ぺろん、お尻に違和感を感じてぞわぞわと鳥肌が立った。
なんだ?痴漢?ボーダー本部だぞここは、なんて勇者なんだ。


「こんにちは、良いお尻だね」
「いい天気だねみたいなノリでセクハラしてくんな」
「おっ手厳しい」


誰だこいつ、ボーダー1イケメンの嵐山さんにちょっとだけ雰囲気が似ている気がする、が、違う。誰だこいつ。まじで誰だ。出会い頭お尻触ってくるってことは知り合いのはず。そして気心しれた相手じゃないと出来ないはずだ。思い出せ、思い出せ私ぃ


「因みにおれとおまえは初対面だから安心して」
「安心する要素一個もないんですけど?!」


寧ろ危険!初対面の女のお尻触る相手に安心なんて出来るかぁ!!
ズザザァ!と後ろに下がって変態男と距離をとる。これ以上近付くな。1ミリでも筋肉を動かしてみろ。お前の弱点を思いっきりぶん殴ってやるからな。


「ははは、おまえ猫みたいだな」
「これ以上近寄ったら引っ掻くにゃあ」
「おっ猫だ。おいで、ぼんち揚げだよ。ちっちっち」


変態男がどこからか取り出したぼんち揚を顔の前で振る。え?どこから出した?どこに収納してた?全く気付かなかった。もしかしてアイツ、身体のどこかに4次元と繋がっているポケットが付いているのか?
ちっちっち、と言われても簡単に近寄る私ではない。変態男を睨むフリして逃走経路を確保する。


「ぼんち揚げじゃだめか。美味いんだけどなあ」
「、」
「おれね、迅悠一。S級の実力派エリートです」
「えすきゅー?」


S級。S級っていったらアレだ。特別なトリガーを持っているめちゃくちゃ強い人だ。A級が束になって襲いかかっても敵わないとか言われてるくらい強い人。こんなに人がいるボーダーで、2人しかいないS級。


「今日は名字ちゃんにお願いがあってきました」
「お願い?」


お願いとはなんだ。というか なんで私の名前知ってるんだ。S級エリートが新米B級隊員の事を知ってるとは思えない。こいつまじで何者?


「そう、あのね、今日おまえは三輪に会う」
「三輪?」
「知ってるだろ?A級7位三輪隊隊長の三輪秀次」
「知ってる」


D組の三輪。米屋んとこの隊長だ。元A級1位の部隊にいたやつ。二宮匡貴と一緒のチームだったやつ。


「三輪を慰めてやって欲しいんだよ」
「…は?」
「めっちゃ怒ってると思うんだよね、てか怒ってるな、これは」
「な、なんでそんな事分かるの、怒らしたの?」
「怒らしたと言うよりかは 今から怒らす」
「今から怒らす?」


何言ってんだこいつ。今から三輪を怒らして、その後始末を私にしろと言ってるの?は?まじで何言ってんのこいつ。ていうか怒らすって分かってんなら怒らすなよ


「あのさーー」
「因みに怒らさないのは無理」
「っ」


心を読まれたみたいに台詞を被されてしまった。え?心読んだ?もしかしてこいつ影浦先輩か?!影浦先輩が髪を染めたのか?!その青い瞳はカラコンなのか?!


「…………… か」
「影浦先輩じゃないです。迅悠一です」
「また被された!!!なんなのお前!まじで怖いんだけど?!!」


影浦先輩ですか?と聞こうとしたらまた被された。無理無理無理無理めっちゃ怖い。なんなのこの人本当に怖いんだけど?!!心読んでるの?!心が読めるサイドエフェクトの持ち主なの?!!は!サイドエフェクト!私のサイドエフェクト仕事しろ!!!
ジッ…と、迅悠一の顔と体を眺める。変な数値はなんにもない。ん、背が高いけど意外と筋肉が少ないな?でも強い人の数値だ。

…ん?


「さっきから、どこ見てんの?」
「おっバレたか、流石だなあ名字ちゃん」


迅悠一がヘラッと笑う。ご褒美にぼんち揚をあげよう。と差し出されたが受け取らなかった。どこを見ているのか分からない事に気付いてしまったのでサイドエフェクトを使う前よりも警戒心が上がる。


「未来を視てるよ」
「救急車呼びましょうか」
「イヤイヤ本当だって。信じられないわけじゃないだろ?」
「いや信じられない。胡散臭いもんお前」
「失礼なやつだな〜」


未来を視てる?なんだそれ。そんなサイドエフェクトがあるの?今まで聞いたサイドエフェクトの中でも異質すぎるじゃないか。そんなサイドエフェクトが存在してしまったら、壊れる、だろ、


「数字が見えるのと未来が視えるのはそんなに違う?」
「は、」
「同じだろ?見たくなくても視える。同じだ」
「、そうだけど」


迅悠一が近寄ってくる。私が逃げない未来が視えたのだろうか。数字が見えるのと未来が視えるのがそんなに違う?違うに、決まってんだろ。なんなの、それ。なんでお前、なんでもないみたいな顔してんの


「予測演算か。凄いなあ。おれは勉強がそんなに得意じゃないからなあ。おまえのサイドエフェクトじゃなくて良かったよ」
「私も、あんたのサイドエフェクトじゃなくて良かったと思ってる、心の底から」
「はは」


何考えてるのかわからなくて怖い。今まで感情を隠すのが上手な人を沢山見てきた。学校の先生、怒ってるのを隠して冷静に対処してくれてる凄い人。嵐山さん、疲れてるのを隠して画面の向こうで笑っている。いぬ、悲しいのを隠して笑ってる。冬島さんとか東さんとか、ボーダーの人は隠しごとが上手だ。
でも迅悠一は、上手とかそんなんじゃない。全く分からない。なんなんだ、この人。


「おれは未来に導く人」
「自分で言うの、それ」
「おまえは、未来を造る人」
「ん?」
「おれが視た最善の未来をおまえに教えるから、おまえのサイドエフェクトと予測演算で、その未来を造ってよ」
「、」


ヘラッと笑った顔。肩に置かれた手。この顔は、隠してる顔だ。この手は隠してる手だ。4年前、色んな所で見た。助けてって顔。助けてって縋る手。

もしかしたら、演技かもしれない。
この顔をすれば、この手を置けば、私が言う事を聞くと視えていたのかもしれない。
けど、演技だとしても、こんなん、こんなのさあ


「ほっとけるわけねえだろうがよぉぉぉ」
「ははは、そう言ってくれるって視えてたよ」


緊張で張り詰めていた体から力を抜く。ガクッと肩が下ちた。頭が重い。重力に逆らう事はせずガックリと頭を垂らしたら、肩に乗っていた手がするりと頭を撫でた。
優しい人の手だ。頑張っている人の手だ。冬島さんよりは薄っぺらいけど師匠より大きい。辻の指より太い。


「何したらいいの…」
「とりあえず秀次を慰めてやってよ」
「会えたらね」
「会うよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる」


お前のサイドエフェクト視えるだけじゃなくて喋るのかよ。そういえば言葉のあやだよ。と軽く帰ってきた。なんだよ喋んないのかよ、喋ればいいのに。喋ってくれたらどうやって三輪を慰めるのが最善か分かるのに。


「どうやって慰めたらいいの?視えてる?」
「視えてるけど言わない」
「なんでだよ、造ってやっから教えろよ」
「悪いお口は塞いでおこうね」
「んがっ」


ゴリッ。先程から断り続けていたぼんち揚が遂に我が口の中に入ってきた、硬い、痛い。おい迅悠一この野郎何個突っ込みやがった。噛めねえじゃねえかこの野郎。


「まだ入りそうだな」
「ーー〜〜〜ッ」


そう言って迅悠一が袋から取り出したのは、3枚のぼんち揚。3枚、3枚?!!無理無理無理口裂けちゃう無理だよ!なんでそんな意地悪すんの?!えっなんか怒らした?!謝る謝る、謝るって許して!今すぐソレを仕舞ってくれ!!

ジリジリと近づいてくるぼんち揚。至極楽しそうな迅悠一。わぁお前そんな顔もできるんだァ…名字安心しましたー言うてる場合か。やばい、逃げなきゃ、逃走経路、


パチン!!

「ぉわっ」


迅悠一の顔の目の前で思いっきり手を叩いて、編み出した逃走経路へ全力で駆け出す。苦しい、息できない苦しい!
振り返ると迅悠一は追いかけて来てなかった。だが凄く楽しそうな顔はしていた。まあ楽しそうなら何よりですけど、まじで、息、苦しい!!


必殺、猫騙し


マエ モドル ツギ

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