偶然見かけたホワイトに声をかけ、軽い挨拶がてらポケモン勝負を挑んだのがそもそも間違いだった。活発的で僕達を見ると笑いかける彼女は曖昧な態度をし、僕から離れようとしていた時点で気付くべきだった。彼女が不機嫌だということを。だが生憎僕は暫く彼女と会わなかったし、精神的に成長し始めた僕達は少し会わないだけで相手の性格の変化にかなり驚く。彼女に前回会ったとき、天敵が出来て憎たらしいとはき捨てられたときどんなにブラックが知り合いの子供達にのろまだと言われても笑顔で往なしていたというのに、怒り―いや嫌悪感丸出しのそれは見ることがなく、驚いたものだ。あれから暫く。大分他の街に足を運ぶことも多くなり、旅が順調だと言えるようになってそこで出会ったホワイトは前より大人びた顔をするようになっていた。だがそれ以上の変化があるとは思えなかったというそのときの僕の判断ミスを今殴って正したくて仕方がない。隠していた彼女の不機嫌さは顕著にバトルに出て、タイプ相性としては此方のほうが有利だったというのに力押しで彼女の怒りをまともに受けこてんぱんにされた。瀕死の状態に出来たのは、最初の一匹だけ。後はもう此方の全滅。何をそんなに怒り不機嫌さを顕にしているのか、目を丸くした僕に彼女ははっとし、慌ててポケセンへと引っ張られた。



「気付かなかった僕が悪い、前なら君の不機嫌さくらい一目見て分かったんだけど」

「旅に出てから私はそういうの隠すのうまくなったし、仕方ないから」



帽子を深く被り黙り込んでしまった彼女に僕はこっそり溜息を吐く。回復したポケモンは元気になり、それぞれボールから出してポケセン内ならば自由にしていいと好きにさせている。どこかのトレーナーの手持ちらしいポケモンと戯れている姿は穏やかで落ち着くが、彼女の周りだけどうも薄暗くて胃がむかむかしてくる。こんな彼女は滅多に見ないし、正直双子たるブラックとホワイト、そして幼馴染の一人であるベルの対処については完璧だったはずなのに、今では分からなくなって―対処に困ってしまう。



「何があったんだ?正直ブラックの行動は、僕の向かう先に来るから把握できるんだけど、ホワイトは分からないから。ベル、はまあ僕達と同じ方向に来てたりするし…君も同じはずだけど、滞在してるとき見かけないし、見てもすぐに何処かへ行くし…、…その、何があって君がそうなったのか、正直分からないんだ」

「…ねえ、チェレン。ベルも、チェレンも…緑の髪の、整った顔の男に、何度会った?」



ブラックと頻繁に会うなら、知ってるでしょ。ぎらりと鈍く白い光を宿した瞳がこちらを見る。彼女の瞳は昔から、どす黒いもので占められるとき薄暗くなるのではなく、光を更に放つ。だからこそ彼女の眼光には力が有り、慣れているとはいえ恐れを抱く。



「緑の髪の整った顔の男?……ああ、カラクサで出会った意味の分からないことをいう、Nってやつか。彼の言動はプラズマ団のものによく似てるから覚えてるよ」

「で、回数は?」

「僕は…1・2回かな。最初はブラックと一緒に、次はブラックに話しかけていたのを見たくらい。僕もベルも彼がブラックに話しかけてるのしか、見てない。直接話したのなんて最初の一度だけだ。それもまともに会話したとはいえないね」

「…そう。じゃあ無駄か」



ぼそりと呟いたホワイトに僕は首を傾げる。じっと近くの観葉植物を見つめる彼女の顔は無言を貫き真剣そのもので、僕は思わずしかめっ面になる。ああなんだか、嫌な予感がする。明るく朗らかな彼女がこんな顔をするときは、彼女が精神的に弱っているときや恐れているときだ。だが彼女は確実にポケモンバトルで強くなっているし、彼女自身も逞しくなっている。その分穢いものを見てしまっていると彼女は呟いたことがあるが、彼女は強い精神の持ち主で。へこたれなんて知らない人のはずだ。その彼女が、強くなったはずの彼女が弱くなっている。―ああ、最初に彼女を見て声をかけたのが間違いだった。でなければ僕は気付かずに、知らずにすんだのに。



「…Nとブラックの接触、出来れば今度からは止めて。知らなくて、いい。チェレンもブラックもベルも、私やNみたいに、裏側を、彼がいう開放が縛りつけだけじゃなく、醜い世界を現してることを」



もう甘いあの頃の世界には戻れない。そう呟いた彼女が今まで何を見てきたかは知らないけれど、――僕は初めて彼女が声もなく静かに泣くところを見た。



それは知らなければ良かった事

(声をかけなければ良かった。そしたら弱い彼女の涙など、僕は見ずに済んだ筈だから)



10.09.25


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