太一に撃たれて緊急脱出した。ランク戦や模擬戦ではない。的を狙って撃つ訓練で、太一に撃たれて緊急脱出したのだ。一瞬何が起きたか本気で分からんかった。別役太一、恐ろしい子。
今先輩と村上先輩、過労死しないかな。今度なんか差し入れをしよう。安眠グッズ?入浴剤とか?うん、リラックス効果のある何かを、あ、仏のような隊長さんにも差し入れをしてあげなきゃ

とぼとぼ。あまりの衝撃に怒る事も出来ず。疲れてこんな歩き方をしているだけなのでそんな心配そうな顔で見ないでください皆様。優しい人ばかりで嬉しい。


「なんか、飲もう」


とりあえず食堂…いや自販機だ。1番近い自販機に行こう、もう疲れた。確かあの角を曲がってエレベーターの隣に自販機があったはず、遠いな。買ってやるんだから自販機が来いよ。
無理か。ありえん事考えました。馬鹿でした、ちゃあんと歩きますよ。ほらちゃんと自分で歩いて角まで来た。もうここをちょいっと曲がれば自販機で…


「おわっ」
「、」


やばい、疲れすぎて馬鹿な事考えてたら人にぶつかってしまった。完璧に私が悪いです土下座します、ジュース奢りますまじでごめん。土下座はしないけどとりあえず謝んなきゃ。そう思いながら顔を上げた、ら。


「すまない」
「……、」


み、三輪秀次!!!!そうだった!そうだった!太一の件ですっかり忘れてたけど私今日三輪を慰めないといけないんだった!てか本当に会えた!迅悠一すげえな!!


「…どこか痛むのか」
「いっいえ!どこも痛みません!ごめんなしゃい!!」
「…チッ」


…今こいつ舌打ちしなかった?ごめんなさいつった相手に舌打ちするか?普通しねぇだろ。確かに私が前見てなかったせいではあるけどお前だって前見てなかったから同罪だろうが。なんだこいつ喧嘩売ってんのかよ。


「………」
「………」


三輪秀次を思いっきり睨む。それに気付いた三輪秀次も更に私を睨んできた。ほう、私に張り合う気かね。その喧嘩買わしてもらおうじゃねえの。


「……チッ」


勝った!先に逸らした!名字家と辻家の喧嘩のルールその3、先に目を逸らした方の負け!お前の負けだ!だがしかし、ここで終わらせる訳にはいない。喧嘩は言いたいことを言い合うものだ。そう、喧嘩はまだ始まってすらいないのだ。


「舌打ちしちゃダメだってお母さんに教わらなかったのかよ」
「…は?」
「ごめんなさいって謝ってる相手にまずすることが舌打ちってどーなの」
「……あんたはまず無視しただろ」
「ぐ、」


ド正論!ダメだ!反論ができない!私の負けだ!私の負けではあるが私は幼少期から辻と数え切れない程喧嘩をしてきたんだ。いわば喧嘩のプロである。こんな所で負けを認める訳にはいかないのだ。
そう、今私がすべきことは、

言い訳だ。


「びっくりして声が出なかったんですぅ。無視したわけじゃありません」
「………。」


嘘ではない。本当にびっくりして声が出なかっただけだ嘘ではない。だが人はこれを言い訳と呼ぶ。それか屁理屈。そんなこと知っている、だが負ける訳にはいかないのだ。


「確かにすぐ謝れなかったのは悪かったけどさあ。驚いて言葉が出ないのと舌打ち、どっちが良くないかくらいお前にも分かるよね?」
「……ッ」


ぶは、舌打ち我慢した、可愛い、可愛いところあるじゃん三輪秀次。


「、すま、なかった」
「うん。いいよ。ところで」
「…なんだ」
「くま酷くない?生まれつきなの?」


勝った!!私の勝ち!!よっしゃ!!!
とりあえず勝ち星を上げたところで、迅悠一からの任務を思い出す。私は三輪秀次を慰めてやらなければならないのだ。意味わからんがやると言ってしまったからにはやらねば。


「……違う」
「寝不足?大丈夫?私自販機行くんだけどなんかいる?寝不足って何がいいんだろ、コーヒー?カフェインってよくないんだっけ?」
「、おい!」


三輪の手を掴んでグイグイと引っ張る。私だってこんなことしたくないけれど、慰めてやらねばならんのだ。巻き込んですまない。全て迅悠一のせいだよ。
とりあえず飲みもんやっときゃ任務達成だろ。人間ってほら、ゲンキンだから。こんな難しそうな三輪だって人の子だ。ジュースやっときゃ喜ぶって。多分。


「何がいい?」
「要らない」
「なんで?」
「…???」


おお、困惑している。気持ちはわかる。私が三輪とおなじ立場だったら同じように困惑するし、直ぐに逃走経路を確保し逃げるだろう。だが何度も言うが私には任務がある。お前にジュースを買ってやらねばならないという任務が。


「…なんでそんなに奢りたいんだ」
「…今日の占いでエレベーター前の曲がり角でぶつかった人にジュースを奢ればいいことがあるって、」
「そんなのあるのか」
「うん」
「そうか…」
「………、」


信じちゃうのか三輪秀次。もしかして天然属性だったのだろうか。まあ話した事ないし、見た目が取っ付き難いってだけで普通にいい子とか多いもんね。影浦先輩とかそういうタイプじゃん。師匠が良い奴って言ってたもん。


「…これにする」


それでいいのか、三輪秀次。
いつか壺とか買わされないだろうか、大丈夫か?三輪秀次の今後を心配しながら、指定されたお茶を買う。三輪秀次はほうじ茶派なのか。私は緑茶派なのだが、ほうじ茶もあっさりしていて美味しいと思う。


「…いただきます」
「どうぞ」


任務終了。私はちゃんと三輪秀次に飲み物を買ってあげたよ、これでいいだろう?迅悠一よ。とりあえず三輪秀次が凄く育ちがいい天然属性だということが分かった。ちょっと可愛い。お友達になって欲しい。


「私ね、名字なまえ。米屋とね、同じクラスでね、隣の席」
「…三輪秀次」
「知ってる」
「…あんたの話も聞いた事がある」
「米屋?」
「と 奈良坂」
「へえ」


そういえば米屋も奈良坂くんから私の事聞いたって言ってたっけ。奈良坂くんって無口なクールビューティーってイメージだったけど、意外とよく喋るんだなぁ。
ぽつぽつ、零して拾って会話が続く。辻との会話によく似ているけど、辻との方がテンポがいいなぁ。そりゃそうか。17年一緒のヤツと今日初めて会話する人を比べちゃあいけねえな。


「本当にくま酷いね、疲れてんの?」
「、」


それにしても。三輪のクマが酷い。目の下が真っ黒だ。こんなの漫画の悪役でしか見た事ないよ。こんなにいい子なのに悪役キャラなんてダメだよ。
あれ、そういえば、迅悠一は三輪が怒ってるって言ってたけど、そんなに怒ってないな?どちらかといえば、疲れきってます、って顔をしている。冬島さんとかがよくこの顔してるもん。


「なんか嫌なことあったの?」
「…」
「嫌なことってめっちゃ疲れるよね」
「、」
「ちょっと愚痴を聞いてもらってもいいだろうか」


は?みたいな話をされたが勝手に話す。私ね、訓練中に後輩に撃たれて緊急脱出したんだ。めっちゃ怒ってたんだけどさぁ。なんかもう怒りを通り越して疲れちゃってさぁ。
ぶうぶうと愚痴を零す。三輪はじっ、と黙って聞いてくれてた。


「それでさ、鈴鳴支部の皆さんにいつもお疲れ様ですってなにか送ろうと思うんだけど何がいいかな?」
「…睡眠グッズとかでいいんじゃないか」
「あ、やっぱり?私もそれがいいと思ってた!」


やっぱり睡眠グッズか!村上先輩も寝て記憶するとか言ってたし睡眠グッズが良いな!ありがとう三輪!お礼にもう一本ジュース奢ってやるよ!


「はい!オロナミンCどうぞ!」
「…どうも」
「うん!これ飲んで疲れぶっ飛ばしな!ちゃんと寝なよ!」


新たに自販機で購入したオロナミンCを三輪に握らせる。別に要らんみたいな顔してたけど、三輪はちゃんとお礼が言えるいい子だ。
また学校でお話しようね!それじゃあね!と手を振ると小さく手を振り返してくれた。

…あれ、これ慰めたことになんのかな?


任務完了(?)


マエ モドル ツギ

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