えふえふ | ナノ



孤高な王の愛情表現U

※妊娠ネタ
※両性表現あり(not女体化)
※ジタクジャあり
「孤高な王の愛情表現」の続き



最近、怒りやすくなったと思う。
皇帝は前々から怒りっぽい性格ではあった。だが妊娠してから悪化したのが見てわかる。常に足を小刻みに揺らしているし、眉間の皺も深くなった。小さな失敗でも殴られるし、常に声も低い。「気に入らない事をしたか」と問えば「自分で考えろ!」とかまいたちが飛んできた。
一体何がいけないのだろう。腹が重いのはわかるが、言われないとわからない。しかし聞いた所でちゃんとした返事はないのだからもう諦めてしまった。
子供を待ちわびて大きくなった腹と、膨らんできた胸には興奮してしまうが、あれからスキンシップがとれなくなってきた。
このまま子供を産むのが嫌になって殺されてしまったらどうしよう。そんなことばかり考えてしまう。

「それで、俺のところにきたのか」

苦笑いを浮かべながらジタンは頭をかいた。傍らには天気とは裏腹に暗く沈んだフリオニール。声をかければ情けないため息ばかりがもれ、周囲すら暗く飲み込んでしまう。

「とりあえず元気出せ、な? 妊娠するとそんなもんだって」
「そうなのか」
「な。クジャ」
「うるさいよ」

頭を撫でようと手を伸ばせば、簡単に払いのけられた。ジタンの宿敵であり兄弟であるクジャの腹も、大きく膨らんでいた。普段は薄着だが、腹の子供を案じて最近はローブを身につけている。露出は減ったが、時折見えるようになった太ももがエロティックなのは秘密だ。

「ホラ。機嫌が悪い」
「誰のせいだと思っているんだい」
「少なくとも俺たちは悪くねえよ」
「その考えがおかしいんだ」
「どこが」
「煩いのは嫌いだって知ってるだろう!」

ヒステリックに喚くのはいつも通りにも思うが、確かに気が短くなっている。魔法は使わないが周囲に対してツンケンしている姿はいつ攻撃してきてもおかしくはない。
触らぬ神に祟りなしだ。思わず後ずされば鋭い眼光に射抜かれた。何をしても許されないらしい。
「じゃあ向こうで話してくるから」と断ってもジタンの腕を掴んで離さない。煩いのは嫌いだが、離れたくはないらしい。我がままな女王様に幸せそうに笑う彼。
惚気は結構だが、恋人と一緒にいられない今は寂しさしかわき上がらない。ため息を着けば、やっと2人の視線が集まった。どうやら忘れ去られていたようだ。

「妊娠中って、やっぱり疲れるしイライラするんだってさ」
「当たり前さ。たまに痛むし重いし思ったように動けない。なんでボクだけこんな目に……」
「でも、子供が出来るって教えてくれたのはお前だろ」
「欲しいなんて言ってないだろう! 君が勝手に欲情してこんなことに……」
「話してるときのお前、すごく嬉しそうだったぜ」

そう言われると押し黙るのが可愛らしい。子供が欲しかったのはクジャの方らしい。ならば告白も彼だろう。相思相愛の兄弟愛を微笑ましく思っていたら急に呻き声が聞こえて踞るのが見えた。

「どうした!」
「お腹、痛い……あと、苦しい……」
「待ってろ」

一体何があったのかわからないが、青ざめて慌てふためくしかない。何をしていいかわからず立ちすくんでいると、クジャを近くの木に座らせて正面にしゃがみこむ彼が見える。
これからどうするのだろうか。固唾を飲んで見守っていると、ゆっくりと膨れたお腹を撫でる手がある。初めは険しい顔をしていたが、徐々に和らぎ長い息を吐き出す。波は過ぎたのか、と安堵すれば急にローブに手をかけ、いつもの上着共々前を開いた。
そこには膨らんで少し垂れ下がった胸がある。乳首が立上がっているような気がするのは気のせいではないだろう。目をそらせば、甘い吐息が聞こえた。

「あん……」

見てはいけないと思いながらも興味は尽きない。手で顔を隠しながら、指の間から覗けば、女性と見紛う胸に顔を埋めるジタンが見える。
どうやら胸を吸っているらしい。何故そんなことをしているのかはわからないが、気持ちはいいようだ。赤い顔が悩ましく歪み、断続的に興奮した息が吐き出される。

「どんどん大きくなってきたよな……」
「君の、ためじゃ……んっ」
「子供が出来るまでは俺のミルクだからな」
「やだ、強く吸ったらでちゃう……っ」

やはりというか、胸を吸いだしているようだ。
苦しいのは子供のために貯めたミルクが張って痛いためだろう。口を少し離す度に白い液体が糸を張っているのが見え、勃起してしまった。
まるで情事の絶頂のように仰け反り高い声を張り上げると、クジャはそのまま体の力を抜いて木に凭れ掛かった。顔は赤く、息は荒くその表情は女のものだった。

「もう出た、出たからぁっ」
「もういいのか?」
「変態……」
「お前が色っぽいのが悪いんだって」

何度も口づけを交わす恋人たちの姿に羨望の眼差しを向ける。吸われていた胸は赤く、片方からは白い液体が流れている。思わず前屈みになるとジタンに笑われクジャに睨まれてしまった。バレバレなようである。

「その胸……、ええっと、ミルク、も出るのか」
「子供のご飯だぜ」
「当たり前じゃないか。こっちを見ないでくれないかな」

イライラはまだ続いているらしい。恥じらい胸を隠す姿から思わず背を向けると、後ろから笑い声が2人分聞こえてくる。からかわれている、というよりも幸せそうな声だ。寄り添い合う恋人の姿が容易に想像でき、思わず微笑み目を伏せた。

「もしかして、皇帝もたまに痛いって言ってたのは……」
「胸が張ってたのかもな。体がレディに変化していく過程で、まだホルモンが安定してないとかなんとか」
「子供が出来るとなると準備が必要なのさ」

慈愛に満ちた表情で腹を撫でる2人に、居心地の悪さを感じた。
これ以上は邪魔をしていてはいけない。もう自分の中で答えは出たのだから、あとは実行に移すだけだ。礼だけ短く述べると、マントを締めて慌てて走り出した。
こうしている間にも、もしかしたら1人で苦しんでいるかもしれない。痛い思いをするのは誰でも嫌だ。支えると決めたからにはもう逃げたくない。巨大な城の長い廊下が何倍も広く感じられ、気が急いてきた。
彼と自分の心の距離な気がして、焦燥感がわき上がる。急いで玉座まで辿り着けば、深く座り込む皇帝の姿があった。

「マティウス!」

名前を呼べば、帰ってきたのは近く似合った壁の破片だった。怒りに任せて魔力の渦をわき上がらせる姿に尻込みをしてしまうが、放っておいた自分が悪いのはわかっている。謝っても謝り足りないだろう。
一歩も引かずに顔を守りながら近づけば、一瞬躊躇い風が緩んだ。そのすきに一気に距離を詰めると、傍に寄り丸くなった方を掴んだ。

「どこをほつき歩いていた! 触れるな!」
「ごめん、放っておいてごめん」
「触れるなと言っている!!」

聞く耳を持たないとはこの事だ。再び怒りに呼応するように浮かび上がる破片たちに冷や汗を流しながら、勢いよくマントを掴んだ。そのままいっきに脱がしにかかるとプロテクターを外して服を破くように開いた。
驚くのも無理はない。いきなり暴漢のように襲いかかってきたのだ。でも無理はさせる気はなし、替えの服も喜んで準備する。
今は彼の体を案じる、それだけだった。
久しぶりに見た裸体は、白くて胸が大きく膨らんでいた。手に余るくらいの大きさになっているなんて知らなかった。見せてもらえなかったし、触れる事も出来なかったのだから無理もない。
悲鳴に似た癇癪を聞き流しながら、立ち上がった乳首を見る。この状況はさっき見たものと似ている。大きくなりピンクに色づいた乳輪に見惚れる前に胸にしゃぶりつくと、勢いよく吸い始めた。

「あ、う、貴様、ぁっ」

甘い声が頭を叩く。時間が惜しいと片手で余った乳房を掴むと、緩急を入れながら揉み始める。しこりを握り潰さないよう、手を這わせると適切な力を入れて搾乳を促す。
くわえた方は適度に歯を立て、舌で先端をなぶりながら溢れ出たミルクを味わう。母乳は美味しくはないと聞いてはいたが、逆だ。甘くて濃厚で、練乳のようでいくらでも飲んでいられる。
一滴残さずの勢いで吸うと、塞き止められた水が溢れるようにどんどん出てくる。思った通り溜まっていたらしい。
長い射精に似た甘い蜜と荒い息。力が抜けてくったりと玉座に沈む体。化粧が禿げてしまった顔も綺麗で、悩ましい表情で空を仰ぐ耽美な光景に思わず息をのんだ。
何も言わずに息をつく彼に、怒っているのではないかと慌ててしまう。恐る恐る近づくと声をかけるが、睨みつけられるだけで返事はこない。

「だ、大丈夫か……? 楽に、なったか?」

やっと絞り出せた声量は小さいし、腰は完全に引けている。だが心配してやったことであるし、後悔もしていいない。ゆっくりと傍らに近づくと、はだけた服にマントを被せてやる。

「誰の入り知恵だ……」

やっと聞こえた声は、剣の抜けた弱々しい声をしていた。

「ジタ、ええっと、匿名じゃダメか」
「……あの猿らか」
「なんでわかった!」
「腹の膨れた奴など他にいまい」

ゆっくりと体を起こそうとはするが力は入らない。腰が抜けて尻だけはしっかりと地についてしまい、うまく立上がることができないので手を出してみる。振り払われるのは予想内だが、痛みを感じない程度だったのは、怒っていないのか元気が出ないのかはわからない。
また不安になって顔を包み込んで額で熱を測ると、赤い顔の皇帝に睨み上げられた。

「発情するのは勝手だが、私に無理を強いるのは許さん」
「悪かったよ」
「しかし楽になったのは事実だ」
「本当か!」

そこまでいつもの調子で告げると、バツが悪そうに目を逸らす。膝をついて傾げて言葉を待っていると、頬に負けない赤い唇が小刻みに震えた。

「定期的に、この行為を許可する」
「わかった。いつでも言ってくれ」
「それ以上の行為は絶対に許さん。わかったな」
「ああ」

少しでも力になれた事は嬉しい。満面の笑みで彼を見れば、目尻の下がった優しい顔でゆっくりと腹を撫でていた。
支配者ではなく、優しい母親の顔に懐かしさと愛おしさがわき上がる。両親の顔は覚えていないが、こういう優しい表情をするのだろう。思わず見とれていると、視線に気がついた皇帝が無表情で睨み返してきた。
恥ずかしいのだということはわかるが、もう少し笑っていてほしい。それが本音だ。

「笑ってくれないのか」
「何故笑う必要がある」
「俺が見たいからだけど」
「笑え、と言われて笑えるわけがなかろう」

失笑をされてはもう何も言えない。彼らしさを失わないのも魅力の1つだ。
太陽も高く昇り始めたし、食事の用意をしよう。何も告げずに踵を返せば、魔力の風が優しく頬を撫でた。振り返る必要もない。傍らには滑るように並ぶ彼が見えたのだから。

「どこへ行く」
「食事の準備だけど」
「私は酸っぱいものがいいぞ」
「わかった。待っていてくれ」
「私の勝手だ」

痛いのか重いのか、腹を優しく撫でる姿に微笑む。子を慈しむ王の表情がまた綺麗で、思わず手を伸ばす。
払われるかと思った手は、無骨な手と重なる。絡まる指からは怒りも苦痛もなく、そこにいるのは暴君ではなく1人の母親だった。

++++
17.3.18

[ 742/792 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -