えふえふ | ナノ



孤高な王の愛情表現法

※オメガバース設定がベース
※妊娠ネタ
※捏造あり



最近、皇帝がやたらと気だるさを訴えていたとは思っていた。
面倒くさいや、億劫だと、マイナスの言葉を言うのは混沌では当たり前であったし、いつものことかと軽く流していた。
違和感を感じ始めたのは数週間が経ってからだった。
やたらと酸っぱい物を欲しがるし、動くこともめっきりと減った。立っているだけでも眉を寄せていたし、怒る回数も増えた。
それでもまたいつもの癇癪か、と流されていたのだがまた日が経ってから状況は一変した。
今度は体型に変化が現れたのだ。正確には、腹に。太ったというには不自然な膨らみ方に、皆は悟った。
彼は、妊娠していたのだと。
相手のことは頑に口にしなかった。庇っている、というよりも純粋に言いたくないのだろう。「何故貴様らに言わねばならん」と鼻で笑われもした。
だが大体の予想はついている。父親は宿敵である秩序の戦士の1人、義士の名を持つ青年であろうと。

この世界は神々の戦争の盤上である。
戦士たちは駒にすぎず、プレイヤーである神々が死なない限り、このゲームは終わらない。永遠に続く戦いの一部にすぎない。
秩序と混沌、2人の神に与えられた戦士。戦う宿命。
しかし、実はその裏にはもう1つの顔があった。
戦士の中には、失われて見つからない者も出てくる。永遠に近い間続けられた戦いだ、子供が玩具をなくすように、完全に消える者もでてくる。
そんな時の応急処置が“駒の量産”である。
より強い駒を楽して手に入れる、それがゲームの必勝法である。そこで実行されたのが戦士同士を配偶者とする行為だった。
本来は雄と雌が交わって子を成す。それは異世界でも共通の認識であり、常識である。
しかしこの世界は違った。
天敵同士、基力の拮抗した者同士で優劣を決め、優位に立った方が相手に種を植えて繁殖する。男でも女でも、そんなものは関係ない。成された子は、優位な親の元戦士となる。要するに勝った陣営の駒が増えるということだ。
その為に宿敵同士を“つがい”と呼び、逃れられない宿命としてその関係を受け入れる。一度勝負が決してしまえばどれだけ抵抗しようとも、体は敗北と宿敵を受け入れてしまう。
1つのゲームが終わると、ほとんどの者が記憶を消されてしまう。この屈辱的かつわかりやすい方程式を知る者は、少なくない。


「貴方、負けたのですか」
「違う」
「ならば何故腹に子など」
「実験だと言っている」

また癇癪を起こしそうなほどに怒る皇帝を見て、皆は距離を置く。面倒に巻き込まれるのはごめんだ。アルティミシアもこれ以上の詮索はやめて早々に姿を消してしまった。
残された面々を思い思いの所へと散っていくなか、1人皇帝に近づく者がいた。

「皇帝」
「なんだ。貴様も私に指図するのか」
「違う。その、それ、君の宿敵との子?」

言いにくいというよりは怯んでいるようだ。クジャの指の先には、命が宿り膨らんだ腹。気にした様子も恥ずかしがる様子もなく、皇帝は初めて「ああ」と肯定した。
ここで初めて皇帝の表情が和らいだ。その表情は屈辱でも絶望でもない。ただ紅潮した頬を皆に見られぬように隠し、気丈に振る舞っていた。実験なんて嘘だ。きっと互いに合意して成したことだ。
皇帝を一部始終観察していたクジャが、言いにくそうに口を開く。

「相手がつがいなら、子供が出来るのかい?」
「そのようだな」
「……そう」

何かぼやいていたと思えば、クジャも静かに姿を消していった。確かクジャも宿敵に対して特別な感情を抱いてると聞く。
だが興味はない。残された皇帝は億劫に城の玉座へ向かう。深く座り込むと、やっと息をついて頬杖をつく。
魔力がある為に補助は出来るが、腹が重くなって体を支えるのが面倒になっていた。座っている時が一番楽だ、と誰もいないパンデモニウムの城を仰いでいると、遠くから走ってくる青年の姿を見た。

「皇帝!」

見間違えるはずがない、あれは宿敵である義士だ。
必死の表情で、息も荒いということは、近くのテレポストーンから走ってきたのだろうか。何をそこまで急いでいるのかは知らないが、動くのも面倒だ。玉座にふんぞり返って待っていると、傍までやってきてフリオニールは安堵の笑みを浮かべた。

「最近全然姿を見せなかったな。どうしたんだ」
「貴様には関係のないことだ」
「ある。だって心配だろ」

真っすぐな好意は心地がいい。素直なフリオニールに後ろめたくなり、目線をそらせば短い悲鳴が聞こえた。
何事かと思い視線を向けると、赤い顔が一点を凝視してわなわなと震えている今更どこを、というのも野暮だ。

「お前、その腹……」
「ああ」
「ああ、じゃないだろ! ふ、太った?」
「粉みじんにされたいか」

パニックになるフリオニールを他所に、皇帝は至って冷静である。足は上品に前に揃えられており、片手は腹を支えるように、慈しむように動いている。

「それ、もしかして俺が……」
「覚えているなら責任をとれ」
「でもお前男なのに!」
「知らなかったのか虫けら。この世界ではつがいならば子を成すことを出来る」
「なら先に言ってくれ! そうすればちゃんと、外に……」
「わかっていて中に出させたと言ったら、どうする?」

挑戦的に笑う皇帝に、フリオニールは焦るばかりだ。いや、でも、と何かを弁解しようとしているが、熱くなった頭ではどうしようもない。

「ただの実験に何を慌てている」
「それは混沌側の能力なのか?」
「この世界の駒なら誰でもありえることだ」
「なら、お前が俺に……ってこともあり得たわけだよな」

そこまで言われて、皇帝がやっと気がついたようだ。
自分でなくても、相手を孕ませるという手があったということを。
しばらくの沈黙が流れ、誤摩化すように咳払いが聞こえた。

「とにかく。責任をとれ」

責任を、と急に言われてもどうしていいかわからない。フリオニールも困惑して皇帝と腹を見比べるだけだ。傍に座り込んで、腹に触れてみる。少し動いた気がして驚き体を引く。

「生きて、るんだな」
「何を当たり前のことを」
「実感がわかなくて……」

やっと状況を認めたらしい。フリオニールは決意を固めた表情で皇帝を真っすぐ見つめてきた。

「一緒に住もう」
「は?」
「一緒に居たら、いつでも助けられる。何が起きてもすぐに対処できる。だから一緒に住もう、皇帝」

責任を取れとはいったが、何もそこまで重くとらえろとは言っていなかった。ただ困らせてやろう、という気持ちで軽く言ったことが、ここまで大事になるとは誰も思うまい。
しかし今更前言撤回出来るような空気でもないし、フリオニールは多少堅いところがあるために、更なる誤解を生むかもしれない。
困惑して握られた手を振り払うかどうか思案していると、ゆっくりと口づけられる。

「大丈夫だ、幸せにするから」

幸せに、なんて何年前に聞いただろうか。
ガラでもない台詞にときめきよりも先に、困惑と悔恨。
暴虐の限りを尽くし人々を苦しめたが、それでもこの青年は何も言わない。世界によって記憶が曖昧になってはいるが、その程度で恨みが消えるわけがない。それでも、天敵でも傍に居ることが当たり前になってその距離を許してしまっていた。
いつからこうなってしまったのだろう。
むずかゆい関係に、今更頭をかきむしる。それでも現実と状況と、腹に宿った命は変わらない。

「辛くないか? しんどくないか? 俺は何をすればいい?」
「まずは黙れ。話はそれからだ」

素直に言うことを聞くのは、支配したような気分になりきもちがいい。
だが、本当に支配されたのはどっちなのだろうか。真っすぐ見つめてくる目にいたたまれなくなり、咳払いを1つ。

「水をもってこい」
「ああ。他には」
「肩を揉め」
「わかった」
「随分素直だな」

無理難題を押し付けても、嫌な顔1つしない。それどころかフリオニールは微笑んでいた。

「皇帝」
「なんだ」
「好きだ」
「何をいきなり……」
「だから、元気な子を産んでくれ」
「気が向いたらな」

本当は、フリオニールの間に子が欲しかったのは皇帝の方だ。
形になる物が欲しくて、所有物の証が欲しくて、騙してまでして抱かせた。言われたように、皇帝がフリオニールを孕ませる手もあったが、ただ“その腕に抱かれたい”としか考えていなかった自分に嫌悪感がわいてくる。
好き、と言うにはこの感情は穢れている。
騙してでも、どんな手を使っても手中に収めたい、縛り付けたい。これは歪んだ征服欲だ。

「そういえば貴様、童貞だったな」
「そ、そんなことどうでもいいだろう!」
「ふふ、お前の初めてはこの私になるのか。感謝するといい」
「何を偉そうに! でも、お前が初めてで嬉しいよ」
「そこまで素直だと気持ちが悪いな……」
「お前が言ったんだろ!」

真っ直ぐな好意が照れくさくて、むずがゆくて。
思わず顔を逸らすがフリオニールが笑っている気配がする。恥ずかしさで死にそうだ。

「なあ」
「なんだ」
「また、その、お前と……」
「なんだ。発情したのか家畜風情が」
「ち、違う! いや、違わないところもあるけど……」

欲望のままに行動しないのは、混沌の戦士とは違うところだ。悪く言えばヘタレではあるが、そんなところも嫌いではない。
真っ赤になるウブな青年をどうからかおうかと考えていたが、自然と微笑んでいた。

「今晩、また相手をしてやろう」
「えっ、でもお前、腹」
「あまり激しくなければ大丈夫だ」

本当に大丈夫か、なんて知らない。ただそうしたかった、刹那主義の返答にすぎない。それでも詮索もせずに顔を赤くして笑うフリオニールが可愛い、と思ってしまい慌てて眉間にシワを寄せる。
わかっている。
この気持ちが、愛と呼ぶものだということを。
わかっている。
触れたいと思っていたのは自分の方であること。
だがそれを認めるにはプライドが大きすぎる。
その気持ちを知ってか知らずか、フリオニールは愛おしそうに皇帝の腹を撫で続ける。腹の子も父親がわかるのか、応えるように腹を蹴ってくる。
まったく、誰に似て利口なのだろう。慰めるような2人の行動に、思わず礼を言ってしまった。

「好きだ」

と。

+END

++++
何故か妊娠ネタ

16.8.3


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