えふえふ | ナノ



love and jealousy

※ジタクジャメイン、クラセフィあり(リンク)





「ねぇ、まだ?」
「まだです。もう少しお待ちなさい。」

退屈そうに足を揺らすクジャに、アルティミシアはきつい言葉を返した。
数時間前、彼女に会ってからずっと座りっぱなしである。なにもしていないが、なにもできないのも疲れるものである。
一体こんな長時間何をしているのだろう。グツグツと煮たっている鍋から溢れる異臭に、眉をひそめて袖で鼻と口を覆う。
こう見ると本当に彼女は魔女だと思う。

「出来ました」

アルティミシアが満足そうな表情を浮かべてその液体、彼女としては薬らしいものを持ってきた。

「これが惚れ薬? 飲んでも大丈夫なのかい?」
「私を疑いますか」
「だって色がおかしいじゃないか」
「良薬口に苦し、ですよ。要するに効けばいいのです」
「飲んで毒だったらどうするんだと聞いているんだ」
「貴方の悩みを解決してあげているのですよ」
「死にたいなんて言ってないだろう」

最近、いや前からジタンが冷たい。それがクジャの悩みだった。
抱きついても、好きだと伝えても知らん顔。兄弟から恋人までには昇格されているはずだが、冷たい態度を取られ続ければ自身もなくなり不安が募る。
今日も「好きだよ」と熱っぽく囁いても「あっそ」と冷淡に返されてしまった。振り返ることなく、仲間に呼ばれたと秩序の聖域に真っ直ぐ進む彼を止める術なんて知らなかった。
どうすればいいのだろうか、立ちすくんで悩んでいると珍しくアルティミシアが声をかけてきたのだ。覗き見ていたのだろう、楽しそうに笑う姿は嫌がらせ以外の何物でもない。警戒はしていたが、半ば無理矢理尋問される形となってしまい、このような結果を招いたのだ。

「まあ、飲むのはジタンだし」
「誰が猿に飲ませろと? 貴方が飲むのですよ貴方が」
「は?」

突然の言葉に唖然としつつも身の危険を感じて後ずされば、時間を止められてしまったらしい。真横で彼女が微笑んでいた。

「大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なのさ。薬の意味がないじゃないか」
「誰があの少年を見ろと?」
「・・・・・・え?」

ポカンと間抜けに口を開いた途端に薬を流し込まれてしまった。
喉へと流れ込む温かいのか熱いのかわからない液体が喉を這うように降りてくる。
当然むせるが、口を塞がれて吐き出すことは許されなかった。

「死にたくなければ飲みなさい」

押し倒され、段々苦しくなってくる。だが目の前の彼女を見るのは嫌だ。Sっ気のある彼女を好きになれば何をされるか気が気でない。
苦しくなり飲み込んでしまったと気付いたのは、我に帰った後だった。みるみるうちに青ざめていく。

「い、嫌だ嫌だ!! 君とかガーランドとか絶対嫌だ!!!」
「悪いようにはしません」
「嫌だ、ジタン、ジタンっ!!」
「あの小猿の坊やは意味がないでしょう。・・・・・・あら」
「ボク絶対目開けないからっ」
「何だ」

聞き覚えのある声にビクッと体が跳ねた。声だけというのはここまで恐怖が増すものだろうか。背中から這い上がってきた気味の悪さに身体を震わせて硬直してしまった。

「いえ。ちょっとしゃがんでくれるかしら」

ニコリと笑った彼女の澄んだ声から、恐怖以外感じられなかった。
これからどうなるか、願わくはくば記憶は消えていてほしい。


*

ここ一週間、ジタンは何をしても空を見上げていることが多くなった。
空は雲がゆっくりと流れ、鳥1匹飛んでいない。それでも何かを探すように周囲を見回す彼に、一緒にいた2人すら心配してしまう。
声をかけても空返事だけしかこないのだ。元気印から明るさが消えたら誰でも不安になる。

「どうしたんスかジタン」
「腹痛いのか? それとも晩飯の心配か?」
「なんでもねえよ」
「何でもない奴はそんな不機嫌にはならないっての」

眉間のシワを強く突けば、更に眉を寄せて不機嫌を露わにする。
ティーダもため息を着きながらボールを脇に抱えて頭をかく。さすがのバッツもしかめっ面をする。

「クジャのことだろ」

無言でバッツを睨みつければ、ティーダが息を飲み後ずさった。
怒っているわけではないが、図星を付かれて誤摩化す事に必死になってしまった。それすらも彼にはお見通しだろう。意気投合をして一緒にいただけ、互いの考えはお見通しである。

「照れ隠しに冷たくしてたクセに」
「……アイツは限度知らねぇから」
「相手の気持ちも考えてやれよ」
「それにしても、最近見ないっスね」

冷たくしてしまったのは本心ではないが、傷ついているのは本心である。バツが悪くなり視線を泳がせれば、クラウドの声が聞こえてきた。

「最近セフィロスも静かだが、クジャが関係しているらしい」
「クジャが?」

焦っておうむ返しをすれば、不機嫌ながらも彼は小さく頷いた。彼とセフィロスは恋仲だと聞く。相手を盗られて面白くないのは誰だって同じだ。
不穏な空気が2人から流れ始めてバッツたちは顔を見合わせて頬をかく。

「あ、噂をしてたら2人発見」

なんとか場を和ませようとすれば、噂の2人がやってくるのが見える。
べったりと腕同士を組もうとまとわりつくクジャに、心底鬱陶しそうなセフィロス。
相手なんてどうでもいい。恋人が、自分以外の相手の前で幸せそうに笑っているのが気にくわない。足元の石を怒りに任せて踏み飛ばしている間にも、2人は近づいてくる。

「いい加減ついてくるな。クラウドの前だ」
「関係ないよ」
「鬱陶しい、邪魔だ」
「またまた。心もにないことを」

言われたようにクジャはセフィロスに猫なで声まで使っているが、彼は拒絶を示している。浮気、というには様子がおかしいが、そんなことはジタンには関係のないことだ。
ティーダ達はジタンの表情に怯えて近づいてこないし、クラウドの無表情からも怒りを感じる。セフィロスが無理矢理にクジャを引きずって目の前にくると、髪を引いてこちらを向かせようと努力している。
指された方向へいいものがあるとでも思ったのか、輝いた目で指を追ったのはいいが、先にいた不機嫌な彼らの姿をみて「あぁ」と無表情で呟いた。あからさまに落胆する姿に短い返事。すぐに興味を失ってセフィロスに抱きつく腕に力を込めた。
唇を強く噛み締めたことで、血の味がした。

「クラウド。外してくれ」
「それはジタンの役目だ」
「……怒っているのか?」
「別に」

ジタンではない、クラウドへと嫉妬の視線を向けた姿に顔が熱くなった。
嫉妬の視線が交差する空間は、どす黒い殺意すら渦まく。関係のない2人は既に逃げてしまい、姿はない。
最初に動いたのはジタンだった。肉食獣が獲物を追いつめるように、ゆっくりと2人との距離を詰めてくる。その表情は暗く、普段の快活さからは全く想像ができなかった。

「クジャ」
「なんだい」
「何のつもりだ」
「離してよ」

乱暴に掴んだ手を冷たく払いのけ、睨み付けられる。
この目を知っている。和解してない時の、この世界で初めて会った時の敵を見る殺意と侮蔑の混ざった瞳だ。相手を嫌悪し、憎悪し、呪うかのような暗い光を宿した瞳は、最早恋人に向けるものではない。

「オレのこと嫌いになったのかよ」

ショックで自然と距離をおく足に満足したのか、再びセフィロスにまとわりつく白い腕。
忘れてしまったのだろうか、嫌われたのだろうか。何が起こったかわからない。強気な態度は吹き飛んでしまった。
知りたい、いや知りたくない。2つの気持ちが交錯して嘔吐感が襲ってきた。
そんなジタンを見かねたように、セフィロスも冷たく腕を振り払った。

「離れろ」
「ヤダね」
「そろそろ斬るぞ」
「なにさ、そんな言い方しなくても」

本気の目に生命の危機を感じ、さすがに離れざるをえない。
拗ねた子供の表情を見せても、彼の視線はクラウドに向いて動かなかった。
クラウドはセフィロスへと振り返らなかった。冷たい表情で何も生えていない荒野を見下ろすと、わざとらしく息を吐き出す。
機嫌を取ろうと近寄る手に腕を伸ばしたクジャだが、突然腕を掴まれてそれは敵わなかった。

「ちょっと来い。話がある」
「離してよ」
「いいから来いッ!」

脅迫と殺意に怯んだ瞬間に、乱暴な力で白い腕を強く握りしめ引きずり始める。まるで女のように細い腕。強く握るだけで折れてしまうだろう。
それでもいいかと思った。壊して、拘束して、離さないように閉じこめてしまえばいい。
自然と浮かんだ冷たい笑みに、クジャの体が強ばるのが伝わってくる。彼らには誰も声をかけることは出来なかった。殺意と困惑の入り交じるギスギスした空気をまとい、ジタンの私室へと消えていった。


**

私室につくと乱暴に白い腕をベッドへと放り投げた。咄嗟で受け身も取れなかった体は、容易に安っぽいシーツへと仰向けになって沈んでいく。
睨みつけてくるが痛みで潤んだ顔では逆効果だ。サディスティックな心が刺激され、思わず舌なめずりをして上着を乱雑に放り投げた。

「何の嫌がらせだ」
「何が」
「冷たくしたのは認めるけどな。やりすぎだ」
「は?」
「いい加減にしないと怒るぞ」


眉を寄せて白を切る恋人に、ジタンは肩に強く掴みかかった。痛みで顔を歪めても関係はない。
互いに怒りの頂点になり、トランス状態になっていた。ホーリーを使役しようとする細い指が円を描いて踊り、ピンクの尻尾は床を打つ。

「その言葉、そのまま返そう。君に用はないよ」

冷たい一言がとどめだった。思いのままに飛びかかると、勢いと鍛えて程よく筋肉のついている体と、美を追求して細く女のような体。勝敗なんて初めから決まっていた。

「退いて、離してっ!」
「煩い。少し黙れ」

閉じた薄い唇に唇を合わせ、乱暴に貪る。
意地でも唇は開かないが関係はない。それならば強姦でもするように嬲るだけだ。下で形のいい唇をなぞり、唾液で汚していく。気持ちの悪さに唸り声が聞こえるが、声を上げれば舌が入り込むのは誰でもわかる。もがいても腕は抑え込んでいる為に魔法も打てない。優位に立っているのはジタンだった。
諦めが悪いのはお互い様。一歩も引かずに執念深く舐め続けていると、空気を得ようとうっすらと唇が開かれた。
好機を逃すわけがない。
無理矢理舌でこじ開けると、捩じ込み口内も犯していくと苦悶の声があがった。
抵抗をされても止める気は更々ない。追いうちをかけて激しく、舌を絡ませ濃厚な口付けへと変えて味わい意識を奪い尽くす。意識が朦朧として、抵抗する力が失われていくのを合図に、更に深く唇を重ねて舌を絡めてやれば透明な涙が頬を伝った。声もなくポロポロと泣く姿を見て、やっと罪悪が湧いた。
ゆっくりと離れると銀色の糸が2人を繋いだ。

「っは、懲りたか?」

解放してやれば苦しそうに息つぎを繰り返す。桃色に染まった顔で睨み付けてられても興奮するだけだ。
組み敷いたままで様子を見ていたが、酸素を求める薄い唇が開閉を繰り返すだけで、言葉は紡がれない。

「何でこんなことしたんだ。言えよ」

息継ぎも待たずに胸ぐらを掴み、顔を近づけると嫌悪感で綺麗な顔が歪み金切り声で叫ばれた。

「ボクの勝手だ、放っておいてよ!! 君こそ何でボクにこだわるの!?」

胸を強く押しながら顔を反らして喚き散らす。明らかな拒絶を表す行動に怒りがわき上がるが、それよりも困惑が強くなる。
嘘ではないこの言葉からは、悲痛な想いが汲み取れた。まるで、心に詰まっていた本音を吐き出すような音だ。
目尻からは彼に負けない綺麗な大きな雫が流れ落ちた。

「君は女が好きなはずなのに! なんでそこまで執着するんだよ!!」

ずっと彼の中で渦巻いていたものは「不安」だったのだ。
告白をしたのはクジャではあるが、何故了承してくれたのはわからなかった。一緒に居ても何をするわけでもない。性的な目でしか見ていない、というわけではないから幸せと言ったら幸せだろう。
だがそれが逆に心配と不安と、怒りを産むのを知らなかった。
同性だからこそ、障害は沢山ある。ましてや兄弟であり戦うべき相手だ、何か裏が有るのではと疑ってしまうのが普通とも言える。いつも冷たい態度をとられたら尚更である。
からかわれているとなれば、憎悪すらわき上がる。今のクジャはそんな疑心暗鬼に捕われ、自分では抜けられない負の感情に取り憑かれているようだった。

「綺麗だから間違えた? でも残念だね、僕は男さ! さっさと女の元へ行ってしまえ!」
「落ち着けよ」
「うるさいうるさい、うるさぁい!」
「女の子は勿論好きだけど。強がってて、繊細なお前が好きになったんだ。しょうがないだろ」

いつも素直になれなかったのは困惑もあった。
確かに女性が好きだ、それは変わらない。男を見ても恋愛感情はわかないし、女性を見れば興奮する。胸にも興味はあるし、性行為にも興味津々だ。子供も嫌いではない。でも。

「でもクジャが好き。それは理屈じゃ測れない」

見開く目の中に青く輝いている瞳。涙を拭って大人しくなった彼の頬を優しく撫でた。

「不安にさせたな。ごめん」
「うるさいっ」
「怒られることをしたのは謝る。ごめん」
「今更だけど、……嬉しい……」

拒絶に使っていた腕を愛情表現に使うべく、首に抱きついてきた。態度の豹変っぷりに追い付けずに驚くが、きっと事情があるのだろう。憑き物が落ち、まだ困惑する彼の背中を優しく叩くと嗚咽が上がった。

「ジタン、ジタン……っ」
「俺しかいないからな。泣いていいぞ」
「うわあああああああ」

弱い感情を殺している彼の心の叫びを初めて聞いた。
化粧も気にせず子供のように泣きじゃくる彼の体を抱きしめながら、背中を擦ると更に声が大きくなる。
とりあえず泣き止むまで問い詰めるのはよそう。慰めるのには数時間かかったかのような錯覚さえ覚えた。いっそ、このまま時間が止まってもいいかもしれない。弱々しく服を掴む手を見て、そう思った。

「落ち着いたか?」
「……うん」

目を真っ赤に腫らして照れ隠しを望む恋人を腕の中に抱え、背を優しく撫でる。普段はクジャが飛んでいる為にわからないが、身長はさほど変わらない。だからこうやって対等になれる地面で、2人で抱き合う時が好きだ。照れくさいから口が裂けても言わないが。
さて、普通に会話が出来るくらいには落ち着いてくれた。ならゆっくりと話をしようと思う。聞きたい事は山ほど有るのだから。

「さっき何でセフィロスにベタベタしてたんだ」
「……オバサンに惚れ薬無理矢理飲まされて、あろうことかあんな奴を見てしまうなんて」

心底嫌そうに、吐きそうな顔で呟く彼に苦笑をする。確かに彼らは普段、顔を合わせる度に啀み合うほどに仲が悪い。かなりおかしいとは思ったが、頭に血が上っていてまともな判断が出来なかったようである。
疑ってしまった事にも罪悪感が湧いてきた。

「薬切れる時間聞いてなかったけど」
「ナイスタイミングだったな」
「薬のせいでも酷いこと言った、よね」
「いいさ。信じてたからな」
「ジタン・・・・・」
「オレもごめん。今まで正直になるのが恥ずかしくて、不安にさせたな」

笑いかけると赤い頬で頷いた。本当に可愛らしくて自慢の恋人である。ベタベタしてくるために、年頃の少年にある恥じらいと、仲間に対する罪悪感に苛まれていたのだ否定しない。それが今回の事件を生んだとなれば反省しなければならない。
頬を撫でれば、猫のようにすり寄ってきた。そのまま優しく唇を重ねてフレンチキスを繰り返す。
もう苦しませたくない。その一心で表情を伺いながらゆっくり、ゆっくりと繰り返した。嫌がる様子もなければ嬉しそうに微笑んでくれるのを見て安心した。仲直りは無事に終わったところで、肩を抱き寄せて満面の笑みを浮かべる。

「じゃあ続きすっか!」
「続き?」
「俺たち、キス以外は何もしてないからな」

生真面目すぎるウォーリアに怒られるということも理由の1つだが、もしかして受け入れてもらえないんじゃないかという不安もあった。経験をしたことがないから苦しめるかもしれない、そんな不安に駆られると手を出そうにも出せなくなってしまった。
それでも、抱きたいと思った。早く心も体も奪ってしまいたかった。

「痛くしない?」
「任せろ! って、ちょっと自信ないけど」

首に巻き付いてきた腕に応えるように体を姫のように抱き上げると、額に口づける。クスクスと笑いながら白い頬をピンクに染める顔に見とれていると、嬉しそうに抱きついてきた。

「君になら、ボクの全てをあげる」

嘘偽りのない言葉には、最高の笑顔がついてた。








クラセフィ

2人の間には、重苦しい沈黙が流れていた。何も言わずに進んでいくクラウドの後ろを、同じく何も言わないセフィロスがついていく。
どこへ行くのかも、目的もわからない。ただ進んでいくだけの彼の背中は怒気すら孕んでいた。
確実に、先程の光景に対して腹を立てている。普段はクールで文句も言わないが、熱いものを持っているし嫉妬だってする。怒れば何をするかわからない不安定さもある。それに、惚れ薬の存在を知らないとなると、あの光景に対する不快感は、浮気へと疑惑へと変わるだろう。心中は察する。
だから、甘やかしてきた。年上だから、という妥協もあるし、不安定な彼が心配だったというのもある。それが裏目にでたのだろうか、子育てを失敗した親のような気持ちになってきた。
どこへ行くのだろうか。別に人気のないところへ行こうが、何をされようが我慢は出来る。だが何も言わずに時間だけが過ぎるのはいただけない。
そろそろ進展が欲しい。距離を詰めて腕を掴もうとした。が、突然振り返った無表情に動きを止められてしまった。

「あれはクジャが勝手にやったことか」

無表情で淡々とした声だが、殺意すら伝わってくる。彼には特別な感情を抱いていないし、興味すらない。突然魔女に声をかけられ、この一件に巻き込まれた被害者はセフィロスの方である。
言いたい事は山ほど有るが、逆上した彼が話を聞いてくれるかどうかはわからない。聞こえないようにため息をつくと、ツンケンした髪の毛を落ち着かせる。

「あれは奴が勝手にしたことだ。事情は魔女に聞け」
「魔女?」
「奴が何かしでかしたようだ。私はそれ以上は知らない」

「誤摩化されているのでは」と鋭くなる目だが、本当の事を言っているのだからこれ以上は何も弁解はできない。信じてくれないのは寂しいが、浮気だと疑われているのなら仕方のないことなのかもしれない。
なかなか嫉妬深い所もあるのだ、と感心していると大胆にも抱きついてきた。
ここは秩序と混沌の間の、殺風景な平野だ。いつ人の目につくのかわからない開けた場所である。それでも手の力は緩まず、拘束してくる。

「なんだ」
「お前を信じる」
「なら離せ。痛い」
「先に消毒だ」

胸に頭を擦り付けられたと思えば、次は腕を乱暴に引っ張られバランスを崩す。
消毒と言われても身に覚えはないが、逆らえば後々面倒になるのはわかっている。おとなしく後ろへついていくと、気が急いてきたのか足が速くなる。

「どこへいく」
「風呂だ」
「まだ陽も高い」
「消毒だ」

彼の中では一刻の猶予もない緊急事態らしい。わかりやすい嫉妬が愉快になってきた。静かに笑いながら急ぐ青年に付いていく。

「お前にも嫉妬などという感情があったのだな」
「お前に関してだけだ。他には興味ないね」

振り返らないのは、焦っているのか照れ隠しか。今はわからないが、目的にへと付けば時期にわかるだろう。

+END

++++
惚れ薬はこう使ってもいいかも

09.9.8
修正:17.4.14


[ 743/792 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -