初めて一人で敵を倒した。みんなが褒めてくれて、そしたらウサゴリラが出てきて、怖くて怖くて吐きそうなくらい怖くて、でも半崎くんに嫌われたくなくて、みんなとずっと一緒にいたくて。
その後はどうなったんだっけ。あぁ師匠に褒められたんだっけ。これはもうアカデミー賞受賞まっしぐら。主演はもちろんこの私、新型に捕まった この私…


「ただの駄作映画じゃねぇか」
「おはよう。元気そうだね」


ぱちり。ふわふわした意識の中から現実に引き戻された。きょろきょろと目を動かして辺りを見る。家電屋さんでも中々お目にかかれない大きなパソコンがいっぱいあって、あとなんかよく分からん機械と電線が散らかりまくった汚い部屋。一体ここはどこだ。


「調子はどう?」
「……、だれ?」
「寺島雷蔵。エンジニアね」
「らいぞう」


寺島雷蔵、なんだか凄く響きの良い名前だ。どういった意味が込められてるのか凄く気になる。
雷蔵がエンジニアだということは、この荒れに荒れた汚い部屋はシステムエンジニア室なのだろうか。それにしては人が少ない。エンジニアってもっと沢山いるものだと思っ、


「……みんな死んだの?」
「死んでないよ。解析班と解除班と避難組に分かれてるだけ。俺は解除班」
「あ…よ、よかったぁ…」


ほ、と胸をなでおろして固い簡易ベッドから上半身を起こす。どうぞ、と雷蔵がコーラをくれたので有難く頂戴すると 強い刺激に舌先がビリビリと痺れた。寝起き一発目に飲むコーラは普段の8倍は辛いな。


「とりあえずこれまでのあらすじでも話そうか」
「いいの?忙しくないの?」
「いいよ。君は聞く権利があるでしょ」
「権利あるんだ嬉しい」


ベッドから足を下ろして顔とお臍を雷蔵の方に向ける。雷蔵はなんだか見た目が師匠に似ているから安心する気がする。師匠の方がもっとどっしり筋肉があって顔も怖いけど。


「新型に捕まった隊員は新型の腹の中でトリオンキューブにされるのは知ってた?」
「なにそれ怖い」
「君もキューブになってたよ」
「なにそれ怖い」
「君を捕まえた新型を瞬殺したのが太刀川」
「なにそれ怖い」
「そしてキューブになった君をここまで運んできたのが、太刀川が援護に入るまで一人で新型三体を相手にしていた緊急脱出寸前の村上」
「なんでそんな怖い話ばっかすんの?」


私ウサゴリラのお腹の中でトリオンキューブにされてたの?あんな強いウサゴリラを太刀川さんは瞬殺したの?村上先輩はウサゴリラを三体も相手にしてたの?寝てないのに?サイドエフェクト使わず三体も相手にしてたの?なにそれもう全部が怖いんだけど。どうなってんだよトップランカー。強さが異次元過ぎだろ。


「で、君をキューブから生身に戻したのが俺で、イマココ」
「雷蔵ってすごい人なんだ。助けてくれて本当にありがとう」
「うん。まあお礼を言うのはこっちだから」
「ほう?」


なんで雷蔵が私にお礼を言うんだろう。意味がわからないがお礼を言われて悪い気はしないので、なんとなく どういたしまして と言っておこう。


「君が捕まるより先に、諏訪っていうガラの悪いのが馬鹿な真似して新型にあっさり捕まりやがったんだけどさ」
「諏訪だけで十分だよ。ガラ悪いけど」
「それ以外に新型に捕獲されたB級以上の戦闘員は0人だ」
「ぜろ、」
「つまりは君のおかげってこと」

本当に君はよくやってくれたよ。


雷蔵は意外と優しく笑う人だった。師匠にちょっと似てるのに、笑った顔が全然極悪人面じゃなくてなんか変な感じがする。擽ったい。恥ずかしいような、嬉しいような、うん、これは嬉しいが正解。


「…ありがとう、雷蔵」
「こちらこそ。まあ君が捕まった後に出てきたモッド体に何人か捕まったらしいけどね」
「もっど?」
「それと、人型近界民にかなりのC級隊員がキューブにされたとか」
「ひとがた?!」


えっ何それ何それ!私がトリオンキューブになってる間に世の中にすっごいこと起きちゃってんじゃん!モッド体って何?私そんなん初めて聞いたよ?!ウサゴリラが覚醒したの?!あんなに強いのに更に?!てか人型近界民って何それ!!私そんなん初めて聞いたよ?!!


「え、えらいこっちゃ!」
「そうだね」
「どうしよう雷蔵!」
「どうしようね」


とりあえず換装しとけばいいんじゃない?ぽいっ、と雑に投げられ 緩やかに宙を舞っているのは恐らく私のトリガーだ。おいこら雷蔵お前それでもエンジニアか。精密機械は繊細に扱わんといかんでしょうが。
ぱしり、生身だとそれなりに重さのあるトリガーをしっかり両手で受け取って、そのまま強く握りしめる。私にはのんびりしてる暇なんてないんだった。三雲くん大丈夫かな、早く、行かなきゃ


「君フリー隊員だよね。どこの部隊と合流する予定?通信くらいならしてあげれるよ」
「えっと、まずは本部の正面玄関に全力ダッシュして、なんもなかったら荒船隊と、」

「じゃなくて、俺と組むのよ」


がしり。首元に長い腕が回ってきて、強く後ろに引き込まれた。
随分と高い場所から落とされた声。男性にしては少し高くて、耳に残る甘ったるいハスキーボイス。顔を見なくても分かるよく知った声。リーゼントで変態で、私たちのNO.1、


「雷蔵さんダイエットした?」
「ダイエット?知らない単語だね。これは昔の戦闘体」
「あらそーなの?まあ俺は愛されボディの雷蔵さんも好きだぜ」
「そりゃどーも」
「えっ雷蔵って元戦闘員なの?」
「あーちびっ子は知らねーのか」


この人 元弧月使いで元トップランカーだぜ、拝んどけよ。によによと楽しそうに笑うトーマの言葉に、絶句。
…私、元トップランカー様を呼び捨てにしちゃってたのか…いやでも雷蔵って響きめちゃくちゃ良いし、本人なんにも言わないし別にいいのかな。…別にいいか、雷蔵怒ってないし。ほら この隣にいるリーゼントも年上でNO.1だけどトーマだし。雷蔵は雷蔵だ。


「意外だね。おまえは面白いことは独り占めしたいタイプだと思ってたけど」
「俺はこう見えて友達思いなのよ。可哀想だろ?言う事聞かねー弟子のせいで後輩から怒られるなんて」
「…それ私と師匠のこと?」
「一緒に怒られてやるから、今度なんか奢れってお師匠様に言っとけよ?」


ぽふり、頭の上にトーマの大きい手が乗る。一体トーマはなんの話をしているんだろうか。よく分からんが、師匠は私のせいで後輩の誰かに怒られてしまうらしい。一体 誰に、


「ほれ、さっさと換装体になれ」
「あっ、はい!」
「迅さんから聞いたけど、なんか用があるんだって?それ終わったら通信してこい。俺のたいちょーのワープでちょちょいと瞬間移動させてやるよ」
「瞬間移動…よい響き…」


誰だって一度は憧れたことがあるであろう瞬間移動をまさか戦争中に体験できるとは。
…駄目だワクワクするな、不謹慎だぞ。いやでも瞬間移動を体験させてもらえる状況であって欲しい。だってそうだったら、三雲くんは無事だったってことだから


「雷蔵、助けてくれてありがとう!」
「はいはい。行ってらっしゃい」


ひらりと軽く振られた手に びしりと力強く敬礼を返したら、強くトリガーを握り締めて換装体になる。襟を首元まで閉めているのは師匠の真似だ。多分きっと、私には似合ってない。


「行ってきます!」
「おーまた後でなジョイマン」


ぐ、と力強く地面を蹴って、ポカリ先輩と一緒に何度もランニングした通路を全力で走る。

多分トーマはジョイマンじゃなくてノイマンって言いたかったんだと思う。でも別にいい。ノイマンとか本当に恐れ多いしなんか小っ恥ずかしいし、それに私はジョイマンが結構好きだ。


「三雲くん、」


お願い、どうか無事でいて


不死身の第2R


マエ モドル ツギ

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