それは知らなければ良かった事かき混ぜられた同志二人反発し合う少年少女を見てる事前提。及び正反対の二人を見てると更にいいか、も?)(!! この物語には当サイトのホワイトの過去話が含まれます。残虐性・流血表現・暴力表現等が含まれますので苦手な方はご注意を !!



―ゆらゆらと長い茶髪のポニーテールが揺れる。手元には、赤と白のボールが一つ。モンスターボール、一番世に普及されている、一般的なボールだ。かち、と閉じられたそのボールには彼女のポケモンが治まっている。目の前には目をくるくる回した相手側のポケモンが倒れており、頭巾を被った水色の男はボールにそのポケモンを収めると、ダークブラウンの瞳を少女に向ける。ポケモンの入ったボールを腰元のベルトに固定した少女は、此方を見る男に静かに問いかけた。「一体、貴方達はポケモンを人々から切り離して、何をたくらんでるの?」その少女の言葉に男は―笑った。それが、全ての始まり。



ホワイトはブラックたちと同じく、アララギ博士からポケモンを貰った。水タイプのポケモン。人のようにそばかすのようなものがあるポケモンは愛嬌よく、ホワイトとの相性は抜群だった。私と一緒に頑張ってくれる?その少女の問いかけに、彼女の手持ちとなったポケモン―ミジュマルは鳴いて答えた。そして、一人と一匹の、双子と幼馴染を追いかけながらのゆっくりとした旅は始まった。揺れる長い髪の毛は楽しげで、少女は双子の片割れに想いを馳せながら、ゆっくりと、着実に自分が愛せるポケモンを増やしていく。そして、カノコタウンから旅立って始めてのシティで、彼女は双子―ブラックが出会った男に出会う。長い緑色の髪に、悲しげな色を帯びた瞳の男性。自分達より数歳は年上だろうけれど、まだまだ若い人。Nと名乗った彼は、「ブラックの双子さん?」と緩やかに弧を描き笑って見せた。背筋に走った電気は彼が悲しく、危険で、危ないことを教えてくれた。だからホワイトは、彼に対し曖昧な笑いと、ぴりぴりした空気を出し避けた。この人には、関わってはいけない。その思いは強いけれど、彼に届いているかは分からず、ただ彼はホワイトの腰元のボールを指差し、一言だけ呟いた。



「―君のコも、幸せそうだ。この世界にはまだそんな綺麗なものがあるの?」

「…は、?」

「…ああ、君も彼同様美しい心の持ち主か。じゃあ、汚れたら大変だね。君は彼とは違う強い心の持ち主だけど、ボクによく似てる。だから危ないな、君は、彼と違って立ち向かってはいけない。水色の者を見ても、追いかけてはダメだ」

「……何言ってんの、意味わかんない。何、アンタ、電波な人?悪いけど、ブラックに近づかないでくれる、変なのがうつったら、困る」



変な団体の勧誘者にも見えたNの言葉にホワイトは冷たく言葉を返しするりと彼の横を歩いていく。Nが悲しげに見ている事に気付かず、ホワイトはただ、前を見て歩いた。「…ああ、そっちに行っては、ダメだよ」Nの呟きなど、彼女に聞えるはずは―なかった。







街を出て歩いて少しすると、ホワイトの前にNの言っていた水色を纏った男が現れた。否、居た。泣き出す幼い少女の手から奪ったポケモンをボールに収め、じっと少女を見ていた。服には特徴があり、ホワイトは一目で異常な光景に気付きかけより少女を背中に隠し男を見つめた。「何、してるの」「―ポケモンを奪っただけだ」「―は?…何、それ」ホワイトがボールに手をかけたと同時に、男は腰元のボールからポケモンを出す。ミジュマルの攻撃は運良く急所に当たりポケモンは直ぐに倒れる。男はそのポケモンをボールに戻せば、ぱしっとホワイトの手に奪ったポケモンの入ったボールを投げた。「…強い。あの坊主と一緒だ」「坊主?…それって、私と色違いの帽子を被った、?」「ああ、そうだ。…そうか、お前がホワイトか。あの坊主が、自分以外にもきっと邪魔をする人間が居るといっていたが…それが、お前か。無垢な白の、存在」「だから、何?」ホワイトの問いかけに男は答えずただ笑い、「綺麗な世界に居るのは、心地がいいだろうな」と呟き背を向けて歩いてしまった。ホワイトはただ意味が分からず、少女にポケモンを返し、男の言った言葉を考える。―アイツもまたNのような電波の人だろうか。ああ、なんだか雲行きが怪しくなってきた。平和なはずの旅は、平穏無事には行かないかもしれない。だとしたら、心配なのは幼馴染たちとブラックの事だ。息を吐き出したホワイトはここに居ても仕方ないと歩き出す。―ホワイトが歩いていった後ろでは、少女がポケモンを手に微笑んでいた。



ライブキャスターでブラックとやり取りをしてみれば彼等は「プラズマ団」という、人からポケモンを奪い、開放を叫ぶ集団だと知った。ではNは彼等の関係者だろうか、何だか同じ匂いがする。ブラックに首を突っ込み過ぎないようにと注意を促したとき、ホワイトの側を幼い兄と妹の兄妹が掛けて行く。返して、返して。―ホワイトは次の瞬間ブラックの制止をよそに電源を切り、兄妹を追いかけていった。その先には、あの男が居た。



勝負に勝ったホワイトに男は笑う。首をつっこみたいのか、と。過ぎったのは、ブラックに危ない事には自分から飛び込むなと注意したばかりの、自分の言葉。今が境界線。このままで居れば、きっと自分は、Nの言った綺麗な世界に居られるはずだ。けれどこの先を行けば、自分はもうあの、甘い世界には戻れない。どうする、どうすればいいか。ブラックはきっと、この線を越えて、あのNとプラズマ団の考えることを読み、行動していくに違いない。彼は純粋で、何にも染まらない。正義と悪で区別をしないし、何が悪いというわけでもない、変わった子だ。ブラックが巻き込まれる前に、自分がなんとかできれば、それでいい。―ホワイトは笑い、「突っ込みたい」と言った。その言葉に男は哀れな目を向け、「…じゃあ来い」とホワイトに背を向ける。―――そしてホワイトは男についていき、己の居た世界、信じていた世界が汚いことを知った。







目隠しをされ、連れて行かれた場所はどこかの倉庫。全てが終われば先ほどの場所に返してやるという男の言葉に息を呑みながらホワイトは当たりを見回す。さびた倉庫は余り使われていないらしいく、鉄の匂いが酷い。埃っぽいし、咳き込みそうだ。此処に何があるの、というホワイトの言葉に男は答えずがらがらと扉を開け中へ入る。―そしてホワイトは同じく中に入り、びくりと足が、止まった。



いくつもの檻に入ったポケモン。かっぱりと傷口が開き、化膿し酷い状態のポケモンもいれば、痩せこけぐったりとしたままぴくりとも動かないポケモンも居る。―そしてホワイトの視線の先に居たポケモンは、特に酷かった。皮が剥がれ肉が見えたポケモン。ひぃひぃと息をし、虚ろに宙を見つめたそのポケモンの周りはどす黒く汚れた血が地面を汚し、生きているのが不思議なほどだ。片足が無く、汚れた包帯が外れている。「あれが此処で一番酷い奴だ」そう男が呟いた瞬間、ホワイトは口に手をあて、思い切り―――吐いた。



「う、っぇ…ゲホッ、げ、ェ…ッ、う、ぐっ…ゲホッ、ゲホッ、うェっ…っ、ぁ、っ…」



昼時の時間だったけれど、生憎まだ食事はしていなかったため胃には何も入っていない。朝食は元からそれほど食べないし、既に消化されている。胃液(胃酸だろうか、)を吐き出しホワイトは座り込みハアハアと息を荒くし、涙で滲んだ視界で男を見上げる。何、これ。何なの。ホワイトの声のない問いかけに、男は目を細め、呟いた。



「――これが、綺麗な世界の裏側の真実だ」



男の言葉は重くホワイトに―――圧し掛かった。











それから暫くホワイトは滞在した街から出ることなく、ブラックのライブキャスターからの応答にも答えなかった。旅をするトレーナーに休む部屋を提供している女性がホワイトが倒れこんでいるのを発見し彼女を自分の宿に連れてきてから、ホワイトは食事を一切取らず、水のみで部屋に篭っていた。預けられたミジュマルや他のポケモンはホワイトが見てしまった光景に意気消沈し、ホワイトが閉じこもっているためか女性が与える食事にもほとんど手をつけず。ただ、ホワイトがもう笑いかけてはくれないのではないかと、それだけが―彼等には不安で、仕方が無かった。



そろそろブラックが心配して探しに来るのではないか、そう分かってはいるがホワイトには動く気力も何もない。あるのは、世にはポケモンを道具として扱い、時には奴隷のように、時には自分の性癖により興奮するためにポケモンを傷つけ満足を得るような人間が居る事により、ポケモンが傷つき、壊れていく―その事実だけだ。何故そんなことが出来るのだろう。ホワイトは自分が手にした最初のポケモンであるミジュマルの顔を思い浮かべ、シーツに顔をうずめる。自分にとって、ポケモンは、ミジュマルは、初めて手にしたともだちであり仲間で、人とは違う絆を育める相手で。愛したら愛した分だけ答えてくれて、喜びも、悲しみも、分かち合える相棒だ。ブラックに懐いたポカブも、ベルと楽しげに笑っていたツタージャも、チェレンの手元にいる同じポケモンたるミジュマルも、自分のミジュマルも。どの子も、不安な中それでも嬉しそうに笑っていた。残されたほかのポケモンはアララギ博士が別の人に渡すと言っていたし、彼女のことだ、きっといいトレーナーに渡すに違いない。どの人もポケモンも、傷つけあうのではなく幸せを分かち合っていたというのに。どうして、どうして。



「せかいは、ほんとうにうつくしいの…?」



知っている優しい絆。酷く悲しい仕打ち。知ってしまった二つはホワイトの胸の中をぐるぐる巡る。分からない、分からない。



―コンコン



びくりとホワイトの体が揺れる。震える声で「はい、」と答えたとき、静かにドアが開き――――見えたのは、双子の片割れと、緑の髪のあの男。



「…ホワイト、…具合、悪い?」

「っ…ブラック、なんで、なんでその人と、」

「…だから言ったんだ。ダメだって。…君は、僕と同じだ」

「…アンタ…あいつ等の仲間…?―――あんなに酷いものを見てきたってわけ?」



ぐしゃりと歪んだ顔。ブラックはよく分からないといった顔で二人の顔を見る中、Nは目を細めホワイトを見つめる。――それが答え。その瞬間ホワイトはベッドから飛び出しNの頬を、強く叩いた。



「っ、ぅ…」

「ホワイト!?」

「止めて、止めて、止めて!!ブラックに近づかないで触らないで教えないで!」



あんなものは、この人にはやめて。

ホワイトの叫びに、Nはよろめきながら目を閉じる。―ああやっぱり、恐れたとおりだ。彼女はブラックのように澄んだ心を持っていた。だからこそ。…自分のように歪んでしまった。



「…ごめん、ホワイト」



小さな囁きはブラックにしか聞えず、ホワイトは口元を押さえ洗面所に駆け出す。―意味の分からないブラックは、ただ赤く腫れたNの頬に触れて、戸惑いながら呟く。



「…何があったかは、聞かない。…ただ、どうして二人とも、」



そんなに、悲しい目をしてしまったの―?



頬に触れられた手は暖かく、…Nはただただ、目を閉じた。



世界はほんとうに美しいですか

(そして少女は恐れ始める。緑の髪の美しい少年から、大事な片割れが自分のように壊れてしまうのではないかと)



10.09.30


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