ぴしゅしゅしゅしゅしゅっ


『退け』
『…なまえちゃん』
『黙れ死ね。私ご飯食べてくるからそれまでにこの部屋から去れ。二度死ね、来世も死ね』
『……ごめん』


ぴしゅしゅしゅしゅしゅっ

「荒船さん」
「分かってるよ」

ぴしゅしゅしゅしゅしゅっ

「名字、訓練終わったぞ」

ぴしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅしゅっ

「…オレが止めるか。力ずくで。」
「…良い。気が済むまでやらせろ」
「放っといていいんすか?」
「心配ならお前が付いててやれよ。俺らは飲みモン買ってくる」
「……っす。炭酸がいいっす」

ぴしゅしゅしゅしゅしゅっ

動かねぇ的に興味はねぇらしいボーダーNO.1リーゼントを除いて、A,B,C級の全隊員が参加する狙撃手合同訓練。
終わりのブザーは一応聞こえていた。聞こえていたが、撃ち足りん。的だ、的を寄越せ。もっと私に的をぶち抜かせろ。


「名字先輩、今日ライトニングなんすね」

ぴしゅしゅしゅしゅしゅっ

「名字先輩今日7位だって。イーグレットの時は20位行くか行かないかっすよね。差ァ出過ぎっしょ。やっぱ名字先輩ライトニングの扱い上手いっすわ」

ぴしゅしゅしゅしゅしゅっ

「名字先輩のライトニング、クソ速いっすよね。一発にどんくらいトリオン使ってんすか?」

ぴしゅ、

「……無視すんなよ…」
「ごめん!!ごめんね半崎くん!!」


ぅおりゃあ!!今日は何があっても手放さんと決めていたライトニングを的場に向かって思いっきりぶん投げる。
私のブースに入り込んでダルそうに胡座をかいていた半崎くん。私が無視しまくったせいでちょこんと隅に三角座りになっている。あぁ、私はなんてことをしてしまったのだろうか…!


「泣かないで半崎くん!!」
「1ミリも泣いてねぇっす」
「ほんとだ!よかった!!」


1ミリも泣いてなかった半崎くんの頭を、ごめんね。の気持ちを込めてぎゅうううっと抱きしめる。
爆発した寝癖に頬を擦り付けると、鬱陶しい。と背中を強く殴られた。痛い、心が。


「今すぐ離れて。距離を置いて座れ」
「はい、すいません」


今このブースは私が使用中で、勝手に入ってきたのは半崎くんの方なんだけど…。そう思ったが絶対に口には出さない。私は半崎くんに嫌われたくないのだ。何故なら半崎くんはとても可愛いから。
嫌われないように半崎くんから素早く離れて、ブースの端っこに背中をぴっとりと張り付ける。これで良いでしょうか?と問いかけると半崎くんは満足そうにひとつ頷いてくれた。かわいっ!


「名字先輩、イーグレットの訓練頑張ってたのに諦めたんすか?」
「諦めてないよ。今日はライトニングの気分だっただけ」
「ライトニングの気分」
「うん、ライトニングの気分」


バイオハザード並にバスバス撃ちまくりたい時あんじゃん?あるっすね、モヤモヤした時とか特に。そうそう、今日の私それ。モヤモヤしてんすか。モヤモヤしてんのよ。
ふーーー。ブースの壁に体重を預けて力を抜く。換装体だから疲れとか無いけど、体が重い。精神的なダメージがえぐいんだ。やっぱり昨日、辻を殴っとけばよかった。


「名字先輩、今日7位だって」
「まじ?初のトップ10入りだわ」
「イーグレットに変えてからランキング下がりまくってましたもんね」
「うん、イーグレットはやっぱ遅いね」
「あんたのライトニングが異常なんすけどね」


ライトニングは私のサイドエフェクトと相性がとても良い。予測演算で導き出した答えの元にシュパッと弾が届くあの感じ。間に合いそうにない瞬間だって、トリオンを込めて弾速を上げるとシュパッといける。まさに、痒い所に手が届く、ちゅーやつだ。

イーグレットだとそれが出来ない。弾が一瞬遅れる。シュパッといけないその一瞬のズレが気持ち悪いし、ライトニングより重いし、嫌い。


「なんでイーグレットの訓練始めたんすか?」
「なんか師匠が、」

「お、復活してんじゃねーか」


こつん、頭の上にじんわりぬくい何かが乗せられる。
落とさないように頭の上のぬくいそれを受け取ってから声のする方を見上げると、今日も安定に悪役がスーパー似合う師匠がラスボスよろしくニヤリと笑っていた。


「どうやって止めたんだ。半崎」
「末っ子攻撃っす。ジュースごちです」
「流石ウチの半崎だ」


いや、末っ子攻撃って何。私も末っ子だけど その攻撃知らない。え、もしかして『……無視すんなよ…』ってアレ?私まんまと半崎くんの末っ子攻撃の罠にハマったの?半崎くん やるじゃねえか。
かしゅり、ミルクティーのタブを引っ張って一口飲む。じんわりぬくい、甘くて美味しい。


「荒船さん、なんで名字先輩にイーグレットさせてんすか?」
「出来る事は多いに越したこたァ無いだろ」
「でも名字先輩はライトニングの方が明らかに向いてるっしょ。 フリー隊員だしイーグレットでエースやらせるより、ライトニングで援護やらせた方がどこの隊とも連携とれやすいし」
「フリー隊員だからだよ」
「は?」


おや、何だか師匠と半崎くんの雰囲気が良くないぞ。いや師匠はいつも通りだけど、半崎くんの雰囲気が良くない。流石は末っ子、頑固者だ。
私と一緒に二人の言い争いの傍観者に徹しているポカリ先輩にスススッと近寄る。ねぇ、これ私の為に争わないで!とか言った方がいい?と問いかけると、オレのだ、その役目は。と返された。なんでお前が言うんだよ。


「名字はフリー隊員だ。危険な状況に陥った時、必ず仲間に助けて貰えるわけじゃねえ」
「まあ、そっすね」
「威力の弱いライトニング一本で、どうやって自分を守んだよ」
「…そっすね」

「荒船…!」「師匠…!」


とぅんく…。私とポカリ先輩の胸から、トキメキの音が確かに聞こえた。
余りのトキメキに耐えられなくなって、胸を抑えて蹲る。視界の端にちらりとトサカが見えたので恐らくポカリ先輩もトキメキに耐えられず蹲ったのだろう。筋肉トサカも倒すトキメキ。師匠、恐ろしい人…!


「流石、弟子馬鹿っすね」
「なんだよ嫉妬か?」
「ダル…」
「師匠まじ愛してる!」
「愛してる!オレも!」


ぽふぽふ、半崎くんの頭をニヤニヤと叩いている師匠の背中に飛びついて、絞め殺す勢いで抱き締める。
流石私の師匠!今日も世界一カッコイイ!!ぎゅうぎゅうと師匠の背中に頬を擦り付けていると、頭に大きな手が回ってきて潰れる勢いで押し付けられた。
顔が潰れているので見えないが、半崎くんと師匠がぎゃあぎゃあと喚いているので、恐らくポカリ先輩が半崎くんと師匠と私を纏めて抱き締めているのだろう。換装体で良かった。ポカリ先輩ゴリラだから、生身だったら絶対私の鼻折れてた。


「離せ!つーか俺が言ったんじゃねぇよ!」
「照れるなよ、荒船」
「だああ痛てぇ!!俺は名字にイーグレットを教えろって頼まれただけでーー」

「ちーす、名字さん探してるんすけど…なんすかこの誰にも需要なさそうなイカついサンドイッチ」
「い、出穂ちゃんっ!」


外からすげぇ失礼な事言われたけど、うん、すげぇ分かる。だって右から、筋肉 寝癖 魔王に顔面派手女だもん。誰も癒せないサンドイッチ。もし私のお弁当にこれが入ってたら間違いなく燃やすもん。


「ちょんまげ娘と千佳ちゃんじゃん」
「あ、アシメ先輩、ちっす」
「こ、こんにちはっ」
「こんちは、なんか用?」
「チカコが名字さんって人探してて」
「し、知ってますか?」
「うん、名字さんね、私」
「まじっすか!!」


アシメ先輩が名字さんだったすね!あんた今日7位でしたよ!すげぇっすね!
ぴょこぴょこ、ちょんまげ娘のちょんまげが興奮で揺れている、なんだこいつ可愛いな。


「あ、あの、名字、さん」
「どうした千佳ちゃん。先輩とお呼び」
「、名字先輩…?」
「なんだい千佳ちゃん」


ひよんひよん、千佳ちゃんの触覚がおどおどと一緒に揺れている。こいつも可愛い。後輩可愛い。


「迅さんが『おれらの思い出の場所で待ってるね』って、言って、ました…」
「あ?」
「あ、えっと、ごめんなさい、こういえば分かるって言われて…」


おっとやばい、なんの罪も無い私の可愛い後輩を怖がらせてしまった。
大丈夫だよ、ありがとう。千佳ちゃんの触覚をぽふん、と潰すように撫でる。手を離すと物凄い勢いで触覚が戻ってきて驚いた。バネでも入ってんのか?


「場所わかんのか?」
「まっっったくわからねぇです」


思い出の場所。迅悠一との、思い出の場所。
ぐるぐると記憶の中を探してみたが、そんなのひとつも無いんだけど……。
まあいいか、相手は迅悠一だ。視えてるだろうし、テキトーに歩いてても出会えるだろう。出会えた場所が私と迅悠一の思い出の場所ってことでいいだろ。


「じゃ、行ってきます」


多分 自販機横のあっこ


マエ モドル ツギ

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