▽ロボット怜ちゃんと寂しがりまこちゃん


研究途中で廃棄され、不完全だった僕を、貴方は拾い上げてくれた。家に迎え入れてくれて、人として生活させてくれた。受け取ったものが多すぎて、返すことが追いつきそうにないと言った僕に、貴方は笑ってこう告げた。
「レイは毎日俺にご飯を作ってくれてるじゃないか。それで十分だよ」
食事は確かに用意しているけれど、機械のこの身ではレシピ通りに作るのが精一杯で、味見も出来ないから本当に美味しいのか分からない。そもそも、美味しいという感覚がどういうものかさえわからなかった。貴方はいつも、美味しいと言って残さず食べてくれるけれど。
僕は、貴方に何かを。僕にとってかけがえのない何かを差し上げたいのです。
人間にとってかけがえのないものとは何なのでしょう。
欠落したデータベースには無かった答えを、僕は貴方に求めた。貴方は驚き、考え込んで、つまり人間がそうする時の仕草をして、シリコン製の人工皮膚に覆われた僕の手を掴む。
「……ずっと、一緒にいてくれる?」
「ずっととは、いつまでですか。貴方の意識が喪失するまで、即ち貴方が生命維持活動を停止する時まででしょうか」
「それから先も、ずっと傍に」
「了解しました。僕を構成する素体が耐用限界を迎えたそのあとも、僕は貴方と一緒にいます」
「約束だよ、レイ」
「では、指切りを」
少ないデータベースに残されていた情報では、人間は約束のとき、指切りという行為を行うらしい。僕が五指の端の指をそっと伸ばすと貴方の同じ場所が絡められる。
そうして僕たちは約束をした。貴方が死しても、僕が壊れても、一緒に居るという約束を。僕は僕にとってかけがえのないものを貴方に残すことが出来ただろうか。



2013/08/12 19:25


▽声が聞きたい怜真


声が聞きたい、と思った。どうしても、彼の優しい声が聞きたいと思って枕元の携帯に手を伸ばした。慣れた番号に指を添え、考えてから手の中の携帯を元の場所に放り投げた。
「こんな夜中に、迷惑だよな……」
枕を抱きしめてベッドに寝そべる。気温的には暑いはずなのに、今夜はなんだか寒々しくて余計に声が聞きたくなる。
多分、俺は寂しいんだ。こんな夜は誰にだってある。人恋しくて、眠れないような日。俺にとっては今日なのだ。
寂しい、会いたい。せめて声だけでも聞ければきっと眠ることができるだろうに。やり場のない感情をもてあまして、無理やりに目を閉じる。
暗闇に、電子音が鳴った。
慌てて携帯をひっつかみ、相手も確かめず通話を押した。だって、だってこの着信音は。
『……真琴先輩、ですか?』
「うん。怜、起きてたの?」
『こんな遅くにどうかとは思ったのですが、あなたの声を聞かないと眠れそうになかったもので』
申し訳なさそうに怜が言った。俺は思わず少し吹き出してしまった。不審そうな怜にごめんと謝って、
「俺もね、怜の声聞かないと眠れないなって思ってたところだったよ」
笑った理由を告げると、通話口の向こうで怜も俺と同じように小さく控えめな笑い声をこぼした。



2013/08/12 12:56


▽嘘つき怜ちゃんと不安なまこちゃん


不安そうに僕を窺う真琴先輩に微笑みかける。上手く笑顔を作れたと思うが、少しは安心してくれただろうか。
「本当に?俺は、怜を信じていいんだよな?」
「はい、もちろん。僕を信じてください」
信じてください、なんて。どの口で言っているのか。薄っぺらい言葉で真琴先輩の不安を塗り固め、見えないように覆い隠していく。
真琴先輩を傷つけないために僕はどんどん嘘が上手くなった。それを悪いとは思わない。悲しむ顔を見たくないのだ。例えそれで真実を偽ることになったとしても。
震える真琴先輩を抱きしめる。嘘の最後に、本当のことをひと重ねする。
「好きですよ、真琴先輩」
あなたのために嘘をつく、僕をどうか、許さないでいて。



2013/08/12 12:55


▽居眠り中のまこちゃんを見つけた水泳部


「よく寝てるね」
「ええ、よく寝てますね」
「疲れているのか」
「真琴さん、部長なのでなんだかんだお仕事多いですからね。しょっちゅう職員室に呼び出されてますし」
「そうか」
「あっちょっとハルちゃんなにしてるの!」
「真琴先輩が起きてしまいますよ!」
「大丈夫だ」
「す、すごいハルちゃん、音もなく少しも揺らさずマコちゃんを抱きかかえた……!」
「な、なんて羨ましい……!」
「見ろ、可愛い」
「ほんとだー!マコちゃん寝顔かわいいねー」
「確かにこの上ない可愛さです。これは一種の革命だ……!」
「いいからみなさん、部長を静かに寝かせてあげてください!!」
「江ちゃん声大きいよー!」
「……あ、起きた」



2013/08/11 13:40


▽渚くんと童貞拗らせて残念な怜ちゃん


ちょっと下品なのと、怜ちゃんが残念な子なので追記から。
渚くん視点です。



追記
2013/08/11 11:42


▽※意訳:看病してあげる、凛真


待ち合わせ場所に現れた真琴に、開口一番言い放つ。
「お前、何でここに来た」
「え?だって、待合せ……」
「風邪引いてんじゃねえのか」
歩み寄り額に手を当てると、やはりいつもよりずいぶん熱い。けほけほと小さく咳もしている。心なしか少し辛そうだ。
「帰れ」
「で、でも」
「ンな状態で出掛けられるわけねーだろ」
「……うん。そうだね、ごめん。凛」
肩を落とし背を向ける、真琴の腕を掴み引き止める。振り返った真琴に告げる。
「一人で帰れとは言ってねえ」
言外に送っていくと示せば、途端真琴が頬を緩めた。大きな子供の手を引いて歩く。かなり昔に通った道を思い出しながら進んでいく。
「凛とは学校も違うし、お互い部活であんまり会えないから、怒られるって分かってたけど来たんだ。……迷惑掛けてほんとにごめん」
「そんなことだろうと思ったぜ」
「凛が家に帰る頃、電話してもいいかな」
「は?なに言ってんだ」
何を勘違いしているのか、泣きそうな顔をした真琴に言った。
「今日はお前の家にいてやるよ。精々うつさねえように努力しろ」



2013/08/10 20:32


▽まこちゃんは心配性


「マコちゃんのカバンってなんでも入ってるよね」
「そうなんですか?」
「そうでもないと思うけど……」
「そうでもなくないよ!えーと、マコちゃん絆創膏持ってる?」
「うん、あるよ。どこか怪我したのか?消毒液は必要?水があるから少し洗って、大きめの傷ならガーゼとテープもあるから。包帯も一応あるし、冷やすなら冷えピタあるから貼っときな。あ、もしかして打撲か?それなら湿布あるけど」
「うん、やっぱり大丈夫。それよりマコちゃん、ハルちゃんがまたプールに浸かってるよ」
「ええ?!もう、日が暮れてからは身体が冷えるからダメだって言ってるのに!タオルとカイロと念のため風邪薬と、ハルを釣るための鯖とスルメとあとは……!」
「ね?なんでも入ってるでしょ?」
「はあ、確かに……」



2013/08/10 20:31


▽思わず買ってしまったぬいぐるみ、怜真


訪れ慣れた真琴先輩の部屋に、見慣れないものがあったので、僕は当然ながらそのことについて問いかけた。
「その、ベッドに置いてある黒い犬のぬいぐるみは真琴先輩のものですか」
「えっ?!あ、うん。俺の、だけど……」
妙に歯切れの悪い返事が返ってきたかと思うと、真琴先輩が気まずそうに僕の方から目を逸らした。別に僕は真琴先輩がぬいぐるみを持っていたからといって軽蔑するようなことはしない。そう示すため、
「可愛いですね。特にその赤いメガネがいいアクセントになっています」
とフォローをいれた。真琴先輩が弾かれるように僕の方を見て、一瞬のち顔を真っ赤に染める。
「どうしました?僕はなにかおかしなことを言ったでしょうか」
「や、うん……なんでもない。なんでもないから」
そう言われひらひらと手を振られたけれど、耳まで赤くしておいてなんでもないでは納得できない。真意を問いただすべく、俯く真琴先輩に僕はゆっくりと詰め寄った。



2013/08/10 17:06


▽僕が真琴先輩について知っていること


遥先輩と渚くんの幼馴染。水泳部部長で専門はバック。年の離れた双子の弟と妹がいて、とても面倒見のいい性格をしている。身体があまり柔らかくない。首が弱くてくすぐったがり。幽霊が苦手なのでそういったものに関わる時は人の後ろに隠れ、服の裾を掴む癖がある。好きな食べ物はチョコレートとグリーンカレー。眠る時は背を丸めて縮こまる。泳ぐ姿がとても美しい。ひとつ年下の恋人がいて、その人は部活の後輩で、今これを話している僕自身が実は彼の恋人だということ。



2013/08/10 02:02


▽俺が怜について知っていること


目が悪い。頭がいい。運動神経もいいけれど、水泳はバッタ以外泳げない。二の腕にツベルクリン注射のあとがあって、耳たぶが少し固い。体温は高め。美意識が独特。嫌いなものは自分が美しくないと思うもの。好きなものは自分が美しいと思うもの。ひとつ年上の恋人がいて、その人は部活の先輩で、今これを話している俺自身が実は彼の恋人だということ。



2013/08/10 02:02


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