二宮隊が嫌いだ。鳩原先輩を追い出した二宮隊が大嫌いだ。
「名字にみかんやったんだって?」
「うん」
「あー…ユズルくんどうもありがとう、美味しかったです。だとよ」
「…うん?」
カゲさん、どうして目を合わせてくれないの。
「ユズル、なまえちゃんにみかんあげたの?」
「…うん」
「ユズルくんありがとう。とっても美味しかったよ!だって」
「……うん」
ゾエさん、なんでそんなに嬉しそうなの。
「ユズルなまえにみかんやったのか?」
「……うん」
「凄く美味しかったの。っつってたぞー」
「………。」
ヒカリ、少しは似せる努力をしてよ。
「お前名字にみかんやったんだって?」
「…当真さんもなの?」
「また今度礼をする。だとさ」
「…いらないって言っといて」
あぁもう鬱陶しい。そんな鬱憤を晴らすためにイーグレットを構えてスコープを覗きこむ。今日はなんの絵を描こうか。的に絵を描くなんて馬鹿な遊びをオレに教えたのは鳩原先輩だ。
こんな馬鹿な遊びをやめられないのは、鳩原先輩が教えてくれたからだ。
「今日はみかんの絵にしてみては?」
「ぅわ、」
突然視界が茶色に染まった。驚いて顔を上げるとそこにはケラケラと楽しそうに茶色い髪を揺らして笑う名字さんがいて。銃口側に立つなんて一体何を考えてんの。オレが引き金を引いてたらアンタ緊急脱出してたんだよ。
「うはは、びっくりさせた?」
「危ない真似しないでよ」
「ごめんごめん。お詫びにキャラメルをあげようね。加賀美先輩からいっぱい貰ったんだ」
「いらない」
「そこは有難く頂戴しろよ可愛くないな」
「可愛さなんて求めてないし」
「まじで?可愛さは求めて損ないぜ」
可愛いを極めたらえっちなお姉さんにイロイロと貢いで貰えるんだって。はい、あーん。
あぁもう、いらないって言ったのに。無理やり口に放り込まれたキャラメルが舌の上で溶ける。甘ったるくて、結構美味しい。
「トーマにもあげてこよっと」
「うん」
二宮隊が嫌いだ。鳩原先輩を追い出した二宮隊が大嫌いだ。この馬鹿な遊びをやめられないのは鳩原先輩が教えてくれたからだ。名字さんはオレを"ユズルくん"とは呼ばない。
「みかん描けたら教えてね。"ユズルくん"」
「…うん」
大嫌いなヤツらからのメッセージに、気づいてないフリをさせてくれる人たちがいる。この馬鹿な遊びをやめなくていい理由をくれる人たちがいる。
嫌いでいていい理由をくれる、アイツらがいる。
「……鬱陶しい」
二宮隊が嫌いだ。
何も教えてくれない二宮隊が、大嫌いだ。
真実を知るその日まで