられたことよりわざわざ手間を掛けられたのが嬉しいとかそういうやつだろうか。北斗は笑って「そうだね」とか適当に答える。
「人参すりおろすの大変そうだよね。あ、僕もう行くね。また後で!」
 のろけるだけのろけて翔太は去っていった。
 しばらくすると冬馬がやってきた。
「昨日翔太が家に来てさあ」
「うんうん」
「あいつ人参いらねえとか言ってやがったからすりおろして混ぜてやったんだ。気付かねーで全部食ってたぜ」
 勝手に語り出した冬馬は得意げな顔をする。いやそれ翔太気付いてて食べたんだよ、とは言わない。北斗は優しいので。あと面倒なので。「良かったね」とか適当に返事をした。
「すっげえ大変だった。固いよなアレ」
「そっかあ」
「そういや、おまえの妹の担任の友達の近所のおばさんの親戚の向かいの家の飼い犬の具合どうだ? 昨日それで帰ったんだよな」
「ああ、もうすっかり良くなったよ。でもまた急に悪くなるかもしれない」
「そうか」
 雑談していたら翔太が戻ってきた。当たり前みたいな顔をして冬馬の隣に座って手を繋ぐ。もう慣れたので北斗は何も気にしない。さすがにそのまま外に出たら止めるけど。
 寂しいなあ、と気付いたら声に出ていた。二人は驚いて、心配そうに北斗を覗き込む。大丈夫、と返事はしたけれどやっぱり寂しいもんは寂しいので手を繋いだままの二人をまとめて抱きしめた。
「……こうして三人でずっといたいなあ」
「当然だろ?」
 もうしばらくは。冬馬が成人する……いや翔太が成人する辺りまでは三人でいたいと思う。一人と二人ではなくて。
 でないとこの二人は平気で恋人繋ぎのまま外出するだろうから。
20180319
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