主役が仕切れない誕生会―allside―


「だぁぁぁぁぁぁもー!!!帰りやがれ!」

バンッ――!!!!

ロスはそう叫びながら家のドアを閉めた。
家の外には若い男から少々年配の男達が集っていて。

『お義父さん!どうか娘さんを私に!俺に!僕に!』

なんて声が響き渡っている。
先日、システルを連れて少し遠出の買い物に行った。
そこで、街の男達はシステルの美しさに目を奪われ‥‥
なんと家にまで押し掛け、毎日毎日、求婚に来るのだ。

「あああああなんでこうなった!!!」

ロスは頭を抱える。

「パパ、大丈夫?私が行って帰ってもらうように言うわ!」

システルが言えば、

「いやいやいやそれはマズイって!まあ、今日もそのうち帰るだろうよ。ただ、明日も来るんだろーけど‥‥はぁ」
「パパ、ごめんなさい。なんだかよくわからないけど、私のせいで‥‥」
「お前は悪くないって。ただ、お前にはちゃんとした男と幸せになってほしいからさ、あんな奴ら、絶対駄目だ」
「‥‥」

システルは胸に手を当て、ぼんやりと誰かの姿を思い浮かべるが、それが誰かはわからない。

「ねえ、パパ」
「ん?」
「パパは、ママのこと、ちゃんと好き?」
「ヴァニシュちゃん?」
「うん。ママは、パパのこと、好きよ。パパは?」
「‥‥」

システルがいつになく真剣な目でこちらを見て来て、

「‥‥そうだな。俺は、あの子が好きなんだと思う。でもな、俺達は、難しいんだ。あの子にしか救えない奴がいる、俺にしか救えない奴がいる、だから、俺達は俺達の役割を果たすんだ。あの子の気持ちを知ってて、俺は気付かない振りしてさ、最低だよな」
「‥‥よく、わからないけど、難しいのね。でも、二人は私のパパとママ、でしょ?」
「‥‥ああ」

ロスは苦笑いして、システルの髪を撫でた。

「じゃあ、もしママがパパに告白したらパパはなんて返事をするの?」
「‥‥ごめんって、謝るよ」

躊躇うことなく言われた言葉にシステルは少しだけ悲しそうな表情をする。

愛しい者、好きな子。
たぶん、どちらにも想いを伝えることは出来ないけれど、それで構わない。
ロスはあの日から、見守る道を選んだのだから。


◆◆◆◆


ヴァニシュは深いため息を吐き、夜空を見上げた。
かつて、魔女の老婆に渡された姿を見せることが出来るペンダント。
未だ、ヴァニシュは異常すぎる人間には姿が見えないようで、ペンダントを駆使しながらディエの足取りを追っていた。
追い始めて、数ヵ月。
彼の足取りには異常者の死体、死体、死体ーー。
一体、何十人殺しているのか、もしくはそれ以上?

放置された死体達を、背中に背負ったシャベルで埋めていきながら、とうとう彼の行方を掴んだ。

『殺人鬼様なら雪国の方面に向かって行かれたわ!』

‥‥と。
まるで、人々は彼を崇拝するみたいに嬉しそうに言っていた。

(雪国、か。行ったことないな)

ヴァニシュはぼんやり思い、ロスとシステルとディエーーそれからもう一人。
誰か‥‥システルと同じようにディエを愛していた誰かがいたんだと、それを思い出そうとする。

なぜか、ディエの足取りを追えば追うほど、記憶が甦りつつあった。


◆◆◆◆


「先生、どうなんだ?」
「‥‥」

リフェは苦汁に満ちた顔をして、首を横に振る。

「最善は、尽くしたわ。でも、もう‥‥囚人さん、きっとこれで最後になるから、行ってあげて」

命を救うことが出来ず、涙を浮かべる彼女の肩に手を置いて、囚人は一室に入った。
ベッドには、青白い顔をして、ぼんやりと天井を見つめ、かろうじで息をしている赤髪の魔王の姿があった。
囚人は何も言わず、ただ静かにベッドの横にある椅子に腰掛け、彼の手を握る。
目だけを動かし、彼は囚人を見て、小さく笑った。

「‥‥俺は、こうして、生を全うして、死ねるのに、俺は、あいつらを、殺しちゃったんだな」
「‥‥」
「本当に、間違ってないって、思ってた。でも、俺は、異常、だったんだな」
「……」
「囚人。たぶん、姉さんは、いつかお前を殺しに、来る。あいつは、しつこいから。でも、お前なら、あいつなんかに、負けねー、な」
「‥‥」

囚人は、何も言わなかった。聞き返さなかった。ただ、彼の言葉を聞き、頷いてみせるだけだった。

「クルエリティ、見つかんなくて、呪い、解けなくて、悪かった‥‥なぁ」
「‥‥」
「それに、お前を、巻き込んじまったのは、俺だ。お前を置いて、後は任せちまって‥‥本当に、悪い」

囚人は首を横に振り、

「俺は楽しかったぜ。色々あったけど、俺はあいつらにも、お前にも出会えて本当に良かった。お前の姉さんのことも、クルのことも任せな。俺が全部ケリつけるからよ」

それを聞いた赤髪の魔王は薄く笑い、

「そう、だな。俺は見届けられなかったけれど‥‥でも、お前が見届けてくれるもんな。全部。だから、俺は先に‥‥家族のとこに逝くけど‥‥お前はまだ、死ぬ、なよ‥‥なんつーかさ‥‥本当に、ありがとう、囚人‥‥俺は、お前のこと‥‥」


◆◆◆◆


「先生、本当にありがとな。あんたのお陰で、あいつはここまで生きれたんだ」
「囚人さん、行くのね」
「ああ。船の手配、ありがとな」
「‥‥」

リフェは俯き、

「囚人さん‥‥ここに、また、帰って来るの?」
「んー、どうだろうなぁ‥‥」
「‥‥もし、囚人さんが帰って来たら、話したいことがたくさんあるわ。赤髪さんも居なくなってしまって、囚人さんまで居なくなったら、私は‥‥一人だわ」
「‥‥わかった。こいつを家族の元に送って、クルを捜して、一段落したらまた、帰って来るよ」

瓶に詰めた灰を見せ、囚人は微笑んだ。
そうして彼は今、あの島に滞在している。

運命、だとか、すれ違い、だとか、本当に、悪戯みたいなことが起こり得るように‥‥

「寒いね、クッティ。あたし、前のあったかい町にいたかったなぁ」
「いいじゃないか。この街は静かそうだし、きっと君の身体も良くなるよ、マーシー」

その日、一人の青年と、一人の少女が雪降る街に足を踏み入れた。


・To Be Continued・

毒菓子



*prev戻るnext#

しおり



4/72


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -