愛しい人の肩に腕を回して、そのままゆっくりと引き寄せる。無抵抗に近付いてくる顔があまりにも格好良いから、なんだか見ていられなくて目を閉じた。

幸せ過ぎておかしくなりそう。私今20cmくらい宙に浮いてるかもしれない。終わった後はどんな顔をしたらいいんだろう。恥ずかしくて目が合わせられないかもしれないけど、きっと新ちゃんの顔の方が真っ赤になってて、私はそれを見て大笑いしながら「もういいよ」って言ってあげてーー

なんて、そう思っていたのに。


「ちょっ、と、まっ、」


おかしい。おかしいおかしいおかしい。


「しんちゃ、」


予想以上に優しく触れてくれた唇は、ゆっくりと離れていったはずだった。新ちゃんの顔は真っ赤になってるはずだった。それを馬鹿にして、最後は二人で笑い合うはずだったのに。


「黙ってて」
「ひぃっ」


目を開けて一番最初に映ったのは、真っ赤な顔をした新ちゃんじゃなくて。ぎらりと光ってまた近付いてくるその目は、それはもう、敵を仕留める、あの瞬間そのもので。
本能で口から漏れた「緊急脱出」は、全てを言い終わる前に新ちゃんに飲み込まれた。

触れては離れ、角度を変えてはまた触れて。頬に添えられていた手はいつの間にか後頭部と背中に回ってて。逃げ出そうにも馬鹿力には適わなくて、何故だか潤んだ視界では数字もろくに視えなくて、そもそも頭なんてぼーっとしてて逃走経路なんて編み出せない。

もういい。もういいよ。やり直してって言ったけど、もういいです十分ですどうもありがとうございます。
"許してあげる"の「もういいよ」が、"許してください"の「もういいよ」に成り代わる。

なんだこれ、なんでこうなった。新ちゃんは女の子が苦手なはずだろ。キスなんてした暁には、真っ赤になって逃げ出すはずなのに、なんでこうなった。

ろくに回らない頭で、なんでなんでと考える。そして、私は思い出したのだ。


父が言うには、生まれた時から一緒だった。
らしい。
母が言うには、産まれる前から一緒だった。
らしい。
兄が言うには、お前らはいつも喧嘩してる癖にベタベタ引っ付いていた。らしい。


家族同然で過ごしてきた私に対して、新ちゃんは、遠慮というものを知らない。






………あ、これ、詰んだわ。

草食系 皮を剥がすと 肉食系。心の中で諦めの一句を詠む。一階から私達を呼ぶお母さんの声が聞こえた。あぁこの男に食われる前に、なんでもいいからご飯が食べたい。


少女漫画っぽいのでは?


マエ モドル ツギ

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