「こがた、とりおんへぇ」
「ラッド、つーらしいぜ」
「らっど」
「ラッド」


二限目と三限目の間の小休憩。隣の席の米屋がとっておきの内緒話をするかのようにニヨニヨしながら小さな声で伝えてきたのは、暫く任務で学校休むわ〜、ノート頼むわ〜。と軽い感じでどっかに行った大して仲良くもないクラスメイトの為に先程の授業の記録をルーズリーフに記している時だった。


「なんでそんなニヨニヨしてんの?」
「え?面白くねぇ?」
「そのラッドって、なに?危険なん?」
「ラッドは危険じゃねーな。でもラッドのせいで危険にはなる」


どうやらそのラッドというのはバムスターの腹の中に隠されていたらしく。バムスターがこっそりラッドとやらを三門市内にばらまいていたのだそうだ。その数なんと数千。数千?!!


「最近イレギュラー門が頻繁に開いてたじゃん?」
「う、うん」
「それラッドのせいなんだって」
「な、なんと姑息な……」
「そ。だからボーダー隊員は今からラッド駆除にいきまちゅよ〜」
「え?え?!」


ぐわし、と首根っこを掴まれてズルズルと引き摺られる。最近首根っこ掴まれること多くないか?私猫か何かだと思われているの?


「米屋、私がボーダー隊員って知ってたの?」
「うん、奈良坂から聞いた。お前結構強いらしいじゃん?」
「うぇ?!」
「なんだっけ、捕捉、えんえー?訓練?」
「捕捉 掩蔽訓練」
「それそれ、それで、B級上がったばっかのにA級とかB級にバスバス当ててる奴がいるって。まあその分撃たれてるらしいけど?」
「ぐう」
「逃げた先を狙う頭がいいやつ。っつってたな」
「まじか!嬉しいな!」


米屋にズルズル引き摺られながら、奈良坂くんが褒めてくれていたらしい話を聞く。私は奈良坂くんを撃つどころか見つけれたことすら無いんだけど、やっぱりNo.2狙撃手は訓練中も余裕なんだなぁ。視野が広いのか?まあそれはともかく師匠に褒めてもらわなければ


「それってさあ、お前が数学異様に得意なのと関係あんの?」
「…え?」
「やっぱりあんのか。聞かせてみー?」


首根っこを引っ張られて、米屋の顔がめちゃくちゃ近くなる。ラッドの時よりも数倍くらいニヨニヨしている。こいつ、死んだ目のせいで何考えてるかわからんとは思っていたけど、侮れん。やばい。ちょっと、怖い。


「とって食ったりしねーから怯えんなって。あのな?」


出水がお前に数学のノート頼んだじゃん?あれさあ、お前が前回の中間テストで数学さ、学年一位だったって噂聞いたから頼んだんだって。出水も数学だけはやたらと得意だからさあ。やっぱ頭良い奴に頼みたかったんじゃん?
それでさ、オレ言ったんだよ。名字って狙撃手らしいぜって。そしたらビックリしててさぁ。そっか、名字ってまだB級上がったばっかだっけ?だから知らねぇのか。あれ?でも奈良坂がすげえって褒めてたよな?ん?頭いいっつってたんだっけ?


「そこで思った。B級上がりたてで、数学だけ学年一位の名字はもしかしたら、サイドエフェクト持ちなんじゃねーのかって」
「、」
「なんか一つだけ突飛したやつってのはサイドエフェクト持ちが多いんだよな。お前は恐らく目がいい。頭もいい。計算して撃ってる」
「……降参、私の負け」
「お、ネタばらししてくれる感じ?」
「うん、するよ」


そろそろ、公衆の面前で鼻先くっつけて話してる私達を見る外野の目が辛いしね。
米屋の洞察力には負けました。あれ、もしかしてこの鼻先くっつけてんのも、周りの目に耐えかねた私が白状する為に仕組まれてたり……いやいやナイナイ。ないと信じたい。もしそうだったら怖すぎるだろ。


「私のサイドエフェクトね、視覚数値化っての」
「視覚すーちか?」
「うん。簡単に説明すると。視界に入る動くもの全てに数字がふよふよ浮かんで見えるんだよね」
「…3とか4とか?」
「1とか2とか」
「へえ」
「その見える数字をね、計算すんの」
「計算」
「んーと、あっ RSAって知ってる?」
「あーるえすえー…」


あ。こいつ、洞察力がエグいだけで、馬鹿だ。そういえばこいつ死ぬほど馬鹿だった。ちゃんと説明したって伝わらないんじゃないの?


「……予測演算ってご存知?」
「よそ、く、えんざん?」


こいつまじで馬鹿だな、予測演算知らないのかよ。このSNS社会においてジョン・フォン・ノイマンをご存知ないのかい?お前は今すぐスマホ捨てて教科書持った方がいいぞ。


「……視界に映った数字を計算して、相手の次の動き…まあ未来を予測するの」
「…すげ」
「凄くないよ。いや凄いか。お前の頭よりは」
「お前結構口悪い?」
「お前の頭が悪い」
「喧嘩なら買うぞー?」


そうだ。数学どころか全ての教科が赤点の米屋に、私が17年かけて導き出した答えを今の一瞬で理解しろなんて無理なのよ。当たり前じゃん。だって米屋だもの。師匠は一瞬で理解して協力してくれっていってくれたけど、こいつは米屋。米屋とかいて馬鹿と読む


「失礼なこと考えてんな?」
「すごーい、よくわかったね」
「名字さんねー顔にねー、でてんの」
「私顔面派手だもんね。コンプレックスだから触れてくれんな」
「ん?まあ可愛いじゃん?」


なんだこいつ、ただの馬鹿じゃない!こいつは良い馬鹿だ!!!なんて良い奴なんだ米屋陽介。そういえばよく見たら米屋もイケメンじゃん!目が死んでるけど!目が死んでるけど!!


「でもやっぱすげーね」
「ん?」
「視覚数値化って事は、数字が浮かんで見えるだけなんだろ?ここら辺にふよふよ〜っと」
「うん」
「それを暗算?だっけ?一瞬で計算して予測するって。それって名字の努力?それとも天才?」
「え?」


この数字の意味に気付いたのは、中学校に上がってすぐの事だった。
あーXとかYとか意味わかんねー。と思いながら授業を受けていた。あまりにもわけがわかんなかったから、暇潰しに前の席の男の子に浮かんでいた数字をXとして1時間本気で解いてみた。
もちろん、中一レベルの私の頭じゃあ解けるわけがなかったけれど、分かったことはあった。


この浮かんでる数字、数学使ったら解けるんじゃね?


それに気付いてからはもう死に物狂いで問題集を解いた。社会とか技術とか歴史とか捨てた。英語は割と数学に役に立つので英語と数学だけ死ぬ気で勉強した。
答えが欲しかったのだ。私だけに見えるこの数字はなんなのか、どうしても知りたかったのだ。

その間に、化け物に襲われたり、追いかけられてり、幼なじみが化け物と戦うことになってたりしたけれど。絶対に勉強だけやめなかった。

努力か天才かと聞かれたら、努力だろうな。自分で言うのは恥ずかしいけれど。


「あ、分かった」
「ん?」
「努力の天才か!」


頭の後ろで手を組んで、米屋がニカ!と笑う。ちょ、ちょ、なんだそれ、なんだそれええええ


「うえ、どしたん名字。だいじょーぶ?」
「…小っ恥ずかしいこと言うな、ばかのくせにぃ」


足の力が抜けて立てなくなった。恥ずかしい。恥ずかしすぎるこの男。なんで馬鹿のやつって本当に突拍子もなくとんでもない事言い出すんだよ。師匠の8億倍小っ恥ずかしいわ。眩しい、無理、直視できない。


「体調悪いん?だっこしてあげよっか?」
「…よろしくお願いします」
「お、いいぜー。まあどーせすぐ換装体になるしな」
「あ、そっか、ラッド」
「三門のお掃除しましょーねー、よっと、おっ意外と重い」
「デリカシーって知らんのかお前」


馬鹿の天才


マエ モドル ツギ

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