「やっぱりここにいた!」
「ちゃんとここに来たな」

偉いぞ〜、流石名字ちゃん。


ぽふぽふ、迅悠一の手が、私の頭を緩く叩く。
自販機の横に設置された硬いベンチ。迅悠一が私を未来に連れていくと約束してくれた 雑音に溢れまくったこの場所が、どうやら迅悠一と私の思い出の場所らしい。
1発で当てれた事は嬉しいけど、この頭の上にある手が気になる。お前これ、ぼんち揚触った手じゃねぇたろうな。


「今日はどしたの?なんか用?」
「まあ座れよ。ぼんち揚食う?」
「座るけど、ぼんち揚はいらん」


差し出されたぼんち揚を両手で押し返して、硬いベンチに腰掛ける。今日は迅悠一も私の隣にすぐ座った。
によによと何かを企んでいる顔。でもちょっと真剣で、やっぱり迅悠一は何を考えているのかさっぱり分からん。
さっぱり分からんが、この前と違って辛そうな顔をしていないので少しだけ安心した。


「数日後に大きな戦争があるんだけど」
「導入からハード過ぎるわ。それで?」
「しかも4年前より大きい」
「ベリーハードになった!」


いやいや、大体こういう話ってイージーからハード、もしくはハードからイージーになっていくもんじゃないの?ハードを掘り下げたらベリーハードになりました。とかそんな事ある?
迅悠一との会話は色々ぶっ飛んだ事が多いから気合い入れてきたけど、もう序盤から頭パンクしそうなんだけど。初手はもうちょっと遠慮しろよ!


「で、名字ちゃんは1回死ぬんだけど」
「ちょっと待って」
「そこで名字ちゃんにお願、」
「待てっつってんだろぶん殴るぞ」


ちょ、え?!お前今なんつった?!名字ちゃんは1回死ぬんだけどって言った?!私死ぬの?!
ぺちん!私の静止の声を聞かず 私の生死の話をペラペラと喋り続ける迅悠一の口を叩くように両手で塞ぐ。
落ち着け…落ち着け私、いや無理だろ、今日の迅悠一アクセル全開過ぎんだもん。フルアクセルで追突されたら流石に私も立ち上がれねぇよ。


「むむむあが」
「あ、ごめん。いいよ続けて」
「ぷは、続けていいの?」
「冷静になる前に全部詰め込んで。冷静になったらお前のこと殴っちゃうかもしれないから」


それは困るな〜。と全く困ってなさそうな顔で迅悠一が笑う。私はこんなにパニックなのに何故お前はそんなにのんびりしてるんだ。やっぱり冷静になる前に殴ってもいいだろうか。


「大丈夫だよ、ちゃんと生き還るから」
「私っていつから不死身になったの?」
「で、生き還ったら直ぐに全力ダッシュ」
「迅悠一って私の事嫌いなの?」


そんなわけないだろ、大好きだよ。きらり、迅悠一のドヤ顔に物凄く腹が立ったので、とりあえず軽くビンタをしておく。
本当に私の事が大好きなら、復活して生後0秒の私に全力ダッシュはさせねぇだろ。


「本部の正面玄関があるだろ?」
「正式の出入口?」
「そう。そこまで全力ダッシュな」
「わかった。なんで?」


本部の正面玄関なんて、入隊式の日に使ってそれっきりだぞ。多分私以外の人も 家や学校から一番近い出入口を使ってるだろうし。
…やばい、場所がわからん。後でポカリ先輩に道案内を頼もう。あのトサカは本部内でランニングをする馬鹿な筋肉だから、私が仲良しの人の中では誰よりも本部に詳しいはずだ。


「で、何にもなかった場合は戦闘に戻る」
「その言い方絶対なんかあるじゃん…」
「ああ、そんで、なんかあった場合はメガネくんが死にかけてるから手当て頼むな」
「ちょっと待て」


待って、なんでそんな『あっ、学校帰りに牛乳買ってきて〜』みたいなノリで三雲くん死にかけてんの?
ていうか、学校帰りに牛乳頼まれる率高すぎるアレ まじでなんなの。そんな牛乳いる?


「あ、やばいパニックで頭の中が牛乳でいっぱいに」
「安心しろよ。そうなるかもしれないし、ならないかもしれない」
「そういうもん?」
「そういうもんだよ。だけど、そないあれば憂いなしって言うだろ。だからおまえに頼んでるんだよ」

もしもの時はメガネくんを頼むよ。


ぽふ。頭の上に迅悠一の手が乗っかる。どうしよう。迅悠一が物凄くまともな事を言っている。
どうしよう。つまりこれ、ガチのやつじゃん。


「因みに私は誰に殺されんの?」
「分からないよ。おれは目の前の人間の未来しか視えないからね」
「つまり私を殺すのは、まだ会った事ない敵さんって事ね」
「そういう事。因みにメガネくんの事を殺すヤツも誰かわからないよ。おまえが本部の入口でメガネくんを助けてる未来が一つ視えたから こうやって頼みに来たんだ」
「…そっかぁ」


私の場合は生き還る。つまり私の死ぬってのは緊急脱出する事か?いや緊急脱出したらその後戦闘に戻れないし…緊急脱出しないけど一回死ぬってどういう事だろう。
そんで、メガネくんの手当てを頼む。…手当てってことは、換装体じゃあないって事だ。
本当に、三雲くんは死ぬかもしれない。


「予想以上に話が重すぎた」
「戦争ってそういうもんだろ」
「急にリアルなのやめろよ…」


はぁあああぁ。体の中の空気を全部出す勢いでため息を吐く。今も換装体だけど、体が重すぎる、病は気からって本当なんだよな。もう今日は帰ろう。


「自分が死ぬかもしれないのは、あんまり焦ったりしないんだね」
「まあ三雲くんのが話が衝撃すぎたし」
「名字ちゃん、トリオン兵に狙われまくったりしなかったの?トリオン多いだろ?」
「まあ安全装置ができる前はそれなりに」
「それなのに怖くないんだ」
「………なにが言いたいの」


なんとなく、迅悠一の言いたい事を察せてしまって、聞きたくなくて。迅悠一をギロりと睨む。
師匠直伝の極悪面だ。さぞかし怖いだろう。やめて欲しかったらそれ以上何も言うなよ頼むから。


「誰かに守ってもらってたんだな」


ぽふぽふ、迅悠一の手が、私の頭を緩く叩く。
その手付きが優しすぎて、まるで慰められてるみたいで、目の奥がじわじわと熱くなった。
ああ、もう、だから聞きたくなかったのに。


「そういうの、いらん」
「ありがた迷惑だった?」
「守られてたのなんて、私が一番分かってる」
「余計なお世話の方だったか〜。そりゃ失敬」


ぽふん、迅悠一の手が私の頭の上で軽く跳ねて、ゆっくりと離れていった。
迅悠一は何を視たんだろう。私の血に塗れたファーストキスを視てたのか、それとも これからの事を視たのか。もしかしたらどっちも視たのかもしれない。欲張りだな。


「大丈夫、仲直りできるよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」
「お前のサイドエフェクト喋んないくせ」
「はいはい」


そうか。仲直りできるのか。私 ファーストキスを血に塗れた思い出にされたとしても、辻の事大好きだから、仲直りしたかったんだよね。良かった。


「名字ちゃん」
「なあに」
「メガネくんを、未来を頼むよ」
「そっちこそ。未来をよろしく」


差し出された手に、右手を重ねる。
そういえば言い忘れてたけど、私もお前のことが大好きだよ。口ん中に無理矢理ぼんち揚突っ込んでこなかったらだけど。

だからさ、それ、自分で食べるから


一枚ちょうだい


マエ モドル ツギ

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