「弱点が視えたところで倒せないなら意味ないじゃん。戦力にならない戦闘員なんて邪魔なだけなんだから空気読んでさっさと帰ればいいのに」
「ごめん早口過ぎてよく聞き取れなかった。なんて?僕の頭ぶち抜いて下さいって?」
「はっ、そんな技術も無いくせによく言えたねダッッサ。あ、顔も声もうるさくて本当に鬱陶しいから視界に入ってこないでくれる?」
「へぇ〜たった一人の声を聞くだけでいっぱいいっぱいなんだ。それに加えて視野も狭いと。自虐ネタとか普通に心配になるからやめてくれる?あっ因みに私はお前のクソ喧しい雑音が視えてても余裕で戦えるけど?帰った方がいいのはお前の方なんじゃね?」
「は?」
「あ?」


基地屋上。風間さんを除いた風間隊二名と諏訪隊が現着してからの戦闘は、圧巻。その一言だった。

特に風間隊。凄かった。おでこ全開な彼はおでこ全開の癖にとても繊細な動きをするフォローの鬼。彼こそ正しく縁の下のおでこだ。
そして噂には聞いていた サイドエフェクト持ちのウサギハラくん。無駄な数字が一つもない軽やかな動きは本当に美しすぎて惚れ惚れとした。
凄い…凄すぎる!興奮が抑えられない。けれど抑える必要はないと思った。凄いと思ったら褒めるのは当たり前のことだ。だから私はウサゴリラを倒した彼らに駆け寄った。凄いね!と言うために、駆け寄った、

はずなのに。


「格上も見抜けないお粗末な目ん玉ならぼくが抉り出してあげるけど?」
「おう耳出せやクソウサギ。鼓膜にライトニングぶち込んで脳みその風通しよくしてやらあ」


どうやら私は、左手中指と共に後輩を慈しむ心も失ってしまったらしい。


「おい菊地原」
「の、ノイマン先輩落ち着いて…」
「何。歌川はこの雑魚女の味方なわけ?」
「日佐人くんは近寄っちゃダメだよ〜性格の悪さって感染するからねぇ」
「は?」
「あ?」


ぎろり。私よりほんの少しだけ上にある無駄にデカい猫目を睨む。
視界の端で日佐人くんがオロオロしているのが見えた。おでこ全開な歌川も 全開のおでこに手を当ててため息を吐いている。
困らせてごめんよ私の可愛い後輩たち。だがしかし、先に喧嘩を売ってきたのはこのクソウサギだ。『売られた喧嘩は高値で買え』これは辻家と名字家の喧嘩ルールその1である。ルールを破るわけにはいかない。


「何こいつ、本当にムカつくんだけど」
「その言葉そっくりそのまま受け取って二乗で返してやるよ。ハイこちら"こいつ本当にムカつくの二乗"でございます。どうぞお受け取りください」
「心の底からいらないんだけど。ウザイの押し売りやめてくれない?歌川返品しといてよ。ついでに迷惑料がっぽり踏んだ食ってきて」

「なんでオレが…」
「諏訪さぁん!!助けてくださぁああ!!」


別に私はこいつの言動に腹を立てている訳では無い。残念ながら私の周りには、口が悪かったり嫌味が多い奴が溢れんばかりに存在するのだ。だからそういうのには慣れている。そこで楽しそうにニヨニヨと私たちを眺めている仲良しのリーゼントがその例だ。
ならば何に腹を立てているのか。顔だ。こいつの顔が、死ぬほど気に食わん。

…一体私がお前に何をしたって言うんだよ。


「だーもー!おいお前ら!それ以上やんなら親御さんに連絡すんぞ!」
「すわさん、何言ってんの…」
「…意味わかんないんだけど」
「風間と荒船呼ぶぞ。つってんだよ」
「「ぅげ。」」


なんでそんな怖いこと言うの諏訪さん。そんなの遠回しに死ねって言ってるようなもんだよ諏訪さん。
諏訪さんの口から発せられた死刑宣告に、おでこを抑えながら よろよろと後退る。
なんで私が師匠に叱られないといけないんだ、お前のせいだぞクソウサギ!そう怒鳴ってやろうと思ったが…まあ今回はやめておいてやろう。流石に私も、顔を真っ青にした後輩を怒鳴る程大人気なくはないからな。風間さんが怖い気持ちはわかるし。


「嫌なら解散。臨時パパのとこに帰れ」
「…とーまぁ」
「ハイハイ早く来い。あんよがじょーず」
「ちょっと歌川。何馬鹿みたいに突っ立ってんのさ。早く行くよ」
「オレが臨時パパなのか…」


ぐずぐずと鼻を鳴らしながら 臨時パパの元へあんよする。何度か後ろを振り返ってクソウサギを射殺すように睨んでやったが、アイツは一度もこちらを振り向かなかった。絶対気づいてるくせに!腹立つ!!


「おいおい愚図ってんじゃねぇよ」
「だってクソウサギが!」
「わーったから癇癪起こすなよ。菊地原は誰にでもあーいう感じなの。気にすんな」
「…誰にでも、」


本当に、誰にでも"あーいう感じ"なのだろうか。…いや 絶対にそんなわけない。だってあのクソウサギ、私のことが憎くてたまらないって顔してたもん。私のことが大嫌いって顔、してたもん。


「"同じ"だからって、直ぐに分かり合えるわけじゃねぇだろ」
「それはそうだけど…」
「ハイハイ、仲良くなりたかったんだよな」

残念だったなー、よちよち。


トーマの大きな手が頭に乗る。ぐわんぐわんと揺らすように撫でられて、そういえば初めてトーマと話をした時もサイドエフェクトの事だったなぁ、なんて どうでもいい事を思い出した。

そうだよ。私ウサギハラと仲良くなりたかったんだよ。仲良くなって、ウサギハラが一番好きな曲とか教えて貰いたかったんだよ。それなのに、それなのに…


「…別にいいもん。私影浦先輩と仲良しだし、村上先輩も優しいし、」
「そーそー。今あるもんで十分過ぎんだから、これ以上欲張んなくていーんだよ」
「…ん」


ウサギハラに憎まれるようなことをした覚えはないが、誰にだって生理的に無理な人はいる。きっと私はウサギハラにとってのソレなんだろう。それならば仕方ない。清く諦めようじゃないか。

ぱちん。頬を叩いて気持ちを切り替える。
とりあえずウサゴリラは片付いたし、私は日佐人くんが一生懸命ウサゴリラの腹から取り出してくれてるキューブを雷蔵のとこに持っていこう。かなりの人数が食われてたんだんな…連れ去られなくて本当に良かった…


「……やっぱり、言っとけば良かった」


持ち上げたキューブを ぎゅ、と抱きしめる。
歌川とウサギハラは強いね って、ちゃんと言っておけば良かった。二人のおかげで捕まってた人達が助かったよ、凄いね、ありがとうって、ちゃんと言っておけば良かった。


「…ねぇトーマ」
「んだよ」
「直ぐに分かり合えないなら、時間をかけて分かり合えばいいのでは?と名字は思います」
「あらそう。ポジティブで良いんでねーの?」
「だよね、良いよね」


嫌われてんなら大好きになってもらえばいいだけの話じゃん。生理的に無理なら 生理的に大好きになってもらえばいいだけの話じゃん。
そのためにはまず、仲直りをしておやつを食べなきゃいけない。『仲直りにおやつを食べる』これは 辻家と名字家の喧嘩ルール その6だ。


「ウサギハラ、聞こえる?」
『何。こっちは暇じゃないんだけど』
「あっ無理だわやっぱうざいわお前」
『その言葉そっくりそのまま受け取って二乗で返してあげるけど?』
「どうしようクソうぜぇ」


いかんいかん、私は喧嘩をしたい訳じゃない。お礼を言うために通信を繋いだんだ。落ち着け、深呼吸をしろ、鼻から吸ってー…、口から吐く。よしオッケー


「新型倒してくれてありがとう。凄かった」
『気持ち悪いんだけど』
「よし殴ろう」


ぐりん。首が吹っ飛ぶ勢いで振り返ってウサギハラを睨む。目が合った。おいお前今 顔怖って言っただろ。遠くても口の動きで大体分かるんだよ、言われ慣れてるからな!…言わせんなよ悲しいから!


『うわ、こっち来ないでよ』
「謝るなら今の内だぞクソウサ、うわ!!」


び、びっくりした…。なに今の、発砲音?
音がした方を恐る恐る振り返ると、そこには見覚えのあるC級の狙撃手達と米屋が居て、それで、


「……、ぉえ゙」


一瞬だけ何も視えなくなって、いや、一瞬だけ視界が数字で埋め尽くされて。目の奥が痛い、気持ち悪い。無いはずの胃が迫り上がってくる感覚。…やばい、吐きそう。


『…ちょっと、どうしたのさ』


ウサギハラの声が脳に響いて痛い。蹲る私に気付いた日佐人くんが駆け寄ってくれてるのが見えて、いやちょっと待って、私今涎とかダラダラ垂れててクソ汚いから来ないで…


「……あ、晴れた、」


第二次大規模侵攻、終結


マエ モドル ツギ

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