「初めまして名字なまえです。17歳です」
「村上鋼。18歳です」
「影浦雅人」
「あっちゃん。18歳だ」
「……辻です」


ぺこり、村上先輩と影浦先輩に頭を下げる。何故か自己紹介してきたあっちゃんと、なんとなく流れで自己紹介してきた辻にも頭を下げておいた。あっちゃんは流すと面倒臭いし辻はなんとなく流れで、だ。


「荒船から名前だけは聞いてたよ。弟子なんだよな」
「はい!荒船さんは私の師匠です!村上先輩も弟子だったんですよね?聞いたことあります!」
「うん。カゲは荒船の友達」
「お好み焼き屋の次男坊だ、荒船がよく行く」
「へえええ」


眠たげな目の先輩が 村上先輩。師匠が攻撃手だった時の弟子だ。鋼をどう騙して狙撃手に転向させるか1番効率のいい方程式を編み出してくれ。と言われたことがある。その時は疲れているのだと思って仮眠室へ連れていった。変な思い出すぎて忘れてたけど。

ウニみたいな頭をした先輩が 影浦先輩。影浦、は聞いたこと無かったけど、カゲ なら聞いた事ある。カゲの成績が悪過ぎるから説教しに行く。とか、カゲの素行が悪過ぎるから説教しに行く。とか、そんな理由で何回か指導をして貰えなかったことがあるからだ。テメェのせいだったのかよウニ頭。

ついでにあっちゃんはあっちゃんだ。ポカリ先輩。師匠の隊のNo.2で、狙撃手の先輩。師匠は理論派の癖に元攻撃手だったせいか手が早い。狙撃手の待ては出来るが、近くに寄られてしまうと攻撃手として我慢は出来ない人なのである。だからそれはポカリ先輩が教えてくれた。狙撃手は近くに寄られたら相打ち覚悟で諦めろ。と。ポカリ先輩は筋肉とトサカと倒置法な人だけど、実は冷静で頭脳派の人なのだ。

辻は辻だ。隣の家に住んでる他人だ。


「聞いてもいいか。こんなところで世間話もなんだし」
「なんすか?」
「聞くなポカリ」
「やめてやってくれ穂刈」
「やめてください穂刈先輩」
「なんで収納されていたんだ。辻のコートの中に」


周りの声をフル無視してポカリ先輩が聞いてくる。何故コートの中に収納されていたんだ?私が知るわけないだろう、突然頭掴まれて収納されたんだよ。それを伝えると村上先輩と影浦先輩はなんとも言えない顔をしたし、聞いてきた張本人のポカリ先輩は、ほう。と言って黙るだけだった。


「つ、辻も仲良く出来る女子がいたんだな?」
「 、」
「やめてやれよ鋼。助けようとして突き落としてんだよ」
「す、すまない…」


ポカリ先輩以外の男共がなんとも言えん顔をしている。私は賢い女だ。なんでこんな顔しているのか分かるぞ。私が辻のコートに収納されていたからであろう。だが収納されていたのは私のせいではない。辻が収納したから収納されただけであってこのなんとも言えない空気は全て収納した辻が収納するべきだ。収納収納言いすぎて収納がゲシュタルト崩壊してきたぞ。


「幼なじみで、隣の家に住んでて。それで、学校に鞄とコートを忘れたらしいので回収しに来たんです」
「今日は寒いもんな!コートの中に入れてあげてたんだろ?辻は優しいな」


チラチラと影浦先輩を見ながら村上先輩が話す。影浦先輩が何も言わなかったのでどうやら間違ってはいなかったらしい。村上先輩はほっ、としていた。表情筋は豊かじゃないけど感情がよくわかる人だ。雰囲気がぽわぽわしていて可愛い。


「別になんとも思っちゃいねぇし誰にも言わねぇよ。辻が女といるから驚いただけだ。紳士じゃねーか」
「…、ありがとうございます」
「おぅ。だからやめろ。刺してくんな」
「落ち着けるように頑張ります」


影浦先輩は見た目に反して良い人っぽい。さっきからずっと辻を気にしてあげている。面倒見がいい人なのかもしれない。
そんな事を思っているとウニに隠れていた目がギョロッとこっちを向いて思わずピャッと体が跳ねてしまった。目付きわっっるぅぅぅ!!師匠より目つき悪いよ影浦先輩!!あっでもめっちゃ綺麗、金色の瞳だ、キラキラ〜


「……お前はさっきからなんなんだよ!」
「ひゃい?!」
「ビシビシ刺してきやがって!擽ってぇんだよ!!!」
「なにも刺してないですけど?!なにこいつ怖い!」


がるるるる。と威嚇されて思わず辻の後ろに隠れる。さっきから辻に刺してくんなとか言ってたけど私もなんか刺してた?何を?視線?言い回し独特過ぎない?ポカリ先輩かよ!


「カゲはサイドエフェクト所持者なんだ」
「え?」
「感情受信体質って言って、自分に向けられた感情が肌にチクチク刺さるんだ」
「チッ」


感情受信体質、チクチク、そりゃまた、難儀なサイドエフェクトをお持ちのようで…。ならあれか。私が優しそうとか綺麗とか思ったのがチクチク刺さっちまったのか。まあ刺さるだけなら私関係ないし。舌打ちされたの腹立つからもっと刺してやろう


「しょーもねえこと考えてんじゃねぇぞ」
「ぅえ?」
「感情によって刺さり方が違ぇんだよ。お前の今の感情はしょーもねえ悪戯しようとするクソ餓鬼と全くおんなじだったぜ?」
「が、餓鬼だと」


マスクに隠された唇がニヤリと上がったのが頬の数値を見てわかる。この野郎それを先に言いやがれ。もっとチクチクしてやろう。


「ちなみに」
「ん?」
「鋼も所持者だ。サイドエフェクトの」
「村上先輩も?」


優しそうな村上先輩の話題になったので辻の後ろから飛び出て村上先輩に近寄る。一体どんなサイドエフェクトだろう。荒船先輩が鋼は凄いやつだって言ってたから、超すごいサイドエフェクトなのかもしれない。


「強化睡眠記憶」
「きょーかすいみんきおく?」
「うん。人は寝てる間にその日の出来事を記憶するのは知ってるでしょ」
「うん、赤ちゃんオムツのCMで言ってた。赤ちゃんは寝ている間に記憶するから睡眠を邪魔しないようにオムツは快適であれって」
「村上先輩は一回眠るとその日あった全ての出来事を完璧に記憶出来るんだよ」
「すげえ!!!!」


まじで?!そんな凄い事がこの世に存在するの?!それなら公式だって一日で覚えたい放題だし、これまで捨ててきた全ての教科も今から覚えられるじゃん!お前はもう手遅れだ。って言ってきた社会歴史の先生をギャフンと言わせられるじゃないか!!!
あまりにも凄すぎて辻のコートを掴んでぶんぶん振ってしまった。へー凄い、本当に凄いなあ、サイドエフェクトって本当に凄い!


「影浦先輩も村上先輩も凄いですね!」
「お前もあるだろ、サイドエフェクト」
「あっポカリ先輩知ってたんですか!いやでもお2人に比べたらまじゴミみたいなサイドエフェクトなんで!意味ないんで!」
「オレは撃たれたがな。そのゴミみたいなサイドエフェクトのおかげで」
「でもポカリ先輩撃ち返してきたし。しかもお尻に」
「向けてるのが悪い。ケツを」


攻撃手3名を放って きゃいきゃいとポカリ先輩と狙撃手トークをする。ポカリ先輩は重そうな見た目の割にノリが死ぬ程軽いから好きだ。先輩狙撃手は割とノリが軽い人が多いから気を使わなくていい。楽しい。
手を合わせてきゃいきゃい盛り上がっている私達の後ろで辻と村上先輩と影浦先輩が何やら私のサイドエフェクトについてお話していたけれど別にいい。あんまり言うなって辻が言ってきたけどその辻が話してるんだから良いのだろう。そう思って私はポカリ先輩と自撮りしたりギャルの真似をして遊んだ。
辻がこちらを物凄い睨んでいたのには気付かなかった。


「そういえばいいのか。鞄とコートは」
「あ、そうだった!辻!鞄とコートとってくるね!すぐ戻ってくるから待っててよ!」
「早くして」
「行ってらっしゃい」
「村上先輩行ってきます!影浦先輩ポカリ先輩、っした!」
「おーじゃーな糞ガキ」
「おつかれ」
「お疲れ様でしたくらいちゃんと言えよ」


辻の小言は無視だ。した!で通じるのならそれでいいでは無いか。影浦先輩もポカリ先輩もそういうの気にするタイプでは無さそうだし。
とりあえず早くコートと鞄を取りに行かねばならない。けれどそれより先にすること。

私は校舎へ向かいながら、糞ガキと言ってきた影浦先輩にありったけの腹立つの感情をぶっ刺した。


やめろやめろ=やれ


マエ モドル ツギ

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