あのね、それでね、お尻触られてね。そうか。ぼんち揚がね、口の中切れたかな、ちょっと痛いの。そうか。ボーダーの人って距離感おかしいよね。そうか?パーソナルスペース激狭と激広ばっかりで普通の人いないよ。…そうか?


「師匠は激狭、同輩と自隊の人に限っては無いよね」
「無いか?」
「うん。先輩達仲良いよね、あ、この前影浦先輩と村上先輩に会ったよ」
「カゲと鋼か。仲良くできたか?」
「影浦先輩にはいっぱい刺しました。鋼先輩は太一にお菓子あげてるんだって」
「…そうか」

ぱしゅっ

「影浦先輩に次会ったら怒られるかな」
「怒らねぇだろ、敵意を向けられなきゃ基本的には良い奴だ」
「良い奴?」
「懐に入れた人間にはとことん甘ェ」
「めっちゃ、腹立つ!の感情ぶっ刺しました」
「………そうか」

ぱしゅっ

「敵意だから怒られちゃいますね」
「そうかもな」

ぱしゅっ

「そういえばトーマ最近見てないな」
「任務らしいぜ」
「ふーん、あっ出水と同じですかね?ほら、A級1位と2位だし」
「そーかもな」

ぱしゅっ

「あ、そういえば」
「アンタらすげえ喋るっすね」
「あ、半崎くん」

ぱしゅっ

狙撃訓練場。師匠と並んで的を撃つ。迅悠一との強烈な初めましてで一瞬忘れかけていたが、今日は最高にかっこいい師匠に指導してもらう日だったのだ。
口にパンパンに詰め込まれたぼんち揚は勿体ないけれど吐き出して捨てた。噛めなかったから仕方ない。


「よお、半崎」
「っす。隣いいっすか」
「「………」」
「…ダメっす?ダメならいいんすけど」
「いや、ダメじゃねえ」
「ダメじゃないんだけどさ」
「、なんなんすか、ダル…」


ダル…とか言いながら、動くのはもっとダルいんだろう。半崎くんはゲーム機しか入ってなさそうな鞄を師匠の隣のブースに置いて寝転んでしまった。
半崎くんはうつ伏せで撃つタイプなのか。確か精密狙撃の名手なんだよね。凄いなあ


「で、なんなんすか。」
「あぁいや、お前に対してじゃねぇんだけどよ」
「?」


半崎義人。師匠の所の末っ子狙撃手だ。荒船隊はノリが良い同輩3人と2つ年下の半崎くんの4人で構成されたチームである。だからなのかは知らないが、荒船隊は半崎くんにめちゃくちゃ甘いのだ。

ポカリ先輩は筋トレをする時、ゲームしてる半崎くんを背中や足に乗せているし、担いでスクワットをする。師匠は映画やログを見る時にゲームしている半崎くんを足の間に座らせている。加賀美先輩は女性なので過度なスキンシップはないがいつも半崎くんの為にアイスを買っているし鞄にはいつも半崎くん用のブランケットが入っている。

そう、すこぶる甘やかしているのだ。

半崎くんも半崎くんでそれらをダルいと真顔でやり過ごしてはいるが、嫌がってはいないし先輩達に甘やかされて嬉しいのは私のサイドエフェクトのせいでバレている。
嬉しがってるよ。と半崎くんには内緒でこっそり伝えた時の3人の反応はそれはもう、サイドエフェクトを使わなくても分かるくらいにキラキラしていた。

だから半崎くんが隣に座るのを師匠と私は嫌がっている訳では無い。なんなら師匠は嬉しがっている。でも何故、渋るのか。それは半崎くんが高校一年生だからである。


「オレに対してじゃないならなんなんすか」


あ、やばい。半崎くんが拗ね始めてしまった。そりゃそうか。いつもデロデロに甘やかされているのに隣に座るのを渋られたら拗ねちゃうよね。可愛いやつじゃないか。


「半崎くんが隣に座るとね、もれなく本物の悪がくるからだよ」
「本物の悪?……太一か」


そう、太一だ。本物の悪 別役太一。
半崎くんと同い年で同じクラスの狙撃手。半崎くんと太一はとっても仲良しだ。太一を相手にしている半崎くんは末っ子ではなくお兄ちゃんになる。見ていてわかったのは末っ子半崎くんはお兄ちゃんになるのも満更ではないらしい。可愛いやつだ。


「太一が嫌いなわけじゃないよ。寧ろ素直で可愛い後輩だと思ってる」
「あぁ。だが、荒船隊はこの後防衛任務があるだろ?」
「そう、すね」
「太一に撃たれて緊急脱出する訳にはいかねぇんだ」
「そうすね、オレ場所変えるっす」
「「うーーーーん」」
「?なんなんすか」


確かに太一の問題行動に巻き込まれて緊急脱出するわけにはいかない。太一は怒られてしまうし、荒船隊は任務だから尚更駄目だ。
それにもし半崎くんが緊急脱出してしまったら。そう思うと私と師匠が太一を見張りながら訓練した方がいい気もする。
それになにより私たちは、半崎あっちいけ!と出来ないのだ。だって半崎くんはとてもとても可愛いから。しゅん、ってなったら耐えられない。私がじゃなくて、師匠が。


「行かなくていい。そこにいろ」
「いいんすか?」
「みんなで気をつけとけば大丈夫。太一だって毎日問題起こすわけじゃない、かもしれない」
「自信はないんすね」
「「ない」」


だから私たちは身の安全より半崎くんを優先することにした。半崎くんがしゅん、てなったらダメだ。だって可愛いから。
師匠と目を合わせて言葉もなく誓い合う。半崎くんは何がなんでも守るぞ!と。


「あ、はーーんざきーー!!」


来たァァァ!!!
バタバタバタバタ!ただ走るだけで何故そんなに大きな音がするんだ太一!緊急時以外は走っちゃダメだ太一!あ、こら、佐鳥すげ〜じゃなくて前を見て走ーー


「おぶぅわぁ!!」


ズザァ。
だから、言ったじゃないか太一……。


「大丈夫?太一」
「いたた、あ、名字先輩おはようございます!」
「うん、おはよう太一」
「気をつけろ、前見て走れ」
「はい!荒船さんもおはようっす!」
「おう」
「半崎隣いい?!」
「うん」


登場して1分も経っていないのに勢いが凄すぎる。バタバタバタ!ただ立ち上がって荷物を置いて座るだけでどうしてそんなに激しい音がするんだい太一。
不安を抱きたがら師匠を見ると師匠も不安でいっぱい。みたいな顔をしていた。わかる。まじ不安。
太一がイーグレットを構える。そして的を撃つ。
ぱしゅっ、といい音がして、ど真ん中とはいかないが、1番小さい円の中に弾は吸い込まれていった。

うんうん。腕はいいんだよね。目がいいんだよ太一は。よく見てる。見てるだけじゃなくて記憶もできている。太一は頭も悪けりゃ運も悪い子だけど、洞察力に優れた子だ。だからきっと、今日も周りさえ見てくれていれば、問題は起こらないはーー


バァァッン!!
「うわぁ!!」

「「なんっっでだよ!!!」」


意味わからん!!マジで意味わからん!!なんで?!なんで的撃ってたはずなのに弾が後ろに飛ぶんだよ!!!私のサイドエフェクト仕事しろ!!なんで私のサイドエフェクトは太一の奇行に反応しないんだよ!!!


「ごべんなさぁぁぁい…」


ずぅぅぅぅん。太一が落ち込む。
うっ、これは今先輩が言ってたヤツだ。こちらが申し訳なくなるくらい反省はする。ってやつだ。確かにこの世の終わりレベルで落ち込まれると何故かこちらが申し訳なくなってしまう。いつも一緒にいる今先輩でさえそう思ってしまうのだから、私はもう無理だ。怒れない。


「太一、気をつけよう」
「はいいいい」
「半崎、場所変われ」
「っす」
「師匠、私が太一の隣行きます」
「ダメだ、お前はそのままそこにいろ」


し、師匠…カッコよすぎるよ、師匠。
半崎くんと師匠の場所が変わって、右から 太一、師匠、半崎くん、私、の順に座り訓練を続ける。
どうやら太一のドジはあれっきり作動していないようで、割と穏やかな時間が私達の間には流れていた。

の、だが。

なんか、おかしい、数値が、揺れた?
変に思ってパッと立ち上がった瞬間だった


バァァン!!
「っぎゃー!!!!」

「、」

「名字先輩?」
「名字!!」
「名字せんぱああああい!!!」


『活動限界、緊急脱出』

脳に直接響く声。は?何が起きた?衝撃を感じた胸をみる。
胸のど真ん中。心臓、トリオン器官のところに、ぽっかりと穴が空いている。


「 たいちぃぃぃぃぃ!!!!」
「ごべんなざぁぁぁぁああああ!!!!」


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マエ モドル ツギ

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