二宮さんは思ったより器用だった。お花の形に剥いた皮をお皿にして、白いところをちまちまと捨てている姿がなんか面白くて吹き出してしまった。
辻はひゃみちゃんよりかは綺麗に千切っていたが、まあどんぐりのなんとやら。
いぬは器用に飛行機の形に剥いていたので、ひゃみちゃんの残骸達をウロコ雲。と並べてやると凄く喜んで遊んでいた。行儀が悪いと三方向から怒られていた。
ひゃみちゃんは一粒目から酸っぱいのに当たっていて可哀想だったので私のを一粒あげたらそれも酸っぱいやつだったらしい。でも美味しいね、と笑っていた。


「辻は名字を送ってやれ」
「はい」


別にいいのに、1人で帰れる、訓練の途中なんでしょ、別にいいって。二宮さんの服をグイグイ引っ張ってそう伝えたけど 二宮さんはそんな私を無視して、辻 送れ。と作戦室から出ていってしまった。
どこに行ったんだろう。鞄あるけど…まさか忘れて帰ったとかじゃないよね?
もやもやと二宮さんの鞄を見つめていると辻に首根っこを掴まれて、帰るよ。と引き摺られる。


「辻、二宮さんの鞄」
「……忘れて帰ったのかな」
「まじでそんなことあんのかよ」
「お前もこの前忘れてたでしょ」
「あれは忘れてたわけじゃなくて置いて帰ってたの」


変わらないだろ。変わりますぅ。言い合いをしているといぬがハイハイ喧嘩しないのー。と止めに入ってきた。なんだか恒例化してしまった気がする。


「ひゃみちゃんはおれと帰る?」
「犬飼先輩がいいなら」
「もちろんいいよぉ。準備して帰ろう。お腹すいたしコンビニ寄ろうよ」
「はい」


あの二人想像以上に仲がいいですね。面白いでしょー。とひゃみちゃんといぬがお話しているのが聞こえる。面白がってんじゃねえぞ、こっちは本気で喧嘩してんだ。辻も同じ事を思っていたようでいぬを睨んでいた。


「じゃー辻ちゃんまた明日ね」
「なまえちゃん、また遊ぼうね」
「バイバイひゃみちゃん犬っころ」
「ふたりともお疲れ様です、また」


作戦室の前でお別れをする。私達の家は普通校に近いので西出口から。いぬとひゃみちゃんはひゃみちゃんの家の方角である東出口から帰るらしい。本部は出入口が沢山あるから便利だ。


「影浦隊と仲良かったんだ」
「今日ヒカリと仲良くなった」
「二礼さんか…」
「なに」
「いや、なんというか」


二礼さんは面倒見が凄くいいから会う度に話しかけてくれるんだけど…きちんと返事したいんだけど…勢いが…。もごもごと辻が喋る。なんと情けない。返事くらいしやがれ、と言うと、頑張ってるし。と逆ギレされた。は?


「辻家ってこたつあるっけ」
「今年は出てない。奏平と父さんが寝落ちするから」
「あぁ、あるあるだわ」
「名字家は?」
「リビングとお兄ちゃんと私の部屋にある」
「多いね」
「エアコンだと喉痛くなるし」
「あぁ、あるある」


こたつ正方形派?長方形派?丸いのも良いよね。くだらない話をしながら出口をめざして歩く。辻は長方形派らしい。男家族だと正方形と丸いのは狭いんだって。


「お、名字ちゃんと辻ちゃんじゃないの」


私は正方形のやつが好き、理由は特にないけど。と誰も興味が無いであろう好みを発表していたら、正面からぼんち揚を片手に持ったインチキエリートが現れた。


「じんゆーいち」
「お疲れ様です」
「おつかれ、これから帰るの?」


そうだよ。と返事をして、差し出されたぼんち揚を押し返す。多分辻も要らんはずだ。食べたいなら自分で言いな、男相手には言えるだろ。
そんなことを思っていると、いつの間にか迅悠一の右手に三枚のぼんち揚があって。飛び跳ねるように辻の後ろに隠れた。


「隠れなくてもいーのに。名字ちゃんでておいでー」


ちっちっちっ、とぼんち揚を振られて、恐怖で辻のコートの中に後ろから潜り込む。おい。と声が聞こえたが絶対に出てやるものか。私はぼんち揚がトラウマなんだ。


「あらま」
「揶揄うのはやめてください。荷物が増えるので」
「荷物っていうなよ」
「荷物は黙ってて」


辻の背中から左腕を回してお腹のところで中指を立てるとぎゅう、と握られて反対方向に逸らされた。痛い痛い折れる!


「今日は名字ちゃんにお願いがあってきたんだけど、お話できそうにないなあ」
「お願いですか?」
「辻、やめろ、返事をするな聞きたくない。」
「そう、お願い」
「無視してんじゃねーよ」


辻の腕の間から顔を出して、握られてない右手で中指を立てる。これは迅悠一に対しての中指なので辻に折られることはないだろう。


「先輩に中指立てるなよ」
「いだだだだ」


そう思っていたのにガッと掴まれてさっきより強い力で反対方向に逸らされてしまった。痛い痛い、これはまじで折れる!!確かに私が悪かったけどこれは痛すぎる!!!


「たのむ折れる迅止めてえええ!」
「分かった分かった。名字ちゃん抵抗をやめなさい」
「私じゃなくて辻を止めるんだよ!!」


ばあか!!!と半泣きで叫ぶと、態度が悪い。と左手の中指も強く逸らされてしまう。死ぬ!このままだと両手の中指が死ぬ!


「お願い聞いてくれる?」
「よく話続けられるなお前!マイペースか!」
「水曜日の夜にな本部にいて欲しいんだよ」
「痛すぎて全然話入ってこないから!!」
「何故ですか」
「んー、理由は言えないかな」
「だからよく話続けられんなお前ら!!」


指離して!とバタバタ暴れても中指は解放されず、何故か私に用があるはずの迅悠一は辻とお話をし始めてしまった。傍から見たら迅悠一と辻と辻のコートが何故が暴れているというトンデモない光景だろう。迅悠一お願いだから辻を止めて、このまま行くと私の中指に包帯が巻かれている未来を視ることになるんだぞ。


「水曜日って言ったら、遠征部隊が帰ってくる日ですよね」
「予定ではね」
「視えているでしょう。誤魔化さないでください」
「俺のサイドエフェクトって万能じゃないからさー」


おや、何やら良くない雰囲気だ。迅が辻を煽っているのか?辻は拗ねることはあっても怒ることはあんまりない奴だから、イライラしてるのは珍しい。とりあえずイライラしてるせいで握力が強くなっているから痛い。本当に折れる前に辻を宥めなければ。


「水曜日に本部にいたらいいの?」
「なまえちゃん」
「黙ってて。迅と話してんだから」


少し強めに言うと、辻はぐ、と黙って指を解放してくれた。右手だけだ。辻に対して立てた左手の中指はまだ掴まれている。根に持つなぁ。


「うん、いてくれる?」
「危険なこと起きない?」
「うん。いてくれるだけでいいんだ」
「だって、新ちゃん。危険なことないってさ」
「興味ないから」
「「いやいや無理があるから」」


むしゅ、と拗ねている辻に迅悠一とツッコむ。そんだけ拗ねといて興味ないからは無理だって。どこまでガキなんだよ。


「分かった、でも11時までに帰らないとお母さんが怒るからね。10時には帰るからね」
「うん、それでもいいよ。」


ありがとうね。と、頭に迅悠一の手が乗る。別にいいけどお前ぼんち揚持ってたよな?拭いたか?そう思って辻の腕の間から頭を引っ込めてもう一度コートの中に隠れた。

よく見てよ左手だから。左手は袋持ってた方だから大丈夫だって。迅悠一の声が聞こえるけどお前はぼんち揚突っ込んでくるから信用ならん!信じないからな!
辻はずっと黙ってる。コートの中からじゃあ顔が見れないけど、多分まだ拗ねてると思う。


「迅さん、俺たち帰りますので」
「ああ、じゃあお二人さん、気をつけて」
「なんか視えてんの?危険?」
「んー?二人がコタツでアイス食べてるな」
「ちょー平和。辻早く帰ってアイス食べよ」
「うん」


ぐいぐい、辻の背中を押して歩く。迅悠一に手を振ろうと辻の腕の間から右腕をだしたら辻に思いっきり握られて指が5本とも折れるかと思った。
だから、力加減が馬鹿なんだって!お前は!!


雪の大福が良いでしょう


マエ モドル ツギ

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