No pain No gain.
「それが、貴方の答えですか?」
おじさんの肩を掴んで壁へと押し付けた。
逃げ場を無くしたおじさんは情けなく眉尻を下げ、片手で緩く僕の胸を押し返してくる。
「な、何のことかな?バニーちゃん」
いつもの様にへらりとした笑みを浮かべるおじさんに、僕はどうしようもなく苛々させられた。
「昨夜、貴方の部屋にアントニオさんが泊まりましたよね」
確信しているわけではない、これは僕の推測だ。けれど目を見開くおじさんを見て、僕の推測が正しかったことを知る。
「な、どーして…。確かに、そーだけど」
やはり。僕の口から深い溜息が出た。
「お二人はどういう関係なんですか?」
おじさんの抵抗する力は弱い。
僕は更におじさんとの距離を詰め、腰にタオルしか巻いていない無防備なおじさんの脚の間へと自分の脚を割り入れる。
今朝、僕は見てしまった。
おじさんと、アントニオさんが一緒に出社してきたのを。
おじさんとアントニオさんは仲が良い。それは前からわかっていた。
だから二人が一緒に来たって、それは途中で出会ったのかもしれないし不思議なことではない。
だけど、僕は気付いてしまった。
ジムで擦れ違った時、アントニオさんから仄かにした香り。
それは、おじさんと同じシャンプーの香りだった。
アントニオさんがおじさんと同じシャンプーを使っている、という可能性も無くはない。
だけど、それだったら僕が今日まで気付かないわけがない。
アントニオさんが昨夜から、たまたまおじさんと同じシャンプーに変えた、その可能性が無いわけじゃない。
でも、普通に考えたらこれは、昨夜アントニオさんがおじさんの部屋に泊まった、ということだろう。
昨日、僕はおじさんに好きだと告げた。
キスまでしたんだ、いくら鈍いおじさんでもどういう意味で好きなのか、伝わっているはずだ。
その夜に、アントニオさんと過ごす、なんて。
僕はそれ程ポジティブな方ではない。
残念ながら、そんなに物事を自分の都合の良い方向に考えることはできない。
シャワー室へと向かったおじさんの後を付け、シャワーの音が止まるのを待ち、おじさんが出てくる頃合いを見計らって強引に中へと押し入った。
僕はすっかり、冷静さを失っていた。
その日一日、僕の考えは悪い方へ、悪い方へと向かってしまい、どうしても直接確かめずにはいられなかったのだ。
本当は、ゆっくりと待つつもりだった。
気持ちを伝えて、おじさんがそれを受け入れてくれるかどうかはわからないけれど、おじさんにも僕を好きになってもらえるように努力するつもりだった。
だけど、もしおじさんとアントニオさんがそういう関係だとしたら、僕が入り込む余地はないじゃないか。
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