「なんじゃこりゃ」


扉を蹴破るように外へ飛び出して、その光景に唖然とした。
随分と見晴らしが良くなったことで。そんな皮肉が口から漏れる。まあ見晴らしが良くなったところで見渡す限りは地獄しかないけれど。


「三雲くん、いない」


三雲くんは死にかけていなかった。誰かのおかげで未来が変わったのだろうか。まあ無事ならなんでもいいか。ほ、と胸を撫で下ろす。
それなら私は戦場に戻らなきゃ。加賀美先輩…じゃなくてトーマに通信を繋いで、冬島たいちょーのワープでちょちょいと瞬間移動を、


「さみしい…」


…なんだこの孤独感は。なんでこんなに寂しいんだ。そういえば私、今日ずっと一人で行動してるな。戦場に戻ったその後はどうしたらいいんだろう。また死んでしまったらどうしよう。不安、心細い、孤独。あっどうしようコレめっちゃ寂しい。師匠に会いたい…


「と、とーまぁ…」
『なんつぅ声出してんだよ』
「人は皆 孤独に耐えられないのさ…」
『あーそーかよ。用済んだならさっさとそこのお馬さんポチッとしろよ』
「ちょっとは慰めてよ」


リーゼントってのは情に厚く友情とタイマンが大好物だと思ってたのだが、トーマはそうでは無いらしい。冷たい男だ。
そこのお馬さんってどこのお馬さんだよ。きょろきょろと辺りを見渡して…あっお馬さんいた!!これトーマの背中のお馬さんじゃん!冬島隊のエンブレム!


「えーなにこれすげー。えっこれもしかして地面に描いてんのぅぉおお?!!」


幾らアンタらがA級2位でおでこ全開でここが警戒区域だからって 地面に落書きするのはいかんでしょー、それにしても上手に描けてんねー。ぺそ、と地面を撫でた瞬間。景色が変わった。


『なんつぅ声出してんだよ』
「こ、これが、瞬間移動?」
『空間移動。楽しかったか?』
「めちゃくちゃ楽しかった」


でも出来ればやる前に一言欲しかった。そう思ったことは言わないでおく。何故なら冬島さんは女子高生の扱い方を分かっていないからだ。ちょっとした軽口で大人の男を傷付けてしまうのは良くない。


「で、トーマはどこいんの?」
『奈良坂と章平と基地屋上』
「なんで私だけ仲間外れにすんの?」


なんでみんなは基地屋上にいるのに 私だけ知らん人の家の中に閉じ込められないといけないの?雑魚はあっち行ってろってか。リーゼントの癖に弱いものイジメすんのか。くそ、中指立ててやる。
カラカラと窓を開けてベランダへ出る。あ、あの無駄にスタイリッシュなキノコは奈良坂くんかな。あっ奈良坂くん手ぇ振ってくれた!わー奈良坂くーん、私もそっちに行きたいよー…


『お前がお師匠様に教わったのはイーグレットだけかよ?』
「ん?」
『だぁから。そこならお前の射程圏内だろ?っつってんだよ』

「……ライトニング!!」


確かトーマ達のメイントリガーは射程重視のイーグレット。私のメイントリガーは弾速重視のライトニング。なるほど、だから私だけ知らん人の家の中に閉じ込められたのか。

…つまりここは私の狙撃場所。もうすぐこの近くに、敵が来る。


『弟子ならお師匠様の綺麗なお顔くらい立ててやれよ。そんで辻ちゃんぎゃふんと言わせてやれ』
「うん!分かっ、」


……今、トーマ なんて言った?


「なんで、辻…?」


…そういえば、ずっと気になっていたことがあった。
私と辻がボーダーで出会ったのは去年の十二月初め。その時トーマは遠征で近界に行ってた。それなのになんで、トーマは慰労会の日に師匠達と一緒にによによしてたのか。なんで、トーマは辻と私が幼なじみだってことを知ってたのか。


「なんで…?」
『そりゃ俺がNo.1狙撃手だからだよ』
「…答えになってない」


モヤモヤする。もう少しで答えがわかりそうなのに、何かが足りない。何が足りない?トーマはなんて言ってた?

師匠に教わったのはイーグレットだけか?ううん、最初はライトニングを教わってた。イーグレットは最近教わり始めて、その理由が『威力の弱いライトニング一本でどうやって自分を守るんだよ』うわ無理かっこよ。私の師匠世界一カッコイイ!

あぁ駄目だ、師匠のカッコイイで思考が纏まらない。あぁでもあの時の師匠本当にカッコよかったなぁ…ポカリ先輩もトゥンクしてたし。思わず抱きついちゃって、そんでみんなで厳ついサンドイッチ作って、

ーー俺は名字にイーグレットを教えろって頼まれただけでーー


「あ」


ーーところで師匠って誰。
ーー可哀想だろ?言う事聞かねー弟子のせいで後輩から怒られるなんて
ーーそりゃ俺がNo.1狙撃手だからだよ


「……そ、ういう、ことかぁ」


辻が、私にイーグレットを教えろって師匠に頼んだんだ。それを師匠はトーマに…No.1に相談したんだ。だからトーマは私と辻が幼なじみって知ってたんだ。
それで、私はイーグレットを教わって、それなのに私は新型に捕まってしまって、だから辻が怒るかもしれなくて、だから友達思いのトーマは、私にライトニングを持たせて、


『よぉ愛され者。孤独がなんだって?』
「……っそ、んなこと、言ったっけ?」
『あーそうだな、言うわけねぇよなぁ?そんだけ愛されてるくせに孤独だなんてほざく馬鹿が居てたまるかよって話だよなぁ?まっったく欲張りにも程があるぜ』
「やだ…すごい喋る…」
『お喋り大好きなの』
「嫌味じゃなくて?」
『珍しく賢いじゃねぇの』
「クソリーゼントが」


嫌味なリーゼントに向かってびしりと中指を立てる。あっやべこっち向いてた、うわ待って銃口向けないで!人に銃口むけるのダメ絶対!


『No.1様が直々に手ぇ貸してやってんだ。結果残せよクソガキ』
「おうしっかり見とけよクソリーゼント」
『的みっけ』
「ごめんなさい撃たないで!」


いかんいかん、プライドの高いNo.1リーゼントを怒らせてしまっては駄目だ、即緊急脱出させられてしまう。逃げるが勝ち、すたこらさっさと部屋の中に飛び込んで埃っぽいカーテンに包まるように隠れたら、じわ、と視界が歪んだ。


「あれ、私って埃アレルギーだっけ」


ぼたぼた。拭っても拭っても溢れて落ちて、終いには鼻水まで垂れてきちゃって、あぁもう困る。本当に困る。トーマのクソリーゼント。意地悪なんかせずに素直に泣いてもいいよって言いやがれ。


「新ちゃんのクソアシメ」


ひょろ長 不器用 クソガキ 大食い 部屋汚い ブラックコーヒー飲めないのダサい 腹立つ 力加減が馬鹿 鼻が高くて目がスってしててカッコイ…あれなんかこれ褒めてんな


『おいちびっ子。敵さん来るってよ』
「ん、」


涙と鼻水でぐちゃぐちゃに汚い顔面を 服の袖で乱暴に拭う。冬島さんの覇気のないカウントダウンが脳に響いた。出水の炸裂弾で付近の建物がぶっ壊れる。強さが異次元すぎて逆に引く。太刀川さんといい出水といいどうなってんだよA級1位クソ怖いな。あれ本当に私のクラスメイトの出水か?昨日「おれペン回しめっちゃ出来るぜ!」ってぐっるぐるペン回してた出水か?


『よし。"的"が見えた』


ライトニングを起動して構えたら
後はもう魚を避けて"的"を撃つだけ。


「うはは、これ私の得意分野じゃん」


師匠に教わったライトニング。師匠に価値を見出して貰ったサイドエフェクト。これで辻をぎゃふんと言わせてやろうじゃないの。
ああでも、ぎゃふんだけじゃ全然足りないかもしれない。だってほら、私って欲張りらしいから。


世界一好きだと言って


マエ モドル ツギ

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