No pain No gain.
「おい、どーした?」
どのくらいの間固まっていたことだろう。
けど多分、大した時間じゃない。
放心状態の俺の肩を叩いてきたのはアントニオだ。
「何でもねぇよ」
アントニオのお陰でようやく我に返った俺は、取り敢えずへらりと笑ってみせた。
いくらアントニオ相手でも、バニーちゃんに好きだって言われてチューまでされた、なんて、言えないよなあ。
「そうか、ならいーけどよ。悩んでることとかあったら俺に言えよ?」
アントニオは優しい。
俺のこと、本気で心配してくれてるって伝わって来る。
俺はアントニオのことが好きだ。
勿論、友人として、だけどな。
「ありがとな。なあ、もう帰るんだろ、飲み行かねぇ?」
真っ直ぐ部屋に帰る気にはなれなかった。
どーせ、さっきのことをぐるぐる考えちまって眠れないだろう。
こんな日は酒の力を借りるに限る!
翌朝、酷い頭痛と共に目が覚めた。
ゆっくりと瞼を開く。
ここは、俺の部屋だ。
昨夜の記憶はあんまりないが、取り敢えず無事部屋に辿り着いたらしい。
ベッドから起き上がり、着たまま寝たせいでしわくちゃになったベストを脱ぎ、シャツのボタンを外しながらリビングに向かう。
リビングから規則正しいいびきが聴こえてくる、ような。
リビングのソファーの上には、案の定アントニオの姿があった。
昨夜のこと、何となく思い出してきたけど、アントニオと一緒にいつものバーに飲み行って、それからうちで飲み直して。
そっから先は記憶にない。
取り敢えず俺は、未だ起きる気配のないアントニオに近付いてみた。
気持ち良さそうに眠っていやがる。
ふと視界に入ったアントニオの唇に、俺は昨日バニーちゃんにキスされたことを思い出した。
あのバニーちゃんと、キスかあ。
キス、ねぇ。
別に、嫌じゃなかったな、と改めて思う。
んで、もしかしてアントニオとしても嫌じゃないのか?と自問してみた。
熟睡しているアントニオに、俺は少しだけ顔を寄せてみる。
「うわぁ、酒くっせ」
無理だ、無理無理。
気持ち悪ぃ。
アントニオの五月蝿いいびきを止める為、俺は鼻を摘んでやった。
少し苦しそうに顔を歪め、ゆっくりと瞼を開いたアントニオに、溜息混じりに手を離す。
「ほら、起きろよ」
ソファーの上で軽く伸びをすると、アントニオは上体を起こした。
「悪い、帰ろうと思ったんだけど眠っちまったみたいだな」
俺はシャツを脱ぎ、シャワーを浴びる支度をしながら振り返る。
「いいって、俺こそ付き合わせて悪かったな。俺シャワー浴びてくるけど、お前も浴びる?」
でっかい欠伸をしていたアントニオは、欠伸を終えると顎を撫でながら頷いた。
「ああ、後で貸してくれ。ついでに髭剃りも」
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