主役が仕切れない誕生会―part2side―


これは、とある青年と少女の物語が始まる数ヵ月前の出来事。
言うなれば序章、プロローグの一つである。


「で、どうなんだ、先生」
「‥‥」

先生と呼ばれた深い緑色した髪の女性は、赤いジャケットを羽織った青年ーー囚人の問い掛けに一瞬だけ口ごもる。

「やはり、日に日に悪くなる一方だわ。でも、絶対になんとかしてみせる‥‥」

そう、瞳に強い意思を宿して言った。

「ありがとう。でもよ、こればっかは‥‥仕方ねえんだ。事情はよ、あんまうまく話せねーけど‥‥普通の、病気だ怪我だじゃないからな。だから、それでもここまでしてもらって、今も生きれてて、あんたには本当に感謝してるよ、あいつの代わりに礼を言わせてくれ、ありがとな」

そう、囚人に言われて、

「‥‥でも、助けれなければ意味がないわ。でないと、私は‥‥」

先生ーーリフェは俯き、囚人に出会った日を思い出す。

今とは違い、囚人が女物の衣装を着て、血を流し今にも絶命しそうな赤髪の青年を背負いながら、この雪降る街に辿り着いた数ヵ月前。

どこの村や街の病院も廃れ、医師達は命を救うどころか弄ぶことに快楽を見出だし、やっとのことで囚人はリフェという医師を見つけた。
リフェは持てる知識全てを駆使し、赤髪の青年に救命処置を施し、なんとかその場限りの命を繋ぐことに成功した。
けれど、まだ足りない。
このままでは赤髪の青年は近い内に死ぬだろう。

けれど、リフェは知っている。
人の命は限りあるものだと。

まるで、ゆりかごのような、機械のような、永遠の命なんてものは‥‥そんなのは、生きている内には入らないことを、リフェは知っている。
否ーー経験し、それは間違いだと打ちのめされたあの日。

だから、限りある命を、全うに救いたい。
ゆりかごから抜け出した世界で、異常しかなかった世界で、囚人は何かが違ったから。

必死に、家族ではないのに赤髪の青年を家族と言い張り、

(私なんかに頭を下げ、どうか助けてやってくれと頼んだこの人は、命の重みをちゃんと考えている。囚人さんと私の意志は、目指すものは同じだと思う。だから)

だから、リフェは思った。
赤髪の青年を、定められた命の限り救うことが出来たならば‥‥
きっと自分自身も満たされると。

「おーい、診察はまだなのかよー」

すると、一室から怠そうな男の声が聞こえてきて、囚人はドアを開けた。
ベッドに横になりながら面倒くさそうな顔をしているのは、赤髪の魔王。

「ほら、先生。今日も診てやってくれ」

と、囚人はリフェの背中を押し、リフェは頷いた。

「はぁー。なーにが嫌で二人のイチャイチャ見せられなきゃなんないわけ」

赤髪の魔王は言うが、

「お前はまたそんなことを。すまねえな、先生」
「え、ええ‥‥」
「はぁー。囚人って、ほんっと鈍感ー」
「はあ?」

囚人は怪訝そうな顔をしつつ、

「あ、先生。俺は茶の準備してくっから、後はよろしくな」

と、部屋を出る。

「な?あいつ、鈍感だろ?でも、すげーモテてたんだぜ、色んな年代から異性から」
「だ、だから、私は別にそんな。さあ、赤髪さん。診察をするから、黙って」
「やれやれ」


◆◆◆◆


「なあ、囚人」
「なんだよ」
「あいつ、まだ見つからないんだろ」
「ああ」
「そりゃ、そうだよな。生きてるか不明だし、ましてやお前、俺が居るからこの街から遠くに行ってないんだ。たまには遠くまで行ってこいよ」
「その間に、お前くたばってるかもしれないだろ?」
「別に、看取られようなんて思ってないからな」

赤髪の魔王は微笑する。

「それによ、俺が死んだら、あいつにかけた名を支配する魔法を解けないんだぜ。あの島から離れたとはいえ、それでも名前の支配は微弱に続いてるはずだ。俺が死ぬ前に、見つけたいんなら見つけないと‥‥」

しかし、囚人は首を横に振り、

「あいつなら‥‥クルなら、大丈夫だ。もしこの世界に染まって異常になっちまってても、俺が引きずり出してやる。ジジイ、お前は自分の心配だけしてろって」
「‥‥本当に、気持ち悪いな、お前は。だが‥‥ありがとう、囚人」
「‥‥」

赤髪の魔王からの礼の言葉に囚人は苦笑した。
最近の彼は、素直にそんな言葉を述べる。
少しは、変われたのだろうか、変えてやることができたのだろうか。


ーーリフェの伝で、あの島まで船を出してもらえることとなった。
数ヵ月振りに訪れる、皆で過ごした集落。
もう、なんの跡形もなく荒廃した大地だが、囚人は何もかもを鮮明に覚えている。

「ただいま」を呟き、「すまない」を吐き、風が吹いた瞬間、その手から灰を流した。

それはフェイスにデシレ、フォシヴィー、ユーズ、クルエリティが歩んだ大地に、ナツレが居た海に溶けて行く。

まるで、再会のように、赦しのように。


・To Be Continued・

毒菓子



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