「初めまして名字なまえです。17歳です」


勢い良く下げられた丸い頭。癖のない真っ直ぐな髪の毛が絶妙に似合わないマフラーに絡り乱れて、なんだか勿体ねぇな。なんて思った。


「影浦雅人」


気味の悪い女だと思った。


「お好み焼き屋の次男坊だ、荒船がよく行く」


目が合う。髪の毛と同じ茶色の瞳が何かを探るように、微かに揺れる。

…俺の肌には、何も刺さらない。


「へえええ」


ちくり。ちくちく、刺さる。
興味と ほんの少し嫉妬のような、痛みのある感情が……頭皮に刺さる。


「……お前はさっきからなんなんだよ!」
「ひゃい?!」
「ビシビシ刺してきやがって!擽ってぇんだよ!!!」
「なにも刺してないですけど?!なにこいつ怖い!」


目が合ってから、一拍置いて刺さる感情。
俺に興味が無い訳では無い。興味、恐怖、好奇心、揶揄い、陽やら陰やらの感情はやかましい程チクチクと刺さってくる。
ただ、刺さるまでに変な間があるだけだ。その間がどうにも気持ちわりぃ。なんなんだこいつは。


「お前もあるだろ、サイドエフェクト」
「あっポカリ先輩知ってたんですか!」


わちゃわちゃと騒ぐ茶色い頭と黒い鶏冠を横目で見ながら、目の前の男から刺さる焦りと諦めの感情に少しだけ同情した。
…あの女の気味の悪さは、あの女の所有するサイドエフェクトが関係していると直ぐに気づいた。


「…視覚数値化と言っても、視界に入る動くもの全てに数字が見えるだけらしいんですが、」


視界に入る 動くもの全て。とは、


「全てってどこまでだよ」
「…全ては全てです」
「……そーかよ」


あの間の正体は、視ていた時間。計算をしていた時間。俺の顔色を伺っていた時間。
そりゃまだ随分と難儀なサイドエフェクトだ。可哀想にも程があるぜ、なんて。


「……めんどくせ、」


同情して馬鹿にしてハイ終わり。なんてのが無理な理由が、クソ程あるからめんどくせぇ。


「おい辻」
「…なんでしょう?」


影浦雅人、18歳。
荒船がよく行く、お好み焼き屋"かげうら"の次男坊


「あいつの好きなもん教えろ」


まったくもって、めんどくせぇ。


受け取る人と視える人


マエ モドル ツギ

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