こんにちは、私は名字なまえ

訳あって約半年前にボーダーに入隊。
最初は上手くいかず燻っておりましたが、最高に格好いい師匠に出会ったお陰で「今までの苦労なんだったんだ」レベルで上達し、ひと月前にB級に昇格。現在はB級フリー隊員。ポジションは狙撃手です。


何度か他隊にお邪魔させていただいて防衛任務をこなし、割とボーダーという組織に慣れてきました。

けれども。だがしかし。だからといって。慣れてきたと言っても。油断は禁物。
4年前のような悲劇が、また起きるかもしれません。近界の事はよく知らんが、未知なる進化を遂げた近界民が攻めてくるかもしれません。

だからわたしは、今日も、今日もーー


嘘だ。いやまあ嘘ではないけれど。2割くらいホント。

私は師匠に自慢の弟子だと褒めて欲しいのだ。偉いぞと頭を撫でて欲しいのだ。それが8割だ。

だから任務がない今日だって、訓練をするのです。あわよくば「お前は休みの日も訓練して偉いな」と褒めてもらうために、私は狙撃場へと足を運ぶのです。

その予定だったのです。が。



「まじ、で、離せ、クソアシメ」
「聞こえない」
「死ぬ、まじ死ぬ、から」
「死ねばいい」


現在私は、腐れ縁であるクソアシメ野郎に、関節技(アームロック)をキメられていた。肩ビキビキ鳴ってる、まじで肩外れる。首折れる。まじで痛い。

えっ私今生身なんですけど?!ちょ、まじでこいつふざけんなよまじで!まじで!!
あ、そうか。女苦手とか言ってろくに女と触れ合ってこなかったから女の扱い方分かってないんだ。力加減知らねぇんだ。

つまり、イコール、このまま行けばまじで折れる。

とりあえず 私の骨を守る為にこのクソアシメを落ち着けなければならない。思い出せ。このクソアシメを育ててきた偉大なる母親を。今朝会っただろう。こいつと瓜二つな涼し気な目で「いってらっしゃい」と手を振ってくれた、あの美しい人を、思い出せ。


「女の子に出会い頭でアームロックキメちゃいけませんってママに教わらなかったのかよ」
「うるさい黙れなんでお前がここにいるんだよ」


間違えた!!パニックになって思いっきり間違えた!!ママの真似して優しく諭すつもりだったのに思いっきり間違えた!!


「痛い痛い痛い!肩が外れる!ギブ!!!」
「死ね」


さっきより力が強くなってしまった。これは本気でやばい。誰か、たすけて、ししょーたすけて。



「しっかり出来るかぁああぁぁぁあ!!!」


ゴリッ、と私の肩から割と本気でやばい音がなった瞬間、後ろから誰かの叫び声が聞こえた。
いやまあ後ろっつってもあれなんだけど。私アームロックキメられてるから 私のお尻の方から聞こえたんだけど。誰が叫んだのかは見えないんだけど。誰か知らない男の人に思いっきりお尻突き出してるんだけど仕方ない。

名も知らぬそこの男よ、お尻から失礼する。


「うるせえさっさと助けろ!!!!」
「は!そうだ、辻ちゃんやめなさい!!」
「無理です。」
「む、り、じゃない!女の子にアームロックキメちゃいけないでしょ!!」
「女の子なんてここにいません」
「も〜〜〜!そんなことして!二宮さんに怒られるよ!」
「……、」


お?少しだけ腕の力が弱まった。誰かは知らんがありがとな。お尻から礼を言うよ。


「おりゃ」
「ぐっ」
「辻ちゃん?!!」


腐れ縁である私だから知っている、辻新之助の弱点を思いっきり突く。そう、脇腹だ。こいつは脇腹が異様に弱いのだ。
痛みなのか擽ったかったのかは知らんが私を固める腕の力がゆるりと抜けた。私はこれでも援護を得意とする狙撃手。その隙を見つけれないわけがない。再び腕に力が籠る前にサッと抜け出して…

持ってる力の全てを使って腹パンした。



「辻ちゃぁぁぁん!!!」


辻を止めようとしてくれていた男の人が辻に駆け寄ってくる。金髪蒼眼、人ウケしそうな今時の男。ああ、犬飼澄晴だったのか。


「辻ちゃん大丈夫?おれもう何が何だかわかんないよ」
「う…大丈夫です、すいません、取り乱しました」
「落ち着いたなら良かったよ。ところでこれは現実?」
「現実で無いと信じたいところではありますが現実です」


わたわたと慌てる犬飼澄晴と腹を擦る辻が一連の出来事を現実だと確認した後、くるりとこちらを振り返る。眉毛が下がって困惑しきった顔と、ブチ切れているよく知った顔。

…辻、まじで怒ってんだけど。なんていうんだっけ、こういうの。

あ、逃げるが勝ちだ


「おい」
「ぐぅっ」


くるりと向きを変え逃げ出そうとした瞬間、地を這うような低い声に思いっきり首根っこを掴まれた。くそう、パーカーなんか着てくるんじゃなかった。


「なんで、お前が、ここに、いるんだよ」
「辻ちゃん落ち着いて。女の子の首根っこを掴んじゃだめだよ」


逃げられない


マエ モドル ツギ

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