わがまま王子 | ナノ
わがまま王子と私の学校生活
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キングズクロス駅は相変わらず混んでいた。

人混みを嫌うルシウスは、終始眉根を寄せている。


「急ぐぞマリア、去年より10分も遅れている」

『ルシウス様がいつまでも寝ていらっしゃいましたからね』

「マリアがなかなかキスをしてくれないからだ」

『まるでしたかのような言い方をなさらなでください』


急ぐと言いつつも、ルシウスは急ぐ気配をまったく見せない。

マルフォイ家の跡取りが髪の毛振り乱して走られても困るし、遅れていると言っても汽車の出発時間まではあと1時間以上残っている。

そのため、ルシウスの立ち振る舞いは正しいのだが、自分のことを棚にあげて遅れていることを人のせいにしたあげく、誤解を生むような発言をするのは控えて頂きたい。


9と3/4番線に入り、ようやく人混みから解放された。

まだまばらにしか人がいないホームにホグワーツ特急がちょうど到着するところだった。

今日は新学期が始まる日――ルシウスの生活の場がマルフォイ邸からホグワーツへ変わる日だ。


「明日から君の甘い声で目覚められなくなると思うと残念で仕方がない」

『私はとても気分が晴れやかです』

「毎日私の部屋に来て寝てもいいのだよ?」

『結構です』


ルシウスに続いて先頭のコンパートメントに入りながら、マリアは小さくため息をついた。

非常に残念なことに、新学期が始まっても私とわがまま王子は同じ学校に通い、同じ寮で暮らさなければならない。

唯一救いなのは、彼はとても外面がとてもいいということだ。

もちろん純血の者に対してだけだが、常にリーダーシップを発揮し、レディーファーストを心がける彼は、スリザリン生を中心に人望は厚い。

そのため、周りに人がいるところでは決してわがままな面を見せることはなかった。

スリザリンの監督生で頭脳明晰、容姿端麗なマルフォイ家の王子様は、マリアに対してだけわがまま王子に変身する。


「せっかく2人とも監督生なのだから、有効に使おうではないか」

『私が1人で過ごす場所として有効に使わせて頂いています』

「私はマリアと2人で過ごすために使いたい」

『お断りします』

「つれないね。私とマリアの仲じゃないか」


どんな仲だ。

そう聞こうとしたマリアは寸でのところで口をつぐんだ。

どうせろくな返事は帰ってこない。

マリアは隣で髪をいじっているルシウスを無視し、早く誰か来ないかなと窓の外へ顔を向けた。





寮監と今年度のイベントのスケジュールを確認した後、マリアはルシウスと一緒に見回りの仕事を与えられた。


「ブラック家の次男のほうはなかなか将来性がありそうだな」


今年ホグワーツに入学し、スリザリンに組分けされたレギュラス・ブラックのことをルシウスは気に入ったようだった。

城内の見回りをしている間中ずっと、兄のシリウスと比べていかに弟のレギュラスが優れているかを語っていた。


『そうですね。それで?どうして私がルシウス様の散歩にお供しなければならないんでしょうか?』


見回りの時間はとうに過ぎている。

にもかかわらず、ルシウスはマリアを帰そうとはしない。


「従者たるもの常に主と共にあるのが普通だろう。それから学校では私達は主従関係ではないのだから、敬語も様付けも必要ないと言ったはずだ」

『……言ってることが矛盾してますよ、ルシウス』


今に始まったことではないのだが、ルシウスはよくこういった発言をする。

従者としての立場と学友としての立場とどちらを求められているのかわからない。


『どちらの関係をお求めで?』


言ってから、「学校にいる間は特にルシウスを甘やかさないよう対等に接するように」とアブラクサス様に言われていたことを思い出した。


「あえて言うなら恋人……かな。マリア、今日は私の部屋で共に寝ようではないか」

『……どこからそういう発想になるんですか』

「君のキスがないと私は眠りから覚めることはできないのだと言ったではないか。もっとも、君が一緒なら眠れない夜になりそうだが――」

『一生寝ていてくださいっ』


周りに誰もいないことを確認すると、マリアはルシウスの鳩尾に拳を入れた。

野蛮な方法だが、この際気にしないことにする。


「くっ……さすが私のマリアだ。急所を心得ているね」


ルシウスは壁に手をつき、膝が床につきそうになるのを辛うじて堪えた。


「痛い愛情表現には慣れていないが、君にやられるなら本望だ。殴りたいなら殴りなさい」


何を言っているのだこの人は。

わけのわからないことを言うルシウスにもう1発お見舞いし、マリアは1人で寮に戻りながら、監督生という役柄を喜んで引き受けたのを今更ながらに後悔した。


マルフォイ家に仕える者なら成績優秀で模範的生徒であってしかるべきだ。

アブラクサス様に恥はかかせられない。

だからといって、年々ひどくなるわがまま王子のセクハラ発言の相手を学校でもしなくてはならないなんて。


まさか明日の朝起こしに来たりしないでしょうね……。


監督生にだけ与えられる1人部屋に入ると、マリアは厳重にカギをしめ、ついでに防御呪文も張ってから眠りについた。


わがまま王子と私の学校生活 Fin.


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