緊急時以外走ってはダメだと先程本部で怒られたので、学校の廊下はちゃんと歩いて教室まで向かう。
出水のために机の上にぶちまけていたルーズリーフは優しい誰かがファイルに挟んで机の上に置いていてくれていた。誰のファイルだろうか。持ち主が分かったらお菓子と一緒に渡さなければならない。そう思ってファイルを持ち上げると可愛い猫の形の付箋を見つけた。

『使わないファイルだからやる!ヒカリ』

ヒカリ?はて。誰だ?誰だかは知らないが優しくていい子だ。あげる。じゃなくて、やる!って言うのがまた可愛い。明日無駄に顔が広い米屋に聞いてみよう。
顔も知らぬヒカリとやらにありがとう。と告げて鞄とロッカーに入れていたコートを引っ張り出す。去年の誕生日に辻のママがくれたシンプルなコート。そういえばさっき辻が着てたコートとよく似ている気がするが同じブランドなのだろうか。


「あ、やべ。辻待たしてるんだった」


ヒカリの事ばかり考えていて辻の存在を忘れていた。村上先輩と影浦先輩は優しそうだったから辻と一緒に待ってくれているかもしれない。辻は待たせてもいいが先輩を待たせるのは良くない。ポカリ先輩はどうでもいい。あの人は1人でも強く生きていける人だから。

とたたたたっ。と歩いてるとも走っているとも取れない変な速度で出口まで急ぐ。廊下は緊急時以外走ってはダメなのだ。大人に怒られてしまう。
途中すれ違った隣のクラスの子達にばいばいをしながら下駄箱で靴を履いて、辻が待つ校門まで走る。学校内とはいえ外に出たら走っていいはずだ。


「辻、おまた、せ?」


校門を抜けて先程辻と別れた場所へ向かう。辻はきちんと待ってくれていた。ただ、影浦先輩と村上先輩がいるかと思ったのにいなかった。その代わりに、女子がいたけれど。


「荒船くんが犬飼くん殴るって言ってた」
「うっえ、あっ、の.......」
「倫、近いわよ、辻くんが困ってるわ」
「あはは」
「ごめんね辻くん。倫ってお調子者なのよ」
「だ、大丈夫、で、す」


........なにこれすっげぇ面白い。

状況を説明しよう。私が消えた後、影浦先輩と村上先輩とポカリ先輩はさっさと帰ったのだろう。そして辻は1人で私を待っていた。そんな辻の前に現れたのが、師匠の所のオペレーターの加賀美先輩だ。
加賀美先輩は優しくて責任感が強い人だけれど、あのキャラの濃い師匠とポカリ先輩と一緒におふざけが出来るくらいにはノリが良い人なのだ。そして感性が独特だ。恐らくひとりぼっちの辻を見つけた瞬間に、
『なんで辻くんが?(優しさ)女の子に話しかけられちゃうかもしれない!(責任感)よし私が話しかけよう!(ノリ)』
そう思ったに違いない。だって辻に話しかけている顔が、ポカリ先輩と一緒に師匠を揶揄っている時と全く同じだからだ。


「辻くん、汗かいてるよ、熱?」
「ふ、倫、やめてあげて」
「ね、つじゃ、な、い、」


それと、もう一人。この人は知らない。小さくておかっぱで真面目そうな人だ。パッチリ二重だけど切れ長の目が辻みたいに涼やかで綺麗だ。大和撫子ってこういう人に使う言葉なのだと思う、誰だろう、ボーダーの人かな?


「、なまえちゃん!」
「うぐっ」


むむむ、知っている人だったら忘れていたら良くないぞ。数学の事以外は全然覚えられない脳みそをぐるぐる回して記憶の中に大和撫子がいないか探していた時だった。
どっ!と体に衝撃が走る。辻の野郎が体当たりしてきやがったのだ。
いそいそと私の後ろに隠れる。お前私よりデカいんだから隠れれるわけないだろ。どんだけ馬鹿なんだよ。


「あ!なまえちゃん」
「加賀美先輩、お疲れ様です、えっと、」
「初めまして、今結花です。3年生よ」
「あ、名字なまえです。2年生です!」


ああ、良かった。初めましてだった。こん ゆか 先輩。シャキッと見た目の割にふんわり笑う人だ。凄い綺麗、顔も綺麗だけど、仕草や筋肉の使い方がとても綺麗な人だ。無駄な数値がひとつも無い。


「今ちゃんは鈴鳴支部のオペレーターなの。鋼くん知ってる?攻撃手の村上鋼」
「村上先輩!知ってる、今さっき初めましてしました!」
「太一は知ってるかしら。別役太一」
「太一も知ってる!訓練場で死ぬ程問題起こしてます!」
「ったくあの子は色んな所に迷惑かけて…!」
「今ちゃん落ち着いて。仕方ないよ太一くんは。あれも愛嬌だよ」


別役太一。狙撃手としては先輩だけど学校では一つ下の後輩だ。あまりにも問題を起こすので師匠に「あの子いつか本部壊しませんかね?」と聞いたら「もうすぐ鈴鳴支部が壊れる」と、遠い目をして言っていたのを覚えている。成程、村上先輩と今先輩は太一の先輩なのか。
太一の、太一の先輩.......


「……毎日、お疲れ様です」
「ありがとう、因みに今朝はふりかけをばらまいていたわ」
「「うわぁ」」
「しかも小分けされたふりかけではなくて袋に入った大きな方」
「「うわああ」」


拳を握ったまま遠い目をする今先輩。器用だな...、なんて思いながら、太一に朝から振り回されている今先輩と村上先輩に加賀美先輩と同情した。遠慮せず情けをかけてちょうだい。そう言われたので遠慮せず情けをかける。因みにふりかけはばらまくものではなくご飯にかけるものだぞ、太一よ。


「こっちが申し訳なくなるくらい反省はしてくれるのに、何度注意してもドジが治らないのよ。あれは本物の悪だわ」
「本物の、悪…」
「来馬隊長は仏のような方だし、鋼君は太一に甘いから。きっと私が叱った後にこっそりお菓子でもあげて慰めているのよ」
「こっそりお菓子…」
「この前太一を叱った後、鋼君が戸棚を漁っているところを見てしまったのよ」
「お菓子与えてるね」
「かんっぺきにお菓子与えてますね」


村上先輩、太一の事を何歳だと思っているのだろうか。お菓子を与えてるのは慰めなのか、可愛がっているのか、甘やかしているのか…。なんとも言えない。ほわほわしている人だとは思ったけど、もしかしたら思った以上にほわほわしている人なのかもしれない。


「あれ?辻くんどこいった?」
「ん?あれぇ?」
「あら?いつの間にいなくなったのかしら。気が付かなかったわね」


加賀美先輩の言葉を聞いて、後ろに隠れているはずの辻がいないことに気づいた。あいつ、逃げやがった!先輩相手に失礼な男だ!どんっだけ女の子苦手なんだよ!!


「そういえばさっき辻くん、名字さんの事なまえちゃん!って呼んでいなかった?」
「あ、確かに。しかもその後辻くんなまえちゃんの後ろに隠れたし。仲良しなの?友達?」


ずいずいっ、と加賀美先輩と今先輩が寄ってくる。女の子は好きだよね、こういう話。見るからにワクワクが伝わってきて普段なら面倒くさ、と思うけどなんか可愛いから素直に話す事にする。
オペレーターさんて、いつも隊の男の人に合わせてるけどやっぱり女の子だもんね。こういう話もしたいよね


「幼なじみなんです」


私の兄と辻の兄が同い年で。
私と辻はお母さんのお腹の中にいる時から友達で。
低学年の時はおてて繋いで走り回ったり虫捕まえたりしてたけど、高学年になったらカップルって揶揄われるようになって距離ができて〜〜

辻との思い出をペラペラ喋る。加賀美先輩と今先輩がめちゃくちゃ楽しそうにしていたから、辻の恥ずかしい過去も暴露した。かくれんぼの時 溝にハマって抜けなくなった話とか、化石だ!と言ってただの石を集めていたのとか。未だに恐竜のマグカップ使ってるのとか。
辻くん意外と可愛いのね。今先輩がくすくす笑う。やっぱり綺麗な人だ。加賀美先輩はその時の辻くんを想像して絵を描くわ。なんて言っていてやっぱりよく分からん。と思った。


「ねえねえ、恋愛感情とかはないの?」
「ちょっと倫、それは聞かない方がいいわよ」
「なんで?恋バナしたい」
「もう…、」


やっぱり聞かれてしまった。加賀美先輩はわくわく、今先輩は困った顔をしているけど興味津々なの、私のサイドエフェクトは分かっちゃうんですよね。

いつも私達戦闘員を支えてくれるしっかり者の命綱が、こんなに女の子の顔をしているんだ。これは貴重だ。そして可愛い。
私はとっておきの内緒話をするように口元に手をあてて、女の子の彼女達に一歩近ずいた。


あのね、


マエ モドル ツギ

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