幼なじみに出会い頭関節技をキメられた挙句、首根っこ掴まれて作戦室に拉致られ尋問された。そして犬に揶揄われてキレて帰った。

のが、一時間前の出来事。


「うざい。前髪がウザい態度もウザイ本当にうざい」
「……」
「もーあんな奴大っ嫌い!師匠もそう思うでしょ!」
「知らねーよ。てか居たの気づいてたのかよ」


動かない的に八つ当たりをしながら、ぎゅるん!と振り返って師匠に同意を求める。師匠は呆れた顔を隠す事すらしてくれなかった。


「気付くに決まってる。師匠だし」
「空気の揺れか?」
「なんっでそんなロマンのないこと言っちゃうのかな!普段から洋画チックで無駄にクサイ癖に!」
「喧嘩なら高値で買うぜ?」
「ごめんね師匠。話聞いて」


グッと握られた拳を掲げられ即座に謝ると拳が開く。そしてその手は優しく私の頭に降りてきた。


「まあ、練習熱心な弟子の話くらい聞いてやる」
「あのね!腐れ縁のクソアシメがね!」
「だあ!落ち着け!まずどっか座るぞ!」


首根っこを掴まれてズルズルと訓練場に設置してある椅子に連れていかれる。この椅子は東さんがにこにこと大勢の弟子を見守るのによく座っている椅子だ。孫を見てるおじいちゃんみたいだと思った事は誰にも言っていない。


「で?何があったんだよ」
「身長約180cmの男に出会い頭アームロックをキメられました」
「は?」


目つきの悪い師匠の目付きが更に悪くなる。怒ってる。けど、心配してくれている。帽子の影の目線が首に行ったり肩に行ったりしているから。
師匠は口と目付きが死ぬほど悪いけど優しい。きっと先程の出来事を全て話せば辻をボッコボコにしてくれるだろう。

是非ともボッコボコにしてください!
そう願いながら、出会い頭にアームロックをキメられた所から犬に揶揄れて逃げてきた所まで。全部話してやった。ねえ私可哀想でしょ師匠。早く辻をボコボコにしてくださいよ。


「…信じらんねえな」
「現実です」
「本当にそれ辻か?」
「辻です」
「幼なじみだったんだな」
「師匠は幼なじみに出会い頭関節技キメますか?」
「……たまに、なら」
「嘘つくなよ!そんな頭イカれた野郎が何人もいてたまるか!なんだよ師匠も辻の味方なの?!」


椅子から立ち上がってギャンギャン吠える。師匠は吠える私なんか一切気にせず顎の下に手を置いて何かを考えていた。…いちいち洋画チックでクサイんだよな。でも絵になるのは師匠がイケメンだからだろう。


「まあ、辻の味方をするわけじゃねーが」
「うん」
「注意はしといてやる。一応後輩だからな」
「うん、ついでにボコボコにしといて」
「物騒なんだよお前は」


コツン、弱く頭を叩かれた。こんなの突然のアームロックに比べたら、いや、比べなくても全然痛くない。
隣の家に住んでるのが師匠だったら良かったのに。私のサイドエフェクトのことも、私のことも、褒めてくれる優しい師匠が幼なじみだったら良かったのに。
師匠だったら、あんな顔で私を見ないのに。


「…ほら、手ぇ出せ」
「うぅっ、」
「やる。舐めとけ」
「いちご、似合わん、」
「寝不足だっつったら加賀美がくれたんだよ。でもお前にやる。元気になる飴らしいぜ」
「元気になる飴」
「それ舐めても元気にならねーなら、加賀美からまた貰ってきてやるよ」


私の頭をポンポンと叩きながら、ニッと悪戯っ子みたいに笑う師匠。可愛いくてカッコイイ。師匠は本当にカッコイイ。一生着いていきたい。


「師匠大好きです。来世も弟子にして」
「来世は平和だろ」
「師匠が平和にすんの?」
「してやるよ。それで元気になんならな」
「かっごいいいいいいい」


師匠。荒船先輩。
私がC級の時。グズグズに下手くそだった時。周りのC級は年下ばかりで輪に入れず、上達しない焦燥感と孤独に耐えられず半泣きになっていた時。声をかけてくれた先輩。
どうした?とかじゃなかったけど。心配そうな顔なんて一切してなかったけど。


「お前何隠してやがる」


帽子の下の目付きが悪すぎて死ぬほど怖かったけど。何も隠してません!と言ったら「あぁ?」って言われてまじで泣きそうになったけど。
信じて貰えないかもしれないけどこの状況よりかはマシだと震えながら、私が他の人とは違う世界が見えているかもしれない事を話すと、その帽子はただ一言「そうか」と言って消えていったけど。

何あの人まじ怖い意味わからん。帰りたい。帰ろう。そう思って荷物を纏めていたらさっきの帽子がリーゼントを連れて戻ってきて今度こそ泣いてしまったけど。
だって怖すぎるだろ。ヤクザがヤンキー連れてきたんだもの。泣くわ。


「あー、荒船ったら女の子泣かしてる〜」
「いやさっきは泣いてなかった。お前のリーゼントのせいだ。ガラ悪ぃんだよ」
「えー、てっちゃんの顔面の方がガラ悪いって」
「あぁ?」
「どっちも怖ぇよおおお、どんぐりの背比べだよおお」
「荒船より俺の方が背高いから俺の勝ちか?」
「なにこのリーゼントすっごい馬鹿っぽい」
「いい度胸してんじゃねーかちびっ子」


リーゼントにガシッと頭を掴まれて揺すられる。痛くはなかったけど手が大きいからかぐわんぐわん揺れた。涙が乾くほどに揺れた。
リーゼントは割と気さくで馬鹿っぽい人だった。そしてNo.1狙撃手で、A級2位のエースだった。世も末だと思った。


「で?なんで俺連れてきたの?」
「冬島さんの所に連れてってくれねーか?」
「ん?なんで?」
「多分、そいつサイドエフェクト持ってる」
「、ほー?そーなん?ちびっ子」
「サイコベネディクトって何?」
「「サイドエフェクトな」」


サイドエフェクトとやらはよく知らんが、とりあえずリーゼントが手を握ってきたので全力で握り返した。リーゼントも私も換装体だったから全く痛くなくてただ仲良く手を繋いだだけになってしまった。解せぬ。
手を繋いだままリーゼントと冬島隊の作戦室に向かう。片方の手が寂しく感じたので帽子さんに手を差し出すとそれはそれは凄い力で叩き落とされた。

リーゼントと仲良く手を繋いで辿り着いた冬島隊。クマが酷い"冬島たいちょー"に私の見ている世界がおかしい事を話すと、すんなりそれに名前がつけられた。


「視覚数値化。でいっか。まんますぎか?」
「しかくすーちか?」
「うん。病気じゃねえよ。お嬢ちゃんだけの特別なチカラだよ」


ぽんっ、と頭に手を置かれる。大きくて分厚い手だけど、優しくて、なんだか涙が出た。冬島さんはもう見るからにぎょっ、としてワタワタしてた。
おじさんが触っちゃってごめんな?泣くなよ、とブラックの缶コーヒーをくれた。女子高生の扱い方知らなくて可愛いな。と、初めておじさんを可愛いと思った希少な瞬間だった。


「帽子さん、ありがとうございました」
「俺はなんにもしてねーだろ」
「いや、見つけてくれてありがとうございました」


わたわたしてるおじさんを無視して帽子さんに頭を下げる。ひとりぼっちが寂しかったのもあるけれど、物心着いた時から視界を埋め尽くすこの数字が、他の人と自分が違う事が、怖かったのだ。帽子さんが見つけてくれたおかげで、この恐ろしいものが私だけの特別なチカラになったのだから。一生かけてお礼をしなければ。

それを伝えると帽子さんはちょっとだけ何かを考えて、こう言ったのだ。


「ならそのお礼とやら、俺が考えてもいいか?」
「うん」
「お前俺の弟子になれ」
「はい?」


帽子さんは元々は攻撃手で最近狙撃手に転向したらしい。
どうやら帽子さんは、木崎さん?以来の完璧万能手になりたいらしい。そして積み重ねてきた方式を理論で一般化し完璧万能手を量産するのが夢らしい。よくわからん。


「つまりお前のサイドエフェクトを貸してほしいんだよ。だからお前、狙撃手で8000ptとれたら俺に着いてきて銃手になれ」
「よくわからんが分かった。弟子になります」


何言ってんのかよく分からなかったけれど、私は人並みに戦えるようになったら銃手に転向しなければならないらしい。
まあそれでも別にいい。だって帽子さん、イケメンだから。


ついていきます!師匠!


マエ モドル ツギ

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