「それなんだ?」
「トリケラトプスですね」
「ドピンクじゃねーか」
「トリケラトプスの生息時期は白亜紀後期ですよ?私達が知らないだけでドピンクのトリケラトプス。略してドピンクトプスが存在したかもしれないじゃないですか」
「…そうか」

ぱしゅっ

「そのドピンクトプス、わざわざ戦闘体スキャンしたのか?」
「訓練の時だけですよ〜。換装体になってからわざわざ着けてます」
「そうか」

ぱしゅっ

「トーマの慰労会誘って貰ったんですけど、師匠も参加する?」
「当日任務の王子隊以外は全員参加だな」
「加賀美先輩も?」
「国近がいるから女子も来る」
「みんな優しい?」
「優しいかはお前次第だが悪いやつはいねぇよ」

ぱしゅっ

「楽しみだ」
「ところで」
「はい?」
「お前は何を仕出かしたんだよ」
「分かりません助けてください」

ぱしゅっ

学校終わり、狙撃訓練場。いつものように師匠と並んで動かない的を撃つ。いつもと違うのは私がこの前より少しだけ上達した事と、私達の後ろで私を睨んでいる人がいる事だけだ。
…冷や汗が止まらない。なんなんだあの人の眼力は。前世の罪まで暴かれそうな紅い眼。眼力で殺されそう


「お前がなんかしたんじゃねえのか」
「A級3位の隊長様と関わる機会なんて無かったですよお…」
「意味もなく怒る人ではねぇぞ」
「ええ…なにかしたっけ…」


ここ最近やらかした悪い事…授業中大口開けて寝てた米屋の口に水入れて溺れさせた事。出水が楽しみに残していたエビフライを盗んでその罪を偶然クラスに来ていた佐鳥に擦り付けた事。名字家にストックしてある辻のアイスを食べた事…。心当たりは沢山あるけれど、A級3位の隊長様に怒られる程のことでは無い。と、思う、のだが…。


「ししょお…」
「…ったく」
「かっこいい…」


視線が怖すぎて泣き付くと、短く息を吐いた師匠が帽子を深く被り直してA級3位の隊長様、風間蒼也さんの元へ歩き出す。
本当は今すぐ逃げ出したいが、師匠があまりにもかっこいいので背中にへばりついて着いていくことにした。


「あの、風間さん」
「なんだ」
「名字に何か用でしょうか?」
「すまない。訓練の邪魔をしたかった訳じゃない。続けてくれ」
「…はい」


…こっわ!続けてくれって何を?!この気まずくて冷や汗が止まらない訓練をですか?!無理に決まってんだろ!ねえ師匠!あんたマジで怖いよって言ってやってよ!
私の心の叫びが届いているのかいないのか。師匠はなんとも言えない顔で私の首根っこを掴んでズルズルとブースに戻っていく。
ひえっ、目が合った。前世の私、どうか罪を犯していないでくれ…。


「私、今日が命日ですかね」
「花は詰めてやる」
「どこに?棺桶に?」


たらり、師匠のこめかみに汗が伝う。ごめんね師匠、私が前世で罪を犯したばかりにこんなに居心地の悪い訓練をさせることになってしまって。それでも花を詰めてくれるなんて師匠は優しすぎるよ…。


「名字、撃ちます」
「ああ」
「……」

じいいいいいいい

「やっぱ無理ですごめんなさい!!」
「あ、おい!」
「骨は拾ってくれ!!」


こんな気まずい訓練やってられっか!真ん中どころか的にすら当たらんわ!
ばぁん!とイーグレットを床に投げつけて首が吹っ飛びそうな勢いで振り返る。
女は度胸じゃ!ここで死んでも悔いはない!嘘、冷蔵庫のプリンは食べてから死にたい!


「あの!」
「なんだ」
「怖いです!!!」


言ってやりましたよ、師匠。さあ砕け散った私の骨をひとつ残らず拾ってくれ…。
あまりの恐怖に指先が震える。視界がぼやける。ぼやけていても紅い眼に射抜かれているのが分かる。せめてプリンだけ食べさせて…


「か、風間さん。名字もB級に上がったばかりの新人でして、あの」


しん…と静まり返った訓練場。荒ぶる事はあっても焦る事は無い師匠が大慌てでフォローに入ってくれる声が聞こえる。
師匠、いいの。私一人の犠牲で穏やかな訓練ができるなら名字、生贄になるのもやぶさかではございません。


「腹は減ってるか」
「……ぷりん食べだい」


ーーー


「怖がらせるつもりはなかった」
「嘘だ。殺すつもりの目だった」
「同輩がお前の事を期待の新人だと言っていたから気になってただけだ」
「じゃあ声くらいかけて欲しかった」
「訓練の邪魔をするのは良くないだろう」


明らかな判断ミスだと思います。と言う言葉はちゅるんとうどんと一緒に啜って飲み込んだ。流石にそこまで失礼な事を言ってはいけない。


「その同輩って誰なんですか?」
「諏訪と言うガラの悪いのがいるだろう」
「諏訪だけで十分ですよ…ガラ悪いけど」


ちゅるん。骨を砕き散らす覚悟で喚き訓練場を北極に変えたその後、私は風間さんに連れられてボーダー本部の食堂へやってきた。
好きなのを頼めと言われたので、冷や汗と北極で冷めた体を温める為に温かいうどんを頼んだらプリンも買ってくれた。優しい。
因みに風間さんはカツカレーを頼んでいた。思わず昔話かよ。とツッコんでしまうほど山盛りだった。


「援護のプロ、予測演算、ノイマン」
「大袈裟な噂の1人歩きです…」
「悪意のない噂は他人がお前を評価した証拠だ」

誇れ。

かちゃん、ステンレスと陶器が擦れる音。私のおうどんはまだ半分くらい残ってるのに、昔話カツカレーは米粒ひとつ残さず無くなっていた。どんな食欲だ。


「…光栄です」
「隊に入る気は無いのか」
「あ、今はないです」
「理由は」
「狙撃手で8000ptとったら銃手に転向するので」
「万能手を目指してるのか」
「いいえ。完璧万能手です」
「ほう」


にやり、風間さんの右頬が上がる。表情が貧しい人だと思っていたが実はそんなことは無いらしい。まあゾッとする笑顔ではあるが、笑ってくれたことに変わりはない。


「大きく出たな」
「大きいけど、不可能じゃないので」
「根拠は」
「師匠と私が手を組めば、余裕っす」


ちゅるん。にやり。今度は私がドヤ顔をしてやる。啜ったおうどんは少し冷め始めていたが、なんというか、体が熱い。闘士?やる気?分からんが、凄いテンションが上がってる。


「悪くない」
「光栄です」
「が、実力がまだ足りないな」
「う」


援護が得意だからと言って腕がなければ愚にもつかない。動かない的には100発100中当てろ。動く的にも100発100中当てろ。まずはそこからだ。
いつの間に買っていたのか、食堂のおばちゃんが運んできたパフェを風間さんがもりもり口に放り込む。凄い…ドデカいパフェが吸い込まれるように無くなっていく。

そんなことより…


「カッコよすぎ…」


今まで師匠に借りて見てきたどの映画の人物よりも、目の前の風間さんの方が格好いい。まじで風間さん格好良すぎないか?何この人、本当に人間なの?実は王子様だったりしない?食いしん坊国の王子様。今私うどん啜ってなかったら間違いなく惚れてたよ。良かった、うどん啜ってて。


「俺の率いる隊の連携はボーダートップクラスだ」
「しってます、ログ何回も見た。連携に無駄な数字が一切無くてロボットかと思った」
「そうか。入れるか?」
「り、理論ならギリいける…!」
「今のお前には期待してない。完璧万能手になった時、風間隊に来い」
「うえ?」
「諏訪にはやらん」
「……ぶふ」


ぽいと、さくらんぼを口に放り込む風間さんを見て思わず笑う。なんか、子供みたいな顔してる。
そうかそうか。ポジションが違っても、敵なんていなさそうな雲の上のA級様でも、友達って、ライバルなのか。


「俺はもう戻る。お前も食べたら訓練に戻れ」
「はい!ご馳走様でした!しっかり腕磨きます!」
「そうしろ」


ちゅるん、最後の一本を啜って大して噛まずに飲み込んで。風間さんの後ろ姿に頭を下げる。
あの人こそ、人の上に立つべき者、というやつだろう。世間話というより講習と呼びたいくらい有意義な時間だった。早くプリン食べて訓練に戻ろう。
でも、その前に


「風間さん!」
「なんだ」
「あのね、」


カレー、ほっぺについてます


マエ モドル ツギ

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -