「んぐ、なんで、許可、したの」
「危険なこと、ないって、言っふぇたし」
「そんなんわかんないでひょ」
「未来視ってやぶぁくない?」
「嘘ついてるかも、しれな、熱っ」
「そんな人を疑って生きてちゃあ、人生、たのひくねーぞ」
「は?」
「あ?」

「飲み込んでから喋りなさい!!」
「「ごふぇんなはい」」


迅悠一と別れた後、辻とコンビニでアイスを買った。私が雪の大福で、辻が期間限定の苺のアイス。辻は棒アイスを買おうとしていたけど、私の雪の大福を『1個頂戴』と盗んでいくのが安易に想像できたので無理やりカップアイスを買わせた。
因みに警戒区域外のコンビニに入るまで私は辻のコートの中に居たし右手を潰されていた。繋いでいたとか握られていた、じゃない。潰されていた。
辻と二人羽織で警戒区域内を歩く事になるとは。影浦隊の作戦室にいた時には思いもしなかった。

そんで今。私たちは我が家のこたつで、並んでおでんを食べている。


「あ、この芸人さん好き、半分どうぞ」
「俺この人知らない、ちくわ半分あげる」
「あっつぅ!!」


お母さんに怒られたので半分こ。大根を半分辻のお皿に入れたら、ちくわを口に突っ込まれた。こいつおでんの練り物はやべえ、って知らんのか?!リアクション芸人さん達の暗黙の了解『熱々おでんの練り物だけはヤメテ』を知らんのか?!
ぎっ!と睨むと辻は死ぬ程ドヤ顔をしていた。そうか、態とか。よろしいならば戦争だ。


「新ちゃん、あーん」
「絶対嫌だ」
「お母さんの作った餅巾着おいしーよ」
「馬鹿なんじゃないの、殺す気なの」
「死ねばいいのにねえ」
「絶対道連れにするから」


それ市販。とお母さんが言っていたが無視だ。馬鹿を見る目で私達を見ていたが無視。お母さんが見ているから堂々と喧嘩は出来ない。仲良く喧嘩をしなければ。


「新ちゃん」
「なに」
「あーん」
「………」
「…えいっ」
「あっづ!!」


ぷいっと顔を背けられたので横から辻の唇に餅巾着を押し付ける。おでんの汁が溢れ出るように、しっかり押し付けてやった。殺意の籠った目で睨まれたので、ついうっかり、とウインクをしておく。だって後ろにお母さんがいるから。


「………」
「………」


ニコニコ、穏やかな笑顔で見つめ合う。その笑顔の裏には殺意が込められているのだが、お母さんにはバレていないだろう。とりあえず、目を逸らしたら負けだ。にこにこにこにこ、テレビの向こうの芸人さんが何やら怒っているようだが、多分辻の方がキレている。


「喧嘩してないでさっさと食べろ」
「「っい゛」」


勝負も終盤、そろそろ辻が手を出してきそうだったその時。ごちっ、と頭の上に衝撃。母の愛ある拳骨である。もちろん辻の頭の上にも愛はしっかり落とされていた。


「喧嘩辞めないならあんたらが買ってきたアイス、お母さんとお父さんが食べるからね」
「だ、だめ!」
「ダメなら早く食べなさい!」


ぎっ!と目を釣り上げて怒られる。辻といるとお母さんに怒られてばっかりだ。腹が立ったので出汁用の昆布を辻のお皿に入れたら辻は牛スジが1切れだけ残った棒をくれた。ぶっ殺す。


「とにかく、約束したし行くから」


返事はない。私に嫌がらせをする為に無理やり詰め込んだ牛スジが噛みきれないのだろう。ダサいなあ。


「おかーさんごちそーさま」
「アイスは?」
「辻が食べ終わったら一緒に食べる」
「はいはい」


そんな仲良しなら喧嘩しなきゃいいのに。お母さんはぶちぶちと小言を零しながらリビングから出ていく。20時。お母さんがお風呂に入る時間だ。


「お前食べるの早いよね」
「辻が遅いんだよ」
「ちゃんと噛まないと太るよ」
「辻の顎が弱いんだよ」


辻は一口がデカい割りに食べるのが遅い。詰め込みすぎて噛むのに時間がかかるし、ボーッとテレビを見ていたり、嫌いなものを最後に残すから。私は嫌いな物は最初に食べる派だ。後に残しておくとご飯中ずっとモヤモヤするから


「おでんね、残ったら蓋して台所に置いてて」
「わかった」
「お皿はお水につけといて。お母さんがお風呂から出る前に洗っとこう」
「わかった」
「辻は拭く係ね」
「わかった」
「心配なら迎えに来て」
「わかった」
「22時に本部出る」
「わかった」


出口は色んな人に会うから、作戦室で待ってる。辻がはんぺんを食べながら言う。食べながら喋るなってお母さんに言われた癖に。後でお母さんにチクってやろう。


「色んな人って女の子の事でしょ」
「う」
「情けないなあ」
「うるさいな」


女の子ってどうしてあんなに元気なんだろ…。辻が土鍋からちくわを取りながらぶうぶう零す。お前さっきから牛スジと練り物しか食べてないな。子供かよ。


「まだ食べるの?」
「残しといた方がいい?」
「半端に残さないなら食べていいんじゃない?」
「なら全部食べる」
「うん、あ、この若手芸人面白いよね」
「初めて見た、え、ネタ終わってるし」
「多分動画サイト載ってるし後で観ようよ」
「うん」


さっきまで座ってた所、辻の隣に潜り込んで土鍋の中身を覗き込む。おお、後こんにゃくしかない。成長期の男児すげえな。お兄ちゃんも高校生の時よく食べてた気がする。ドン引きするくらい食べてて、こっちが気持ち悪くなったっけ。
…辻これ以上大きくなるの?やばくない?巨人兵じゃん。


「お母さんごちそーさまでした」
「洗う」
「うん」


辻が土鍋を持ったので、辻のお皿を持って行ってやる。凄いなあ、よく食べたなあ。と思わず感心してしまう。辻家のママは大変だろうなあ。


「お腹いっぱいなったの?」
「なったよ、アイス食べたい」
「洗ってからね」


二人でキッチンに立って、私が二人分のお皿を洗う。洗ったら辻に投げるように渡して拭いてもらう。おでんだったから洗い物が少なくていい。
辻家はいつも大皿料理なのかな。中学校の時以来、辻家のご飯を食べていない。また食べたいから押しかけてやろう。


「あ」
「ん?」
「いや、CMに入っただけ」
「あ、この曲知ってるわ、なんだっけ」
「知ってるって言わない方がいいよ」
「ここまで出てるんですぅ、今胃のあたりですう」
「喉通り過ぎてるから一生出てこないね」


辻が拭いたお皿を食器棚に戻していく。
土鍋ってどこに戻すんだろう。夏にかき氷機を探してた時は上の戸棚にあったけど、冬だから下ろしてるかも。
きゅ、辻が最後の一枚を拭き終わって手渡してくる。これは食器棚に戻すやつだ。


「アイス、アイス!」
「1個頂戴」
「言うと思ったぜ!お前のも半分寄越せよ」
「多くない?」
「2個入りの雪の大福1つ貰おうとする人がそれを言うのかね」
「だから棒アイス駄目だったんだ」


私のサイドエフェクトがそう言ってたからね。もっとマシな嘘つけば。辻の分のスプーンを持ってこたつに戻る。
リビングは暖房が効いてるのに、こたつから出てるだけで寒く感じる。こたつを開発した人間を何故教科書に載せないのか。永遠の謎である。


「さむさむ」
「テレビ見えないんだけど」
「あ、この芸人は大好き」
「俺も」
「見えてるじゃねえか」


辻とこたつの隙間に無理矢理入り込んで、辻の足の間に座る。こたつの弱点である背中もこれだと温かい。天才だ。


「雪の大福の合間に食べる苺が良い」
「うん」
「天才でしょ」
「はは」
「は?」


辻に寄りかかってアイスを食べる。
期間限定のアイスは美味しかった。
やっぱり私のアイスを奪おうとした辻の考えも読めていたし、それを見越して苺味のカップアイスを買わせたのだって、辻の足の間に座れば全方面が温かい事に気づいたのだって、うん。私は天才だ。


果報は寝なくても来る


マエ モドル ツギ

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